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イシュバンと9人の魔術師  作者: SHIKI


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18/18

覚醒

『アンドレアスさん・・・。一体ここで何をしているの?』

メディアはなるべく落ち着き、穏やかな声色で緑色の瞳の少年にたたみかける。

『えっと・・・。最近僕も庭の草花の観察を始めたんだけれど、あなたがよくノートに何か書いていたでしょう?・・・ちょっとだけその中が気になって読んでみたくなって・・・。』

アンドレアスは年の割に背が高く、メディアとあまり目線が変わらない。

彼は申し訳そうな表情はしつつも、メディアをまっすぐに見つめる大きなその瞳は、明らかに好奇心の色を示していた。

『名門魔術学校に通っていると聞きましたが、先生方から素行については直されないんでしょうか?

人のものをあさるなど紳士としてどうかと思いますが。』

メディアは少し強い口調で彼を追い払おうと試みる。

一瞬、アンドレアスは少し振り返り机の上に開かれたノートに目をやった。


『あなたこそ、なんだか焦っているようだ。・・・他人に見られてはまずいことでも書かれているのですか?』

メディアは静かに彼の背をにらみつける。

そして、なるべく呼吸が荒くなっていることに気づかれないよう体を硬直させた。

アンドレアスはそのまま振り返ることなく、はっきりとした口調で告げる

『メディアさん。・・・僕、あなたにお願いがあるのですが・・・。』





「・・・・・サム!!」

突然名前を呼ばれてはっと我に返るサム。

ナイフで突き刺した彼の太ももからは赤い血液がどんどんと流れ出ていた。

(・・・これは、洗脳の術式がかけられたのか!?・・・自分の意図と関係ない動きをさせられると聞いたことがあったが、・・・これほど・・・・・までに強力とは・・・。)

声のするほうに目を向けると閉められた扉がドンドンと音を立てている。

だが、魔術がかけられているのかなかなか開けられる様子がない。


扉の外には、サムが叫ぶ声に気がつき飛んできたクローヴィス様が扉を開けようとやっきになっていた。

「・・くそっ!!なんだこの魔術は・・・見たことない術式だぞ・・。」

魔術学校でも教わったことのない、複雑で古い魔術式に焦りを見せる。

そこへぜいぜいと息を切らしたイシュバンがやってきた。

「バカ!!おまえ、寝ていろといっただろ!!」

イシュバンは激しく首をふって近づくと、両手で扉に触れる。


クローヴィス様はイラつきながらもイシュバンの手元を見つめて驚いた。

扉にかけられていた術は光を放ち始めると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「な、なにを・・・。」

目の前に起きていることが信じられず困惑するクローヴィス様だったが、

イシュバンの体に吸い込まれていく光がだんだんと弱くなったところを見計らってクローヴィス様自身も魔術を込めると、勢いよく扉が開かれた。


「サム!!!」

部屋に入ると足を怪我して床に倒れているサムと、そばには強い魔力を帯びたアイラが宙に浮いていた。

クローヴィス様は異様な光景をみて、瞬時に魔術で作った無数の氷の矢をアイラに向けて発射する。

アイラはこちらを振り向くといつもより一層赤黒い瞳でこちらを見つめ・・・向かってきた氷の矢をあっというまに消し去ってしまった。

(アイラの周りに目に見えない膜のようなものがあるな・・・。そこに氷の矢が触れた瞬間蒸発するようになっている。)

クローヴィス様は冷静に分析して、今度は部屋の隅にあった植物の方向に手を向けると、たちまち茎や葉が急成長しアイラに向かって勢いよく伸び始めた。

それを見たアイラは、執拗に追いかけてくる植物の枝先を交わしながらクローヴィス様のもとへ突進する。


突如、アイラの白い髪の束が刃物のように鋭利になりクローヴィス様めがけて鞭のように攻撃を仕掛けてきた。

クローヴィス様はとっさに空中で光を放つ魔法陣を展開し防御をするが、アイラの髪の束が幾本にも重なり攻撃力が増していく。

・・すると防御の魔法陣にだんだんと細かい亀裂が入り始めていった。


「・・・くそっ。」

魔法陣が崩壊しアイラの髪が彼を突き刺そうと一直線に伸びる。

「ぐあああっ・・・!!!!。」

・・・しかし、アイラが体勢を崩したかと思うと、髪の束はクローヴィス様に突き刺さる直前に軌道がそれて反対側の壁にぶつかった。


「・・・!!」

イシュバンは、痛みでもがくアイラの背中から脇腹あたりにかけて数本のナイフが突き刺さっているのに気が付いた。

「・・・ク・・・ローヴィス・・・さま。」

次第に意識が朦朧としていく中、サムは隙を見て袖に仕込んでいた残りのナイフをアイラに放ったのだった。

はじめ、アイラは痛みに泣き叫んでいたが、背中にナイフが突き刺さっていることに気が付いて何か慌てているようにも見えた。


すると、イシュバンの鼻に嗅いだことのない匂いを感じて振り返ると、息を切らしたアンドレアス様が部屋に駆け込んできたのだ。

アンドレアス様はすぐさま状況を察知し、大きな魔法陣を空中に展開した。

彼が放った魔術は目には見えなかったが、イシュバンが再び強い匂いを感じた時、部屋全体が大きく振動してアイラの全身を空気の塊が大砲のようにぶつかったように見えた。

その衝撃で彼女の体は痙攣したかと思うと、そのまま気を失って床に倒れてしまう。


クローヴィス様は事態が落ち着くと、すぐにサムのもとへ駆け寄って傷の様子を確認し治療を始めた。

「大丈夫だ、サム。・・・俺がちゃんと直すからな。」

サムはクローヴィス様が無事なことが分かって安心したのか、青白い顔で少し微笑んでみせる。


そして、アンドレアス様は脱力しているアイラに近づいた。

イシュバンはアンドレアス様の様子がいつもと違うように思い、気になって彼の隣に駆け寄る。

アイラの背中にあったナイフは自力で抜いたのか、背中から血がにじみ出ていた。だが、腹部にはまだナイフが刺さったままだった。

アンドレアス様はしゃがんで腹部に手を当てるとクローヴィス様と同じように治療をしようとする。


魔力の分子が光り輝き、部屋の中を揺蕩う。

イシュバンがクローヴィス様に治療してもらった際にも経験した、暖かな空気が体を包み込む感覚になった。

「・・・アイラ様は、いったいどうしてサムやクローヴィス様を攻撃したんでしょうか・・。」

そのイシュバンの問いかけにアンドレアス様は何も返事をしなかった。

ただ黙々と、自身の妹を助けようとしている。


そこへ、騒動に気が付いた屋敷の者たちがだんだんと集まってきた。

「こ、これは・・・。アンドレアス様、これは何事でしょうか??

ひ、酷いケガをしているようですが・・・。とりあえず医術師を呼びますね・・・!!」

執事長らしい男が部屋へ入ってくると、その様子に血相を変えてすぐに飛び出ていった。

しかし、しばらくしてアンドレアス様はある程度アイラの治療を終えて彼女を抱きかかえる。

「・・・アンドレアス様??」

ようやく声が少し出るようになったイシュバン。

「アイラは大丈夫だ、イシュバン。・・・ただ、君の主人を少しかりるよ。

君も今晩はちゃんと休んでいなさい。それに、サムのこともあまり心配しなくて大丈夫だ。

クローヴィスは僕たち一族のなかでもとくに医療魔術に秀でているからね。」

にっこりほほえんだアンドレアス様はアイラを抱えたまま部屋を出ていこうとする。


「・・・おい、待てよ。」

クローヴィス様は低い声で兄を呼び止める。

「・・・お前、何か知っているんじゃないのか?・・・アイラのこと。」

アンドレアス様はその問いにすぐには答えようとしなかった。

だが、いつもの微笑みを絶やすことなく振り返る。


「・・・・いいや。」










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