Where there's a will, there's a way.
「努力は報われる」・・・素敵な言葉ですよね。
私自身、たくさんの人にこの作品を呼んでもらえるよう、ちょっとずつ頑張っていきます!!(^▽^)/
「サム、ご本を読んで!」
アイラ様は部屋に戻ってすぐさまベッドに飛び込んだ。そして振り返ると、上目づかいでサムのことをじっと見つめる。
「かしこまりました、お嬢様。どのご本がよろしいですか?」
サムは大きな旅行鞄を持ってくると中を開けて本を数冊取り出す。
よその家でパーティなどがあるときは、大抵その晩は屋敷に泊めさせてもらうことが多く、こうして出先でもゆっくりくつろげるように使用人らは主人の私物をいくつか荷物に詰め込んでいるのだ。
イシュバンがアイラに仕えるようになってからは、彼女が無類の本好きだというのを知って出先に数冊本を忍ばせていたのをサムはしっかり把握していた。
「そうねえ・・・これがいいわ。」
彼女が指さしたのはお母上のメディア様もよく読んでいたという童話の本だった。
すると、サムはベッドのわきにあった低い椅子に腰かけ、ベッドに横になったアイラに向かって語り掛けるように本を読み上げる。
「・・・その昔、ある国に貧しくも美しい娘がおりました。
その娘の両親はすでに他界しており、娘は遠い親戚のもとで暮らしていましたが、あまり仲がいいとは言えません。毎日理不尽に怒られて、夜娘は自室に戻ると声を殺して泣いていました。
ある日、娘の働き先に一人の男性がやってきます。その男性は端正な顔立ちにきれいな身なりをしていました。少し観察していると、その立ち居振る舞い、話し方すべてに目を奪われてしまいます。
・・・そこで店主に男性のことを聞いてみると、どうやら地方の貴族の息子だというのです。
娘はそれを聞いて心躍りました。生まれて初めて高貴な身分の人を見たのです。
しかし、それと同時に虚しさを感じていました。あまりにも自分が男性とはかけ離れていたからです。
その日から、娘は家に帰ると聖書を持って教会に向かいました。
〈私に読み書きを教えてほしい。学がない私がとても恥ずかしくなってきたのです。〉
心優しい司祭様は、娘の熱意に応じて時折読み書きを教えてくれるようになりました。
娘の努力は実り、しばらくすると子供向けの童話などがすらすらと読めるようになりました。
そして、しだいに聖書の内容もだんだんと理解できるようになったのです。
次に、娘は自分の訛りの強い話し方を直したいと思い立ちました。
店の客のほとんどが地元の客でしたが、ときおり都会の美しい発音で話す客もいました。
その時は大抵仕事の合間にその客の話を盗み聞きをして、発音や声色を真似して覚えていったのです。
最初はバカにしていた周囲人々でしたが、次第に娘は美しい話し方を身に着けていき、教会の司祭様も納得のいく上達ぶりでした。
するとだんだん、仕事もうまくいくことが増えていきました。自信がついた娘は再度教会へ向かいます。
〈お店に来る貴族の男性と仲良くなりたい。どうすればよいのでしょうか。〉
司祭様はこの質問に対し、静かに首を横に振ります。
〈残念ながら、この国では階級というものが存在するのです。
その貴族のお方とあなたはどうやっても親密になることを許されません。
それは、この世の定めなのです。諦めなさい。〉
娘はこの返答に酷く傷つきました。
どんなに努力をして知識を身に着けても、自身の美を磨いても、貴族の男性と親交を結ぶことはできないんだと・・・・・。」
サムは次の頁を開くと、驚きで目を見開いた。
本来このお話は、貧しい娘が高貴な身分の男性に恋するが、身分の違いゆえに親密にはなれないという悲しい現実を知ってしまうものの、そのあと彼女の努力を見ていた司祭が知人の息子を呼んで、彼女の話をする。
そして、その知人の息子がひたむきな娘に心を打たれて彼女に告白し、幸せに暮らすという流れだ。
現実は厳しいが、努力は必ず報われるという教訓をもとに書かれているこの本、
しかし今サムの目の前には全く別の話が書きなぐられていた。
「続きを読んで、サム。」
サムは一瞬顔を上げてアイラのほうを見る。
アイラは目をつむり、にっこりほほえんで話の先を心待ちにしている様子だった。
もう一度本に目を落とす。
サムは躊躇うような口調で少しずつ話を再開した。
「・・・だが、娘は納得できなかった・・・。」
だんだんと目の前の文字の形がいびつになり、激しい怒りと悲しみをぶつけるような筆跡が続いていく。
「・・・娘は司教が部屋からいなくなると、ふと思い出した。
〈確か、この教会には書庫があると司祭様が言っていたはず。書庫に行けば、何かしら答えが見つかるかもしれない。〉・・・娘は部屋を飛び出し、手あたり次第書庫を探し回る。
ある部屋の扉を開くと、司祭様が仕事をしていた。
〈どうしましたか?何か聞きたいことでも?〉
〈書庫はどこにありますか?調べたいことがあるんです。〉
〈書庫は私たち教会の人間しか入れませんよ。申し訳ないが諦めなさい。〉・・・・・・・・・・。」
「すると、娘は扉の近くにあった花瓶を手に取り、司祭様に近づいた。
次の瞬間、司祭様の顔には赤い花が鮮やかに咲き乱れ、娘はその光景をただただうっとりとした表情で眺める。
すると、司祭様の懐から何かが鈍く重い音を立てて落ちた。
鍵の束だ。
〈もしかしたら、この中に書庫のカギがあるかもしれない・・・。〉
娘はまた部屋を飛び出し、部屋をひとつずつ確かめ歩く。
鍵を差し込みあけると、そこには見上げるほどの本の山が、周囲の壁を覆い隠すほど本棚に隙間なく収納されている。
娘は無我夢中で本を読む。
生物学、化学、天文学・・・魔術書。
娘は初めて魔術書を目にした。そして、この世には一部の人間だけが魔術を使うことができると記されている。魔術書には想像もできないような、不思議な効果をもたらすものばかりが記載されていた。
〈・・・羨ましい。そんな奇想天外な力があるんだったら、あの人を振り返らせる魔術だってあるんじゃないかしら。〉
娘は視線を上げると、一つの棚が目に入る。
本棚の淵には、『何人も触れてはならぬ』と刻印が刻まれた、頑丈な錠のついた扉があった。
娘は鍵の束から一つ一つ錠穴に差し込んでは抜き、差し込んでは抜いて確かめた。
ガチャリ
案外あっさりと錠が外れて扉が開く。
そこには、『禁書』と書かれた魔術書が視界いっぱいに陳列されていたのだった。・・・・」




