疑い
だんだんと不穏な空気がではじめてきます。
・・・ブローシュ家の謎。皆さん、分かりますか・・・?
少しして、サムが医術師とその他数名大人を連れて戻ってきた。
しかし、だんだんと音が遠く聞こえてくると、イシュバンはそのまま意識をうしなってしまう。
・・・次に目が覚めた時、そこは真っ暗だった。
目が少し慣れてくると、イシュバンは見慣れない天井に気が付いてあたりを見渡す。
だれかが客室と思われるベッドに寝かせてくれたようだ。
だんだんと体の感覚が戻ってくると喉が焼けるようだった。
喉元に手をやると、首には包帯が軽く巻かれている。
そして案の定、誰かを呼ぼうにも声がかすれてほとんど出なかった。
(完全にあれは、ボクのことを殺しに来ていた・・・。)
あの燃え上がるような赤い目と、尋常じゃない殺気を思い出すだけで体が震えあがる。
(でも、きっとあれは・・・)
エド様ではなかった。
それだけは直感でわかる。
ブローシュ家はみな緑色の瞳をしているのは、アンドレアス様から屋敷にしてすぐ教えていただいたことだ。そして、アイラ様だけがお母上のメディア様と同じ赤い瞳を受け継いだ・・・。
(あの瞳の色は、まるで・・・アイラ様のようだった・・・。)
イシュバンはベッドから起きると、ふらつく体を壁や家具に手をつきながら扉へと向かった。
ちょうど扉を開けようとした時、運悪く反対側からも扉が開かれておもわずイシュバンは転んで尻もちをついた。
「ああ!!ごめん・・・ごめんよ、イシュバン。ケガはないかい!?」
焦った表情のサムがイシュバンの体を支えながら起こしてくれた。
「げほっ・・・げほっ」
イシュバンはしゃべろうとしたがうまく声が出なかったので、大丈夫だとサムに分かるよう軽くうなずいた。それでもサムは心配なのか、少し涙目になってイシュバンの頭を彼の大きな両手でやさしくなで続ける。
「イシュバン!!!」
次に飛び込んできたのはアイラ様だった。
彼女も泣きそうな表情でイシュバンの目線になるよう床に座り込むと、イシュバンの手を取って握りしめる。
「・・・イシュバン大丈夫なの??まあ、首に包帯が・・・まだ、痛むの???」
じっと見つめてくるその赤い瞳。
イシュバンはとっさにうつむいてしまう。
「どうしたの??わ、わたしが怖いの・・・?」
アイラ様は握りしめていた手をゆっくりとほどいた。
「アイラ様。イシュバンはまだ混乱しているんです。けっして、アイラ様を怖がっているわけではありませんよ。」
サムはイシュバンとアイラ様の間に入って二人を安心させるような声色で話す。
「イシュバン、起きたか。」
クローヴィス様が淡々とした表情で部屋にやってきた。
「ク・・・ヴィス・・・ま。・・・げほっ」
「無理に話すなバカ。余計のどを痛めるぞ。お前はこの部屋から出てくるんじゃない・・・そんあふらつかれてちゃ危ないだろうが。
サム、シャティ姉さんとミラは先に帰らした。
兄さんは・・・エドに話があると言っていたから、しばらくは部屋から出てこないだろう。
俺たちも今晩はここに泊まっていくからそのつもりでいろ。」
「はい、クローヴィス様。」
「・・・サム。わたしのお部屋に来てもらえない?さっきのことがあってなんだか眠れなさそうなの・・・。」
アイラ様はサムのほうを向き泣きそうな表情を見せる。
サムはクローヴィス様に視線を向けた。
「・・・・はああ・・・・・。今晩だけだぞ。アイラを寝かせたらすぐ俺の部屋に戻ってこい。」
サムはにこりとほほえんだ。
「かしこまりました。クローヴィス様」
サムに抱えられてイシュバンは再びベッドに横になった。
気を利かせてくれた屋敷のメイドがお湯を持ってきてくれると、一口だけ飲んですぐ布団にもぐる。
今日はいろんなことがあったせいで体が鉛のように重い。すぐに睡魔に襲われてイシュバンは寝息を立て始めた。
カーテンを閉め切った部屋に、アンドレアス様は静かに椅子に腰かけていた。
彼の視線の先には、サムがかけた拘束魔術によって自由を失っているエド様がソファに腰かけている。
クローヴィス様が放った雷槍によって、一時的に神経麻痺・筋肉硬直を起こし、はたから見るとエド様は眠っているようであった。
アンドレアス様は人差し指をエド様に向けて、鍵を開けるような動作で解術する。
解術したのは雷槍の効果のみ。両手両足の拘束魔術はそのままで、エド様はゆっくり目を覚ました。
「・・・んん・・・。・・・あれ・・ここは??・・・・ってなんで拘束されてるんだ!?」
目を開けたエド様の瞳は緑色だった。
「エド、これからする質問に答えるんだ。いいな?」
今までにない威圧感のあるアンドレアス様の声に、エド様はたじろいだ。
「え?・・・ええっと。わ、わかりました。」
「・・・1時間ほど前、お前はどこで何をしていた。」
「1時間前・・・??。・・ああ、それなら2階の休憩部屋で休んでいました。・・・ぼくはダンスが得意じゃないから、こっそり逃げてきてたんだ。」
「そのあとは?」
「そのあと・・・??。・・・・あれ?なんでだろ、まったく思い出せないや・・・。
気が付いたらもうここにいた、って感じなんだけど・・・。
一体どうしたんだい、アンドレアス兄さん?。怖い顔してないでこの拘束術を解いてくれよ。」
次の瞬間ア、ンドレアス様は突然立ち上がってエド様に近づいた。
そのまま両手をエド様のこめかみにあてると魔術を込め始める。すると白い火花がエド様の頭の周りに飛び交い始めた。
「ぐ!ぐあっ!!」
エド様が白目をむいてのけぞる。
アンドレアス様はしばらく力を込めてからそっと両手を外した。
エド様は白目をむいたままだったが意識はあるようで、アンドレアス様のほうをじっと見上げている。
「エド、もう一度問う。1時間前、どこで何をしていた。」
「・・・いち、じかんまえ、は、にかい、で、やすん、でいた・・・。」
ひとりごとのようにぼそぼそとエド様は話始める。
(・・・嘘はついてない、か・・・。それなら・・・。)
「では、そのあと誰かに会わなかったか。あるいは、2階で魔術の残滓のにおいはしなかったか。」
「・・・ひと、あった・・・。」
「・・・・誰に会った。」
「・・・・あ、いら・・・。」
アンドレアス様は表情を険しくしながら話を続ける。
「何を話した・・・?アイラと何を話したんだ。」
「・・・へや、の、まえで・・・たっていて・・・って。いわれ、た。」
「・・・・一体何のために?」
「・・・へや、はいろうとする、やつ。・・・・ぜったいに、とめて、って・・・。いわ、れた。」
すると突然、エド様の体ががくんと脱力して傾いた。白目はもう向いていなかったが、眠ってしまったようだった。
眉間に手を当てて自分を落ち着かせるように、ゆっくりと深呼吸をするアンドレアス様。
手をおろすと、彼の顔は青白く冷や汗が流れていた。
(・・・アイラ・・・!)
アンドレアス様は勢いよく部屋の扉をあけて出ていった。




