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第62話 罪の清算

「エリザベートはどこなの!? 援護はどうなっているの!?」


 スノーホワイトと戦闘中のカーニャが叫ぶ。


 彼女はエリザベートと同じく叡智主義派閥出身の吸血鬼だった。


 カーニャの人形(ドール)は次々とスノーホワイトの不気味な眷属に破壊され、幹部級の吸血鬼も敗北しつつある。


 スノーホワイトを通常の物理攻撃で殺すことができないのはカーニャも戦いの中でよく理解していた。


 眷属任せに戦闘を行う黒髪の死神、スノーホワイト。


 彼女は既に最低でも二回は死んでいるはずだからだ。


 だからこそ術式による援護なしでは倒し切れないと判断し、エリザベートに助けを求めているのだ。


 だが彼女にその声は届かない。


 エリザベートも殺意に満ちた改造吸血鬼(デミ・ヴァンパイア)に追われていたからだ。


 一矢がロデリックと戦闘をしていた拘置所庁舎。その廊下を不破が駆ける。


 そこはリアルタイムで空間が魔術で拡張され、外からは見えない広大な迷宮と化している。


「しつこい! しつこいしつこい! こっちくんじゃねーよ! わたしの眷属なら眷属らしく命令聞けっての!」


 エリザベートの声には余裕がない。


 用意した術式の全てが打ち破られ、猟犬のようなこの男は的確にエリザベートの逃げた先を追ってくる。


 まるで主従が逆転し、居場所が筒抜けになっているような感覚が彼女を襲う。


 ロデリックからの増援はない。


 元々彼女とロデリックは利害の一致によって行動を共にする仲だったからだ。




 不破が目の前に出現したドアを開ける。罠の気配がするがエリザベートはその更に先にいるのを感じる。


「パンパカパーン! お仲間同士感動の再会ってとこ~? ってことでさあ、そこで死ねよ! 奴隷!」


 不破が対峙しているのはカタストロフィの死体を継ぎ接ぎして作られた怪物。


 血濡れで無理やり接合されているが、霊力からどこが誰の部位か不破にはわかる。


 腕はマイスターとスナイパーのもの。足にはドクターとアサシン。


 残りはシールドの部位が使われている。少女の虚ろな瞳が鏡のように不破を映す。


 少女の目の前に展開されていた防壁が消えた。


 彼女は不破を受け入れるように両手を広げる。死体ではあるが、なるべく苦痛を与えないように不破は一撃で心臓を貫いた。


 彼は血牙を引き抜くと、一言告げた。


「これがどうした」


「はあ? なんで……クソが、イキってんじゃねーよ! 死ねよ! 死ねよ死ねよ! クソボケ!」


 不破の股下から脳天を貫くような血杭が突如として生える。咄嗟の跳躍で回避するが右太ももを貫かれる。


 脚の筋肉に力を込め杭をへし折るが、部屋のドアが消えこの空間に閉じ込められたことを察する不破。


 次々と不破を追うように発生する血杭。


 彼は走り、跳び、転がりながら回避していく。


「アッハハ! お前は一生そこで避けゲーでもやってろよ! その間にわたしは逃げちゃうからさあ!」


 元は血杭とカタストロフィの合成死体で始末する予定だったが、命令を受け付けずに早々に破壊されてしまった。これは彼女にとって想定外だった。


「いや、違う。小規模ではあるが、血界魔術の行使は離れた場所からはできない。そうだろ?」


 そう言うと不破は血杭に追われながら正面の部屋の壁に数本の血牙を投擲し、内部の霊力を乱し暴発させる。


 壁の奥には術式を展開するためのスペースしかない最低限の広さの部屋があった。


 思わずエリザベートは言葉を失う。


 彼女が噛み、吸血鬼にした男が反逆するどころか、自身を追い詰めている。


「なんで!? どうして眷属が上位者に歯向かえるの!? おかしいでしょうがあああ!」


「俺の魂自体はお前の支配下にある。だがお前が混ぜ込んだカタストロフィの、メンバーたちの魂が俺に力を貸している。お前が支配できているのは俺の一部だけだ」


 エリザベートは全てを理解した。


 不破にカタストロフィの血液だけを与えたのが敗因だったということに。


 吸血鬼は多くの命を身体に取り込むが、それは自身を構成するほんの僅かな一欠片にしかならない。


 だが異能者の血を多く取り込んだことで強くなり過ぎた不破にはそれ以上の血液を与えなかったのだ。


 結果、不破に深く同調する魂だけを取り込んだ彼は、全身がカタストロフィそのものとも言える存在になっていた。


 そして取り込んだ彼らの魂が望んだのは「復讐」だった。


 不破は本来エリザベートの眷属として彼女に歯向かうことができないが、それを可能にしたのは復讐を誓う彼に同調するカタストロフィの魂たちだった。


 全身が復讐鬼となった彼は最早命令では止められない。


 一歩ずつ、不破がエリザベートに近づいていく。霧状になって逃亡を図るが不破の防壁によって阻まれる。


 彼女は血の技術を研究する叡智主義派閥の吸血鬼だった。


 それ故に手にした血牙(けつが)も戦士階級のものではない。


 実体化し、防壁の中で小さなナイフを突き出して叫ぶ。


「来るなっ来るなっ来るなあああ! わたしを殺したらどうなるかわかってるワケ!? 眷属のお前もタダじゃすまないんだから!」


 不破は黙って人差し指を突き出す。


「やめて! やめて! ッやめろオオオオオオ!」


 スナイパーの能力で強化された血弾が防壁ごとエリザベートの頭を吹き飛ばした。血だまりの中に崩れ落ちるエリザベート。


 不破も自身の力が急速に失われていくのを感じる。


「これでいい」


 秩序という支配からの脱却。彼らはそれを望んだ。


 それは叶わなかったが、一つの結果として彼らは受け入れていた。


 だが吸血鬼として、奴隷として生きていくのは彼らのプライドが許さなかった。


「これで、いい……」


 こうして吸血鬼としての力を失った不破は人として死ぬことができた。


 人類のために戦った大量殺人犯の魂が救われることは、善なのか悪なのか。


 その答えは最早誰にもわからない。

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