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第63話 壊世計画

 ヘルムヴィーゲの直属、巨漢レグネル・ロートブログの剛拳がまたも空を切った。


 高く跳躍しそれを回避したレナードがレグネルの丸太のような腕の上に立つ。


「苦しかったら権能使ってもいいぜ、オッサン」


 そういうとレナードは腕の上からレグネルの顔を蹴り飛ばす。


 彼の攻撃はレグネルの頭部に集中していた。筋骨隆々の彼を倒すには急所を攻めるしかないと判断したからである。


「お前さんがへばってきて儂に権能を使わせたいだけではないか? 血牙(けつが)を出す言い訳が欲しいだけだろうが」


 蹴られたまま顔色一つ変えずに笑みを浮かべるレグネル。


 そして自身の腕に乗ったままのレナードの足を反対の手で掴もうとする。


 レナードはさらに跳び、巨漢の頭を踏みつけると落下しながらレグネルの頭部を背後から蹴り飛ばす。


 レグネルもすかさず背後に拳を振るが、既にレナードは後方に立っていた。遅れて振り向くレグネル。


「小僧、ちょろちょろ跳ね回るだけが能なのか?」


「オッサンこそ腕をぶん回してるだけで一発も当たってないぜえ。老眼じゃねえのか?」


 レナードは普段の言動とは裏腹に、慎重にレグネル相手に立ち回っている。


 今までの死神を舐めてかかっていたこともあるが、本来の彼の性格は注意深く狡猾だった。


 そして何よりも、対峙している死神レグネルの剛腕は一撃でレナード自身を殺しかねないことを理解していたからだ。


 故に慎重に、一撃離脱を心がけダメージを積み重ねて言っていく算段だったが、想定以上に相手の男はタフだった。


 レグネルは蹴られた後頭部をぼりぼりと掻きながら、レナードを値踏みするような目で見ている。


「次行くぜえっ」


 レナードが一直線に大男の右脇の守りをすり抜け、視界の外に出る。跳躍して再び後頭部を狙おうとした瞬間であった。


「ふんぬう!」


 レグネルが思い切り大地を踏み鳴らした。地面が割れるようにささくれ立ち、彼を中心とした放射線状の地割れが発生する。ちょうど跳び上がったレナードがバランスを崩す。


 レグネルは敵の慎重さを戦いの中でよく理解していた。


 攻撃自体を捉えることはできなくても、予備動作を封じることはできる。


 だからこそ彼が連撃に慣れ始めたこのタイミングで仕掛けたのだ。


 バランスを崩したまま宙に浮いたレナードは両腕から血の刃を生やす。


(素手での勝負は負けたがこんなウスノロ……)


「ぶべえっ」


 レグネルの剛拳が血牙に切り裂かれながらもレナードの頭部を破裂させた。


 力無く落下する彼が再生することのないよう念入りに胸部ごと心臓を踏みつぶすレグネル。


「小僧、お前は筋力が足らん。鍛え直したら化けて出て来い。再戦してやる」


 レグネルは放り捨てた大斧を手にすると、レナードの部下と戦い始めるのだった。




 吸血鬼の墓場と化した戦場で、一人の少女が数百年の生を終えようとしていた。


 名はカーニャ。元は平民の子であったがその容姿を見初められ、貴族主義派閥の家の子として噛まれた。


 そして子どもの姿のまま吸血鬼になった永遠の少女である。


 彼女が先ほどまで戦っていたスノーホワイトは数度の死を経て全ての人形(ドール)を破壊し、守る者のいなくなった彼女を「三回分の死の痛み」の分として散々いたぶると姿を消した。


 スノーホワイトの眷属に片腕と下半身を齧られ尽くし、血も失い再生すら叶わなくなったカーニャに着実に死が訪れようとしていた。


 その時のことだった。


「カーニャちゃん! 死んじゃや~!」


 泣き叫びながらとてとてと走ってくるのは、彼女が最初に作った人形のプロトタイプ。


 彼女が命よりも大切にしている豚のぬいぐるみ「ぶたちゃん」であった。


「駄目じゃない、逃げなきゃ……! 何のために血を分けたと思ってるの……?」


「でもでも、カーニャちゃんと一緒がいい!」


 カーニャがまだ精神的に幼い頃に作った操血人形のぬいぐるみであったため、ぶたちゃんも幼く直接的な感情表現をする。


「静かだわ……みんな負けてしまったのかしら……」


 カーニャは「血戦派」幹部の敗北を理解する。


 一般兵もあらかた始末されてしまったようだ。どちらにせよ血に含まれた霊力を消費し切ればぶたちゃんには生きる術がない。


「おいで、ぶたちゃん……」


「カーニャちゃん! 死なないでね! やくそく!」


「わかってるわ……」


 カーニャは片腕でぶたちゃんを抱きしめると、最後の力でその意識を切断した。


「あなたの前では……ね」


 次第に彼女の目付きが虚ろになっていく。その目に映るのは操血のぬいぐるみたちに囲まれていた日々。


「ああ……みんな……」


 追想の中でカーニャは死んだ。




「案外持ちこたえた方か」


「ええ、ええ。そうでしょうとも」


 ロデリックは幹部たちの反応が消えたのを確認する。


 そして相対するのは宝石に飾り立てられた燕尾服。シルクハットにステッキ、片眼鏡を付けた出で立ちの男。


 サンジェルマン伯爵。


 異能者の血で吸血鬼を強化し、死神と立ち向かうという策を推し進めたのは彼だった。


 伯爵とロデリックが手を組んだ理由は単純に利害関係が一致しているからだ。彼らの関係は遡ること百年近くに渡る。


 吸血鬼たちを死神にぶつけるのは、伯爵にとってカグツチを中心とした計画が失敗した際のサブプランだった。


 「血戦派」頭首であるロデリック自身もそれを了承している。


 魔神によって「神の世」が再来すれば、今この世界を支配している人の力は地に落ちる。


 そうすれば吸血鬼が彼らの捕食者として君臨することなど容易だと判断したからだ。だからこそエリザベートをセクレタリーとして送り込んで計画に協力した。


 だが結局カグツチは負け、吸血鬼を利用したサブプランに移行することとなった。


 その中でのロデリックの働きぶりは完璧とも言っていい。


 一方で、伯爵の目的は混沌とした世の再来。


 それは「神の世」でも「人と魔の世」でもどちらでもよかった。彼はとにかく人が絶対でない世界を望んでいた。


 そしてヘルムヴィーゲが生き血啜り(グール)と化した死神を一斉に浄化し、多数の死神の力が解き放たれたことで東京の霊的バランスは極端に乱れている。


 また、死神の力を取り込んだ吸血鬼たちにもなるべく死んでもらう必要があった。


 ロデリックがヴァルキリー軍の布陣の完成を待っていた本意はその為だ。結果的には包囲の完成前にその多くを始末できた。


 世界を壊すのは今しかない。壊世の時である。


 全ては伯爵の計画通りに見えた。


 二度目の計画を打ち破らんと天ケ瀬一矢が屋上に現れるまでは。

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