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第61話 散華、斃れる者たち

「ただいま、椿さん」


「手のかかる弟子......じゃない、助手だな。お前は」


 血の斬撃による再生阻害により両断されたままの吸血鬼たちをまたぎながら椿が一矢に近づく。


「弟子って言いました? 今」


「……言ってない。それよりもあの白いのはお前の仲間か」


 椿は戦斧を振り回して吸血鬼兵の四肢を次々と宙に飛ばすビアンカを指して言った。


 打ち漏らした吸血鬼兵を斬り伏せながら、生き血啜り(グール)として知性を失わなかったのは彼女の近くにいたおかげであることを簡潔に伝える一矢。


「カズくーん! ヘループ!」


「余計なお世話かも知れんが、ああいう手合いはやめておいた方がいいぞ」


 一人で吸血鬼の大群を相手取るのにも限界が来たのかビアンカが叫んだ。


 返り血を浴び、白い人形のような美貌が汚れるのも気にせず嬉々として暴れ続ける彼女を見て、思わず椿は苦言を呈してしまう。


「何の話です?」


「気にするな」


 赤口(しゃっこう)を構え、椿もビアンカに加勢する。


「だーれ? いや、うーん? あなた、カズくんと似た雰囲気がする。お姉さん、いーや彼女さん?」


「姉でも彼女でもない。上司だ。助手が世話になった」


 椿はそう言いながら赤口で吸血鬼の首を刎ねる。


「あーそ。アタシ、ビアンカね。それじゃあカズくんってフリーなんだ! 一緒にいると戦いやすいから運命かもーって!」


 ビアンカはそう言うと横薙ぎに数体の吸血鬼を吹き飛ばす。


 息が合っているようでどこか噛み合っていないような二人。


 そして別方向の吸血鬼たちを無力化したつぐみとメイジーが駆け寄ってくる。


 再生能力のある吸血鬼を無力化したということは、つぐみの暴力によって再生が間に合わないほどのミンチにしてしまったということだ。


「ツバキさん! ここはわたしたちに任せて先に行けーい!」


「お前、どっかおかしくなってないか?」


「つぐみお姉ちゃん、久々の前線で燃えてるみたいなの」


 つぐみは拳法の型のようなポーズをとって吸血鬼の残りに立ち向かう。


 メイジーも嬉々として真似をする。


「でーも。案外それが正解かも。ロデリックはこの建物の屋上にいるからここらの吸血鬼が追ってこないようにしてもらいたいな」


 先ほどから吸血鬼たちが出てくる建物を指してビアンカが言う。


 つまりは内部の吸血鬼を打ち倒しながら屋上のロデリックを倒さなければならないということである。


「任された! アチョー!」


 つぐみが起き上がったばかりの吸血鬼を蹴り飛ばす。メイジーも大バサミで吸血鬼を殴り付ける。


「ビアンカと私でお前をサポートする。アマガセ、決着はお前が付けろ」


 一矢が頷く。多少の被弾は許される吸血鬼のビアンカと一矢が前に出てその後ろを椿が追う。


「……ようやく来たか。ヴァルキリーに死神、お前たちは何もわかっていない。生き血啜りを始末した程度で精々粋がっていろ。勝つのは私だ」


 屋上で黒いトレンチコートを着た「血戦派」の頭首、ロデリックは劣勢の幹部を尻目にどこか勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。




 死神の精鋭対「血戦派」幹部の戦いで、最初に脱落したのは桐子だった。


 相手の騎士パーシバルの一対多の中で敵を寄せ付けない見事な技量が物を言った。


 だがそれだけではない。不自然なまでのその槍の威力が桐子の護衛を次々と殺していくのである。


 彼らは吸血鬼としての再生力を活かす間もなく死んでいった。


 また一人、部下が死んだ。最後の一人である。


 四人の犠牲を経てようやく桐子は槍の特性に気付くことができた。


 誰もが二度目の攻撃で死んでいったことに。パーシバルの初撃は再生能力でどうにでもなる大したものではなかった。


 込められた霊力、突かれた場所。見ればわかる。


 だが二撃目、その槍が刺されると吸血鬼であろうが有無を言わさず死を迎える。


「貴公も気付いたか。聖槍の真価に」


 とにかく攻撃の回避に専念するようになった桐子へ騎士が告げる。


「呪いか何か? 随分と物騒な槍を持った騎士もいたもんだね」


「違う。本来この槍は『聖なる方』の死を確認するために用いられたもの。つまりは一度目の攻撃はこの槍でなくてもよい。だが、二度目の攻撃として刺されればそれは『死の確認』となるのだ。故に死ぬ。そして──」


 桐子の心臓を槍が貫く。


 一度目であったが吸血鬼にとっての急所だ。強化されているといえども死は免れない。


「攻める気がないのであれば、ただ仕留めるのは容易いということだ」


 桐子の死を見届けると暫し吸血鬼たちに黙祷し、つぐみやメイジーに合流するパーシバル。一対一の戦いに介入する気はないらしい。


 そして普段女を傷付けまいとする静馬に本気を出させているのがサンドリヨンであった。


 否、そうでもしなければ静馬は死ぬ。


 彼女は特殊な権能を使っているわけではない。ただガラスの靴から刃が生えるように変形させ、飽くまでも踊るように。


 そして対処を誤れば即、死に繋がるギリギリの一撃を連続で繰り出す。


 そもそも彼女は権能をあまり使いたがらない。それは制限時間付きであり、長く戦闘を楽しみたい彼女には性格上合っていないからだ。


 静馬は捌き切るだけで手一杯の猛攻に晒されながらも、打開策を懸命に探す。


「さあ次は? どうするのどうするのどうするの!? まだまだ続くダンスに耐えられるのかしら!?」


「生憎、俺は剣術一筋で舞踏を嗜むような趣味は持ち合わせていない。失望させたのなら済まないが」


「そう。じゃあここまでってことね」


 静馬の限界を見抜いたサンドリヨンが権能を発動する。


 それは制限時間付きの強力な身体強化。死神が霊力で行うようなものは比較にすらならない。


 静馬に容赦のない一撃が繰り出される。初撃は防げたが単なる偶然だった。


 一撃で血牙(けつが)が破壊され、血液となって飛び散る。


 そして次の蹴りは血を纏わせた両腕をクロスさせて受けきろうとするが、腕ごと首が深々と切り裂かれた。


 静馬が倒れ、首から血が噴き出す。


「楽しかったわ。それなりに、ね」


「ゲホッ……俺も最後に強者と戦えて、よかった。口惜しいのは俺の剣が、ここまでだと、言うことだ……」


 サンドリヨンが踏みつけるように静馬の首を切断する。


 残る「血戦派」の幹部はレナードとカーニャ。


 そして所在が不明のエリザベート。


 生き血啜りを浄化されてから彼女の声はしない。それを不破の執念が追い詰めつつあった。

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