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生き返ったお父さんと♡

 新聞配達のオートバイの音で目を覚ました。

 いつのまにか僕は窓に顔を付けて寝ていた。

 辺りはもう明るかった。

 ところで、あの地震や火事や流星群は何だったのだろう? 

 現実だったのだろうか? 

 それとも、夢だったのだろうか…

 でも、僕にはどちらでも良かった。

 それより、僕はお父さんが息をしているかを確認したかった。

 でも確認なんかする必要もなかった。ガーガーといびきをかいていたんだ。

 お母さんも妹も、すやすやと眠っていた。

「良かったね。またまた死ななくて」

 僕はお父さんの寝顔に声を掛けた。


 それから僕は玄関へ新聞を取りに行った。

 お父さんが遭うはずだった事故がどうなったのかを、僕は知りたかったからだ。

 僕には「運命変更」が成功した確信があった。でも、あの事故がどういう風に「変更」されたのかを知りたかったんだ。

 それで僕は玄関のタイルの上にあぐらをかいて、新聞を隅から隅まで見渡した。

 すると小さな記事があった。


〈馬糞トラック、猫を避けようとして横転〉

「八月一九日深夜、馬糞トラックが横転する事故が発生。運転手は猫を避けようと急ハンドルを切り横転。運転手に怪我はなかったが、付近に馬糞が散乱。通行人一人が馬糞で滑って転び軽い怪我をした。また対向して走ってきたタクシーも馬糞で滑ってスピン。そのまま田んぼに落ちた。幸い乗客は乗っておらず運転手も軽い怪我で済んだ模様。なおトラック運転手の話では、飛び出したのはブチ猫で、そのまま逃走したという」

 ずいぶん派手にやったものだ。

 だけどみんな大した怪我でも無かったみたいで、僕はほっと胸をなでおろした。

〈やっぱり飛び出したのはブチ猫…〉

 

 新聞を読んでいると朝日が昇り、辺りがぱっと明るくなった。

 心地よい朝風がそよそよと吹き、妹が学校から持って帰ったあさがおがゆらゆらと揺れていた。

 思い起こすと、僕とセリア君は八月十九日の朝、このあさがおの上でお父さんが出て来るのを待ったのだ。

 僕にはその事が、信じられないほど遠い昔のように思えた。


 しばらくして、みんなが起きて来た。

 お母さんと妹は嬉しそうに祭壇の周りの花をリビングのあちこちに飾り、そしてお父さんの遺影から黒いリボンを外すと、代わりにピンク色のリボンを付け、リビングの飾り棚に置いた。

 お母さんは、生前にお葬式をすると縁起が良いとか言っていたし。

 それからお母さんと妹が朝食の準備を始めた。

 お父さんはいきなり学位論文の事を思い出したみたいで、少し憂鬱そうにしていた。

 ぴゃーちゃんは棺桶の上で入念に爪とぎをしていた。


 そしてみんなで朝ご飯を食べた。

 家族四人で食べられる事が、僕には夢のようだった。

 それからお父さんは、少し気が重そうに仕事に出掛けた。

 お父さんとしてはやってもいない論文発表で、教授たちにぼろくそに言われたんだ。

 そしてその事がかなりのトラウマになっているみたいだった。

 だから僕は少しだけ、そんなお父さんに同情した。

「少しだけ」というのは、「死ななかったから!」という、僕の気持ちが混ざっていたからだよ。


 それからお母さんは葬儀屋に電話を掛けた。

 爪とぎでぼろぼろの棺桶の返品を、粘り強く交渉しているようだった。

 猫が爪とぎしてても、カンナをかければ大丈夫でしょ♬とかいうのが聞こえてたし。

 で、僕は朝ご飯を食べたら猛烈に眠くなったので、昼過ぎまで爆睡した。


 その日の夕方、お父さんは嬉しそうな顔をして帰ってきた。

 もうすっかり立ち直っていた。

 そして僕らの顔を見るなり大声で言った。

「決めたぞ! 田舎へ行くぞ。無医村だ。ずっと前から知り合いの村長さんに、ぜひ来てくれないかって言われていたんだ」


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