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お父さんの運命の日に…

この運命の日に、お父さんの身に何が起こるのだろう? 

 朝から僕はとても不安だった。


「あらら、今夜は博士号のお祝いで飲み会じゃなかったのですか?」

 その日の夕方、玄関でお母さんのすっとんきょうな声がした。

 僕は二階の部屋から急いで階段を降りた。

 降りる途中、お父さんの怒ったような怖そうな声が聞えた。

「どうもこうも訳が分からん!」

 そして階段を降りると、玄関には金剛力士像のようなお父さんが立っていた。

 それからお父さんはのっしのっしと家の中に入り、リビングへ向かいながらしゃべり続けた。


「発表をやった記憶はないわ、論文は鞄ごと無くしてしまうわ、教授たちにはぼろくそに言われるわ、もう何が何だかさっぱり分らん。お前はまともに字が読めんのか、とか、お前の脳は小学生並みだとか言われたんだぞ。何で俺が小学生扱いされないといけないんだ!」

 僕はひと安心。

 少なくとも「替え玉作戦」は成功だったみたい♪


「あーあ、これで俺の十年間の研究は全部パーだ。データも何もかも、鞄ごと全部無くしたんだぞ! 何てこった!」

 リビングで父さんは怒りが納まらないみたいだった。でもお母さんが、

「それじゃまた別の研究を最初からすればいいじゃないですか♪」なんて能天気な事を言うものだから、それがお父さんの逆鱗に触れたみたいで、

「この研究には俺の血と、汗と、涙がこもっているんだぞ! いったい俺の研究を何だと思っているんだ!」

 そう吠えると、お父さんは本格的に暴れ出した。

「何だ扇風機、てめえなんか、ハンマー投げだ!」

 お父さんは電源コードを上手に使い、本当に扇風機をハンマー投げした。

 扇風機はそのコードを「彗星の尾」みたいにしながら飛び続け、網戸を突き破って庭にどっしゃんがらがらと落ちて籠が外れ、イカしたプロペラがむき出しになった。

 そしてそれからはてんやわんやになり、

「何だこんなダサいテーブル! ええい、背負い投げを食らえ!」

 どっかんがらがら

「お父さん、やめてください!!」

 それからお母さんは身の危険を感じ、さささっと台所へ逃げ込んだ。だけどそれを追いかけるようにお父さんも台所へ向かい、

「ええい、冷蔵庫! お前なんか、大外刈りだ!」

 バキ!

「ギャ~!」

「ちょっと大介、湿布と包帯を持って来て!」

「ええい、酒だ酒だ、酒を持って来い!」


 それから父さんは一通り暴れてから酒を飲み、そのままガーガーと大いびきをかいてソファーで豪快にふて寝を始めた。

 お父さんの身にとんでもない事が起こったのだけは確かだった。

 それで僕はふて寝をしているお父さんの右足に、地球の湿布と包帯をしてあげた。

 オーラム星の湿布薬を持って来れば良かったと、僕はちょっぴり後悔した。

 それから僕は、お母さんと妹と一緒にお父さんが破壊活動をしたリビングと台所の後片付けをやり、そして庭に無残に転がっていた、イカしたプロペラがむき出しの扇風機も拾いに行った。

 それにしてもお父さん、ばかな事をしたものだ。

 冷蔵庫に大外狩りだなんて…

(人の事言えた義理じゃないけれど)

 でもお父さんがこのままお利口さんで、朝まで寝ていてくれればいいんだ。


 だけど早い時間にふて寝をしたお父さんは、大抵後で目を覚ますから厄介なんだ。

(そのおかげで僕はパジャマ姿でオーラム星へ行く羽目に…)

 とにかく僕は不安だった。

 そしてその不安は的中した。

 しばらくして電話が鳴ったんだ。

 案の定お父さんはむくりと起きると受話器を取った。

「おお、武内君か…」

 僕はとっさにお父さんの同僚の人からの電話だと思った。大学でお父さんと一緒にやきそばを食べていた人だ。

「…え、今からかい?」

 お父さんに悪いとは思ったけれど、僕は和室へ行き、そこにある電話の子機を手に取った。

 やっぱり武内先生の声だった。


「くよくよしていてもしょうがないぜ。今からでも行こうよ。おでんでも食いながら気分転換に、酒なんかきゅーっとやってさ。やな事なんか忘れちまおうぜ。それに、今日のお前は何か変だった。普通じゃなかったよ。なんなら俺が教授に頼んでやるから、もう一度発表しなよ…」

 しばらく話が続いて、結局お父さんは武内先生と飲み屋へ行く約束をしてしまった。

 お酒なんて、あんなまずいもの!(おでんはおいしそうだけど♪)

 それはいいけれど、とにかくこれは思いっきりまずいパターンだ。

 しかも二つのパターンが考えられた。


 パターン其の一 今から飲みに行く→タクシーで帰る→馬糞トラックと衝突→お通夜。

 パターン其の二 武内先生の交渉成功→発表やり直し→もうセリア君は来てくれない→

替え玉作戦不可能→論文発表無事終了→お祝い→タクシーで帰る→馬糞トラックと衝突→

お通夜… 

 あ、だけどこちらのパターンはお父さんが鞄を失くし、論文のデータを全て失っているからもう無いかも。

 だけど、いずれにしてもそのとき僕は運命のエネルギーの怖さを感じ、背筋がゾワーっと

した。

〈もしかして時空連続体に秘められた得体の知れないエネルギーが、今夜お父さんを殺そうとしているのか?〉 

 これは何としてもお父さんが飲みに行くのを阻止しなければいけなかった。 

〈だけど僕は一体どうすれば…〉

 でもこんな時の為にセリア君は例のブリキの弁当箱を用意してくれていたのだという事を、僕は思い出した。

 それで僕は二階へ行き、机の引き出しの中に入れておいたブリキの弁当箱を出し、それを開け、しばらくじ~~っと眺めた。

〈だけど弁当箱の中身で一体何が出来る?〉

 僕はしばらく考えた。

 でもしばらく考えてから、僕はある事を思い付いた。

〈エイジボイスを使えば…、そうだ。まずは武内先生に電話だ!〉

 それで僕はエイジボイスを手に取り、ポケットにしまい込んだ。

 それから誰にも見付からないよう和室へ行き、ポケットから出したエイジボイスを口に付けた。これでお父さんそっくりの声が出せる。

 そして僕は電話の子機を手に取った。武内先生の電話番号は着信履歴ですぐに分かった。

「あ~、武内君か。やっぱり飲みには行かないよ。どうも体調がすぐれん。夏休みの宿題、じゃない、ええと、いろいろと書類を仕上げんといかんし、それにお父さんがこんな時間にどこへ行くんだとごちゃごちゃ…いやいや、お父さんは僕だ。とにかく! 明日は早いしぃ、それから…」

 武内先生はバナナ監督みたいにごちゃごちゃ言って抵抗したけれど、僕だって負けずにごちゃごちゃ言い返して何とかまるめこんだ。

 これで武内先生は何とかなった(^^♪

 あとはお父さんだ。

〈だけどどうしよう?〉


 僕はもう一度困惑しけれど、でもすぐに解決法を思いついた。

〈お父さんを催眠光線で眠らせればいい!〉

 それで僕はもう一度二階へ行き、弁当箱からエイジボイスと入れ替わりに光線銃を取り出し、一緒に入れてあったカートリッジをカシャリと装填した。

 かっこいい。何だかスパイみたいだ!

 僕はそれをポケットにしまい込み、もう一度階段を降りた。

 一階では、お父さんが包帯をした足を引きずりながら、いそいそと出かける準備をしていた。

 でも僕は予測出来た。

 準備の仕上げはトイレでうんちだ。いつものことだし。

 だから僕は、お父さんがトイレから出てくる、その瞬間を狙えばいい。

 この光線銃で撃てば、しばらくして眠くなる。

 多分お父さんは「やっぱり寝る」とか言って、またソファーに戻って爆睡するだろう。


 それで、予想通りというか案の定というか、お父さんはトイレに入った。僕はトイレのドアの外で待構えた。

 数分後、じょわーっという水の音と悪臭を発しながら、お父さんがトイレから出てきた。

 それで僕はお父さんの背後に立ち、銃の引き金に指を掛けた。

〈明日までおとなしくねんねしてもらおう〉

 それから僕が引き金を引くと、ピンク色の光線がお父さんの後頭部に当たった。

〈あれれ、催眠光線はピンク色だったっけ…〉

「ギャ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 突然お父さんは大声を上げ、その場に崩れ落ちた。

 白目をむいてしばらく全身をバタバタとケイレンさせ、口からピンク色の泡を吹き、そして動かなくなった。

 よく見ると息もしていない。

 僕はとっさにお父さんの胸に耳を付けたけれど、心臓の音も聞こえない。

 お父さんの顔は真っ青だ。

 僕も真っ青になった。

 僕は背中に一トンくらいの氷を流し込まれたような気分だった。


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