今日から地球の夏休み♪
翌朝目覚めたとき〈ここは一体どこだ?〉と、僕は一瞬パニックになった。だけどすぐに自分の家の自分の部屋だと気付き、そしてオーラム星での半年が夢のように思えてしまった。
それから僕は起きて、早速押入を開けた。
するとそこには例の「年俸」代わりの、お菓子の大袋があった。
やっぱり夢ではなかった。本当に自分はあの星にいたんだと、そのとき僕は実感した。
そして多分二度と逢うことのないセリア君やエリアちゃんの事をを思い出し、少し寂しい気持ちになった。
だけど考えてみるとその日から夏休みだ。
だから楽しい気分でいようと、僕は自分に言い聞かせた。せっかくの夏休みなのだから…
それから顔を洗って、近くの公園でラジオ体操をやって、帰ってきてから早速オーラム星のお菓子を少しだけ食べた。
セリア君の話によると、オーラム星のお菓子の賞味期限は五十年以上もあるらしいから、腐る心配は無いそうだ。(だから少しずつ食べよう♪)
それから僕はプロキオンズの寮を出る時に、エナッツ君たちからもらった記念の寄せ書きをナップサックから出して眺めた。
最初何気なく、通訳メガネを掛けずに見たのだけど、小さな子供がめちゃくちゃに書いた絵のように見えて僕は驚いた。だけど通訳メガネをナップサックから出して、それを掛けるとみんなのメッセージがちゃんと読めた。
不思議だった。だけど「めちゃくちゃな絵」でも「オブジェ」として素敵だったので、僕はそれを壁に掛け、その隣にキーホルダーになっているサファイア球も並べた。
それから言うまでもなく、宿題はオーラム星で全部済ませて…
告白すると、全然やらなかった。
野球の試合やデートやお父さんの替え玉作戦やで、それどころではなかったんだ。言い訳がましいけれど。だけど今日から夏休みだから、僕は前向きにこう考える事にした。
〈宿題は明日からすればいい!〉
そして僕は、「お父さんの運命の日」に備えてセリア君がオーラム星を出る直前に大急ぎで用意してくれたという、あの「弁当箱くらいの箱」をナップサックから出した。
セリア君が、「運命の日に何かトラブルがあったときに使え」と言っていた箱だ。
その箱はブリキで出来ていた。
オーラム星ではブリキは高価な貴金属だった。そんな貴重な箱に入れてくれたのはセリア君の心遣いらしい。
〈そんなに気を使わなくてもよかったのに。安い純金かダイヤモンドの箱にでもすれば…〉
それはともかく、そのブリキの箱は弁当箱そのものに見えた。そしてその中には二つの機械と、セリア君が地球の文字で下手くそに殴り書きみたく書いた手書きのメモがあった。
(光線銃はカートリッジを入れて撃つ。一回きり。最悪の手段として使うべし。それからこのマスクは「エイジボイス」という。これを付けてしゃべると君のお父さんそっくの声になる)
光線銃は論文発表のとき、お父さんをトイレで眠らせる為に使ったものだ。
最悪の事態になりそうなとき、これでとりあえずお父さんを眠らせろ、という事だろう。
「エイジボイス」は小型のガスマスクみたいな物だった。
早速僕がそれを口に付けてしゃべってみると、お父さんそっくりの声が出た。これも何かの裏工作に使えそうだ。
それから夏休みはどんどん過ぎていった。
そして僕は、地球の少年野球で良い事が二つあった。
一つ目は守備で地球の監督に褒められた事。
「どういうまじないを使ったら、たった一晩でそんなに守備が上手くなれるんだ? これでバッタを捕まえる必要は全く無くなったな」
何たって僕はオーラム星でギューリキ君の強烈な打球を何万回も捕っていたのだから。
二つ目は僕が大発見をした事。
これは僕にとって画期的な発見だった。
オーラム星でホームランをかっ飛ばしていたイメージで地球の野球でも打てないかと、ある日僕は徹夜で考えたんだ。その日は何故か眠れなくて、それで得意の考え事をしていた。
そしたら明け方近くに突然閃いたんだ。
それは三塁線を「四塁線」にすれば良かったんだ。つまり左足を前に出して少し斜めに構える。
地球の監督は「お、クローズドスタンスを覚えたな!」なんて言っていたけれど、こうして構えると三塁線が四塁線みたいに広がった感じになる。
それで実際に打ってみると、見事に三塁線に打てたんだ。
この大発見のおかげで、僕は大ファウルの飛距離をギネスに申請する必要も無くなったという訳だ。
それから地球の監督が「この頃セリアはどうしたんだ?」と僕にきいたので、何でもまた引っ越したらしいとかなんとか、適当に説明をしておいた。
監督は凄く残念がっていた。
もちろん僕もセリア君にずっといて欲しかったけれど、トンネルが崩壊する訳だから、こればっかりは仕方がない。
凄く寂しいけれど。
またセリア君と野球がやりたかった。
それはそうとエリアちゃん…
僕はエリアちゃんの事から立ち直るまでには、かなりの時間が掛かった。
僕が大人になる頃にはエリアちゃんはおばあちゃんになって、僕が三十歳になる頃にはエリアちゃんは死んでしまう。
何とはかなくて短い命。
僕はもう切なくて切なくて…
それにセリア君と別れるとき、僕はセリア君に「エリアちゃんの事…、よろしくね」なんて言わなきゃ良かったと、ちょっぴり後悔。
ちょっぴり複雑な気持ち。
でもエリアちゃんとセリア君は案外お似合いかも。
人生あきらめが肝心…、かな。
でも心残り!
だから僕はいつもエリアちゃんからもらったリストバンドを付けていた。お父さんに「お前、手首でも傷めたのか?」とか言われても。
そして七月最後の日の夕方。
西の空低く夕焼け雲のすぐ上に三日月が見えた。僕は感傷にひたりながら、その月を見た。
月の向こうにはあのトンネルがある。
セリア君はトンネルが崩壊するのは地球側で七月の末と言っていたけれど、本当だろうか?
「やっぱり崩壊しなかったよ。アクエリアスで、また来んだ♬」なんて、セリア君がひょっこり現れるような気がして、それで僕は夜中に時々、自分の部屋の窓から外を眺めていたんんだ。
だけどそのとき、その夕焼け雲の上の三日月の辺りで、何かが光ったような気がした。
きっとその瞬間、トンネルが崩壊したんだ。
僕には妙な確信があった。
いや、遠くで稲妻が光っただけかもしれない。
そうだといいけどな…
そしていよいよ、お父さんの運命の八月十九日がやってきた。




