★ふたたびオーラム星★
タイムマシンを使った事もあり、オーラム星へ帰ったら、例の「四日間の夏休み」のうち、まだ三日も残っていた。そのおかげで僕はその三日間、ゆっくりと休養した。
お父さんの死に対するショックや運命変更の替え玉作戦やらで、その間は気が張っていたから感じなかったけれど、こちらへ帰って来た僕は疲労困憊していた事に気づいたんだ。それで二日間は寮で爆睡した。
ところで爆睡したとはいうものの、ずっと寝ていた訳じゃない。時々目が覚めたんだ。そんなとき僕はベッドに入ったまま、得意の「考え事」なんかもやった。その間、僕はずっとお父さんの事が気になっていたからだ。
やっぱり僕は、地球に残っておいた方が良かったのではないかって考えていたんだ。だけど僕は、最終的にセリア君が言うように「予定通りオーラム星にいる」決心をした。
僕がすぐに変な行動を起こして、運命がより複雑な変化を起す方が、よっぽどやっかいな事になりかねないとセリアが言っていたからだ。
だからしばらくは地球の事を忘れて、野球に打ち込むのも良いと考えたんだ。
とにかく!「人事を尽くして天命を待つ」って言うだろう?
それで元気の出てきた三日目に、僕は気分転換も兼ねてイカルスを飛ばし、エリアちゃんと大犬の街へショッピングに出かけた。
僕はおもちゃ屋さんで一万カラットのダイヤモンドの付いたプラチナのネックレスを買った。
そしてダイヤモンドのカットされた一面に、「プロキオンズ、ダイスケ」と、この星のダイヤモンド製のマジックでサインをして、それをエリアちゃんにプレゼントした。
ネックレスはダイヤも含めてぶどうジュース二杯分のくらいの値段だったけど、エリアちゃんはとても喜んでくれた。
それで、エリアちゃんは「お礼に」と言って、スポーツ用品店で、小犬のアップリケの付いた木綿のリストバンドを買い、僕にプレゼントしてくれた。(リストバンドはプラチナのネックレスの二倍の値段だったので、僕は恐縮してしまった)
そしてその夜、僕はそのリストバンドを付け、いつもの室内練習場へと向かった。
地球のウメやサクラと違い、こちらの例のこの花は(名前はセリア君から聞いたけれど忘れた)夏だというのに、しぶとくピンク色の花を力いっぱい咲かせていた。綺麗な花びらが、練習場から漏れる明かりに照らされていた。
何だか久しぶりにここへ来たような気分だった。
相変わらずエナッツ君は丸い顔を真っ赤にして、壁にボールを投げていた。
壁というのはブルペンみたいな場所だ。
プルペンキャッチャーの代わりに、畳一枚分くらいの大きさの分厚いダイヤモンド製の板が立ててあり、それにキャスターが付いているんだ。
そして中央やや下には四角いプラチナ製のプレートが貼ってあり、これがストライクゾーンという訳だ。
確かに投球練習にはもってこいのアイテムだ。
ちなみにこちらのプロ野球のボールは地球の硬球よりは柔らかく、軟球に近い。だからダイヤモンドの板に当たると、乾いた「コーン」という音を響かせて跳ね返って来る。
エナッツ君はそれを拾っては投げ拾っては投げ、二十万回もやったという訳だ。そして「肩を壊す」必要が無くなった今でも、こうやって壁投げを続けていたんだ。
一方、ギューリキ君は大汗をかいてティーバッティングをやっていた。一日二千スイング、百日で二十万球打つという無謀な計画を立てているらしかった。
彼の方はまだ、体のどこかを壊すのが目的だ。
とにかく僕が地球にいる間にギューリキ君は大変身を遂げているみたいだ。
そんなギューリキ君を見た僕は、お父さんの運命がどうだのこうだのですっかり忘れていた「ある考え」を思い出した。
それは「文武両道の考え」だ。
〈そうだった。文武両道の武…守備の特訓だ!〉
それに僕はしばらく地球の事は忘れて、こちらで野球を頑張ろうと決めたのだった。
それで僕はティーバッティングをやっているギューリキ君に声を掛けた。
「ギューリキ君、僕、捕るよ。文武両道、いや、守備練習がしたいんだ。球拾いにもなるだろう」
でもあまり近づくとバットで頭を叩き割られそうだったので、僕はギューリキ君の背後からそっと近づき、声を掛けたんだ。
気の弱いギューリキ君は「ぅひゃ~」と飛び上がったけれど、すぐに意味を理解してくれ、元気に「OK!」と言ってくれた。
〈さあ守備の特訓だ。僕も体を壊すぞ!〉
僕は張り切っていたけれど、ギューリキ君の打球は物凄く速くて怖い。もし体に当たったら、僕は本当に壊れてしまうかも知れない。しかも考えてみると、僕はどこも壊す必要なんて無かった。
田舎へ帰って言い訳する必要もないし、「ぴゃーちゃん、僕、だめだったよ…」なんて言っても、ぴゃーちゃんはきっと「みゃー」としか言わないだろうし。
それで僕は野球の道具が置いてある倉庫へ行くと、古いマスクとプロテクターを見付けた。
これらは地球の物とはかなり異なっていたけれど(特に素材が!)詳しい話は省略。それに少々かび臭かったけれど。
それはともかく、僕は完全武装でギューリキ君の打球に挑む事にしたんだ。〈さあ、二十万回ノックを受けるぞ。そしたら僕だって!〉
実は、マスクとプロテクターを付けて守備練習を始めてから気が付いた事なんだけど、僕が守備が下手だった最大の理由は、ボールを怖がっていたからだったみたい。
というのはギューリキ君の強いゴロでも、プロテクターに当てて前に落とせば、何という事はなかったんだ。
いやいや、何てことなくって訳ではなかった。確かに「ガツン」とか「ドカン」とか、場合によっては「ドスッ」っていう感じだったけれど、まあ我慢の範囲内かな。
その事に気付いた僕は、打球を冷静に見る事が出来るようになった。
そして打球を冷静に見れるようになると、少しずつだけど、捕る事だけは何とかなるようになった。いや捕れないにしても、ドスッっと、何とか止める事は出来るようになったんだ。
そういうわけで僕はもうバッタを捕まえる必要は無くなった。しかもしばらくすると、僕はマスクやプロテクターを付ける必要すら無くなっていったんだ。
そんなある日、ギューリキ君の鋭い打球に挑んでいる僕の姿を、セリア君が嬉しそうにネットの向こうから見ていた。
地球で「運命を変える大ファウル」を打った後、地球の監督の計らいで僕はセカンドを守ったのだけど、セリア君はわざと僕の所に打球が来るように投げたのではないのかな?
本当はセリア君は僕に「しっかり守備の練習をしろよ!」って、言いたかったのではないのかいな。
ネット裏の嬉しそうなセリア君の顔を見た時、僕は何となく、そんな気がしたんだ。
そんな毎日が続いた。
それからもシーズンは続き、いつのまにか夏も終わろうとしていた。
その頃になるとエナッツ君はリリーフエースとして活躍を始めていたし、ギューリキ君のバッティングも、どんどん上達していった。
ギューリキ君の打球に挑んでいた僕は、彼の打球が日に日に威力を増していくのを、それこそ身を持って体験していたんだ。(まだ出場はさせてもらえなかったけれど…)
それから、僕のバッティングの「指導」の成果で、みんなもポアシの球を少しずつだけど、打てるようになったし、だから僕もバッティング以外でチームに貢献出来るようになったと思い、とてもに嬉しかった。
それからエリアちゃんとは、試合のない日なんかイカルスを飛ばして逢いに行ったし、もちろんセントバーナード山のドライブの「やり直し」なんかもやり、雄大な「緑葉」も楽しんだ。




