☆お父さんの行動調査☆
家から出てきたお父さんは、何やら凄く緊張の面持ち。
とても大事そうに黒い革製の鞄を抱えていた。
「あの鞄の中に博士論文が入っているんじゃないか」
「多分ね。よし。君のお父さんの肩に着陸だ!」
それでセリア君はオデッセイを発進させ、お父さんの肩の上に降ろし、そして僕らはお父さんの背広の繊維にオデッセイからのフックを掛けて固定した。
「さあ、君のお父さんの行動チェックだ!」
こうして僕らは、お父さんの肩の上で偵察を開始したんだ。
それからお父さんは車を運転し、医科大学へと向かった。
ところが大学の研究室のロッカー前で、お父さんが白衣に着替えたものだから、僕らは思い切りパニックになった。
で、あわてて背広の上着の繊維に掛けてあるフックを外し、オデッセイを「緊急発進」させなくてはいけなかったからだ。しかも僕らは背広と一緒にロッカーに閉じ込められそうになった。
だけどオデッセイは閉じ込められる寸前に扉の脇を際どくすり抜け、何とかロッカーから脱出し、それからセリア君はもう一度お父さんの肩の上にオデッセイを降ろし、そして今度は、白衣の白い繊維にフックを掛け直した。
「やばかったけど、多分研究室を出るまでは、白衣を脱ぐ事はないだろう」
セリア君は言った。
ところで僕のお父さんはお医者さんだけど、今は病院ではなく、大学の研究室にいる。
今のところ助教らしいけれど、博士号を取ったら講師か准教授になれるかも知れないと、梅雨の終わり頃だったか、お父さんが言っていたのを僕は思い出した。
さて、僕らが偵察したところによると、お父さんや研究室の他の人たちの話をまとめると、お父さんの論文審査は午後一時から大講義室であるらしい事が分かった。
で、お父さんは午前中、実験データの整理をしたり、後輩の研究者の指導をしたりして過ごした。
昼前になるとお父さんはどこかへ電話を掛け、出前のやきそばを注文した。
お父さんと机を並べている同僚の武内先生も「じゃ、僕もやきそば♬」と言って、お父さんが「それじゃやきそば二つね♬」と言って受話器を置いた。
僕らもやきそばが食べたくなったので、宇宙船型のインスタントのやきそばを食べる事にした。(オデッセイには湯沸し機能もあったし!)
ところで、武内先生は一度僕の家に遊びに来た事あったので、僕はよく覚えていた。
十二時四十分になった。もうすぐ論文審査が始まる時間だ。
武内先生より少し早くやきそばを食べ終えたお父さんは突然立ち上がり、ロッカーの前へ行き背広姿になろうとした。(僕らはまたパニックになった。またロッカーに閉じ込められそうになった!)
そしてお父さんの様子を見た武内先生が、やきそばをほおばりながら、「グッドラック」と言った。
「いよいよ審査の会場へ向かうみたいだね」
セリア君が言った。
でも僕には、お父さんが直接会場へ行くとはとても思えなかった。
どこかで寄り道をするはずだ。それもどこへ行くのか、正確に言い当てる自信が、僕にはあった。
「そのまえにトイレだよ。きっとうんちだ。お父さんはこういう緊張する場面になると必ずうんちがしたくなる人なんだ」
「じゃあ、そのときが思い切りチャンスだね!」
「というと?」
「そのとき君とお父さんが入れ代るんだ!」
「どうして入れ代るの?」
「君は替え玉!」
「替え玉?」
それからセリア君は、タイムマシンで一時間ほど時間を戻した。
オデッセイの窓から見ると、お父さんは電話でやきそばの注文をしていた。
ところで、僕らはもうお父さんの肩の上に着陸するのはやめる事にした。電気がもったいないけれど、空中静止をしておく事に決めたんだ。
だってパニックはもういやだ。
それはさておき、それから僕らは、これから行う「作戦」の準備を始めた。
「ええと、まず、君をタイムエイジマシンでお父さんと同じ歳にする。君のお父さんはいくつ?」
「お父さんと同じ歳? ええと、お父さん、四十一だけど」
「なぁるほど、事故に遭う訳だ。厄年だ!」
「厄年? よくそんな事知っているねえ」
「あたりまえだのクラッカー。僕はオーラム星人で一番、地球人に詳しいんだぜ!」
「そうだったね」
「さあ服を全部脱いで、あの箱に入りたまえ。パンツも脱ぐんだぞ。君を四十一歳にするから」
「なるほど。エイジマシンってそういう機械だったんだ! で、どうして全部脱ぐの?」
「今から君はお父さんのサイズになるんだ。そのままじゃ服がバチバチじゃん!」
それで僕は服を脱いだ。(パンツも!)
それから僕はオデッセイの三列目シートに置いてあった「タイムエイジマシン」の箱の中に入り、運動会のようにお山座りをした。
箱の外ではセリア君が何やらスイッチやダイヤルを操作しているようだった。
そしてぱちんとボタンを押す音がした。
と、突然、機械がブーンという音を立て始め、少しして体が生温かくなってきた。
それから体じゅうの骨という骨が痛いような生暖かいような気持ち良いような、変な感じになると同時に、僕の手足はにょきにょきと長くなり、胴体も太く長くなった。
頭も大きくなり、ひげも生えた。あ、こんな所にも毛!
それからセリア君は「これを着ろ」と言って、地球の大人用の下着を投げ込んだ。しかしまあセリア君の用意のいい事。それで僕はその下着を着るとエイジマシンから出た。
それから今度はカッターシャツや背広一色を渡され、僕は背広姿になろうとしたけれど、ネクタイの結び方が全然分らなかった。するとその様子を見たセリア君が器用に結んでくれた。
「思ったとおりだ。君のお父さんに瓜二つ!」
〈あーあ、大人になっても僕ってずんぐりなんだな…〉
そして大人の姿になった僕は、オデッセイの二列目の座席に座った。
〈何て窮屈な座席なんだ。これって子供用じゃないか!〉
僕は体を三つに折り曲げ、無理やり座席に座り、そして窓から外の様子を眺めた。
お父さんたちはまだ出前のやきそばを食べていた。そうだった。時間を戻したのだった。
「もうしばらくしたらいよいよ君の出番だ。いいか、失敗するんじゃないぞ!」
「僕が何を…、げ! これ、僕の声?」
「大人の声だよ。地球人の。まあいい。それじゃ今から君の役目を説明するよ。ああそうそう、その前にひげを剃れ。ひげぼうぼうだぞ。ここにカミソリがある。シェービングクリームも…」




