お父さんの運命変更だ!
それから僕らは、一度オーラム星へ帰る事にした。
運命変更の為には、事故が起こった日のお父さんの行動をチェックするほか、いろいろな大道具や小道具も必要だったから。
それで、ミニバンタイプの大型宇宙船で出直す事にしたんだ。「オデッセイ」という宇宙船で、三列シートの八人乗りだ。
それは僕が最初にアクエリアスで空港の駐機場に着いたときに、隣に停めてあった宇宙船だ。
それにしてもセリア君は宇宙船を二機も持っているのだから凄い!
(本当は二機どころではなかったりして…)
ともかく僕らは一旦セリア君のマンションへ戻り、そこから持って来たいろんな品物や、買い出しした物などを空港の駐機場でオデッセイに積み込んだ。
食料やお菓子やジュース類や着替えや、それからスパイが使うような小道具類いろいろ。
そして大道具の「タイムエイジマシン」だ。
タイムエイジマシンは、セリア君が秘密の部屋で誰かさんと長電話をしていた時に、話題に出てきたものだ。大きな箱型の機械で重いので、二人でマンションから必死になってえっさほいさと運び出し、コメット250の後ろの座席…は収まらなかったので、後ろのトランクに無理やり詰め込んで、フタは閉められず、開いたまま走り、空港の駐車場から宇宙線の駐機場まで、これまた二人でえっさほいさと必死に運んだ。
一体それをどう使うのか、僕にはとても興味があったけれど、セリア君は「いいからいいからいいから」と言って、さっさとオデッセイの三列目のシートをフラットにして、それからセリア君が「せ~の!」と言うと、二人でタイムエイジマシンを「えいやっ!」持ち上げ、そこにどん!据えた。
ともかく!そのときまでにセリア君は、運命変更の段取りをしっかりと決めているようだった。
そしてオデッセイは出発した。
オデッセイはアクエリアスよりずっと広いし、エンジンの音も静かだった。だけど加速が鈍いしスピードが遅いし、だから地球まで三時間掛かる。
その長旅の途中、僕は変な事を考え付いた。
「でもさあ、セリア君。運命を変更するっていうけど、起こってしまった事を変更するというのは許されない事じゃなかったっけ? 前に言っていたじゃん。飲み屋のスコーピオンで。ええと、平和のリレー作戦の話だよ。過去は決して変更してはいけないんじゃなかったっけ?」
「だから過去じゃないだろう」
「だってお父さんが死んだのは過去の事なんじゃ?」
「過去じゃないってば!」
「どうして?」
「タイムマシンが誤作動して…、いや、僕の入力ミスかも知れないけど、それで僕ら、一ヶ月後の未来へ行っちゃったんだぜ」
「一ヶ月後の未来? だけどセリア君は七月二十日の夜中に僕を迎えに来て、それから僕は何カ月もオーラム星にいたんだぜ。だったら八月二十日はとっくに過去なんじゃないの?」
「その点に気付いたのは偉いけれど、やっぱり未来なんだ。君は七月二十日以降、地球にいないからさ。それは特殊相対性理論において、何光年も離れた二地点間における『同時性』というのが、もはや全く意味をなさないという事と、深い関係があるんだ。分かるかい?」
「全っ~~~~~~~~っ然分からない!」
「まあ、あまり難しく考えるな。たしかに厳密な考察をすると、過去である可能性を完全には排除出来ない」
「何が完全に排除出来ないの?」
「この辺は相対性理論的な考察でも微妙なんだ」
「微妙?」
「まあ微妙な問題なんだけど、でもぉ…」
「でもぉ?」
「でも僕は未来だと信じる!(キリッ)」
「信じる!(キリッ)? え~~?そんなの科学に詳しいセリア君らしくない! 何だかメルヘンの世界みたい!」
「だからあまり難しく考えるなって。少なくとも僕は未来だと信じているんだ。七月二十日から見れば一か月後の未来なんだから。そういう風にシンプルに考えようぜ」
「セリア君っていつもブツリなんかの小難しい事を言うくせに、今度はシンプルなの?」
「時と場合によるんだ」
「時と場合?」
「それに、何たって君のお父さんの命が懸かっているんだ。この際、難い事言うな!」
「難い事って…」
「それでいいだろう?」
「でもぉ…」
「デモもストライキもない!」
「だってぇ…」
「いいからいいから」
「だけどぉ…」
「僕を信じろ!」
そんな事を話している間にオデッセイは無事トンネルを抜け地球に接近した。
またゴーゴーと大気圏突入時の音がして、(オデッセイだとそんなに怖くなかった)やがて僕の家の上空に着いた。
上空一万メートルだ。
そしていつか分らないけれど、そこは明るかった。
それからセリア君はタイムマシンのセットを始めた。
お父さんの事故は、お通夜の前日の八月十九日の夜だ。だからセリア君はタイムマシンをその日の朝にセットしたようだった。
「今度は九月十九日なんかへ行ったりしないでくれよ。その頃僕は多分、運動会の練習で忙しいんだら!」
僕がそう言うとセリア君は、
「ごちゃごちゃ言うな。もう~~~気が散る!」とか牛みたいに言って、神経質そうに日付と時刻を何度も何度も確認してから、タイムマシンを作動させた。
ところで僕はまた変な事を考え付いた。
オデッセイは全長が四メートルもある大きくて目立つ宇宙船だ。しかも今は夜中じゃなくて朝だ。その上オデッセイはアクエリアスみたいなカメレオンカラーではない。朝っぱらから僕の家の前にこんなでかい宇宙船が舞い降りたら大騒ぎになるに違いない。〈何だ何だ何事だ? あ、あれはUFOだ! とか…〉
「だからここでミクロコンバージョンを作動させればいいよ。オデッセイを四ミリのサイズにするんだ。そうすれば目立たないだろう?」
「へぇ~、オデッセイにもミクロコンバージョンがあったんだ。あ!でもまだ問題あるぞ。あと一万メートルも降下するんだぜ。そんな小さなオデッセイなら、ものすご~く時間、掛かからないのか?」
「大丈夫だぁ~。雨粒みたいに落ちていけばいいし」
「にゃ~るほど」
その日は雲ひとつない素晴らしいお天気だった。雨なんか降っている訳がない。降っているのは僕らのオデッセイだけだ。
それからしばらく雨になって降下すると、下の方に僕らの住んでいる街が見え始め、降りるにつれ、さらにはっきりと見えてきた。僕らの小学校やカシの木に囲まれた野球のグラウンドや、近くの公園。
おや?でもちょっとコースが西へずれているぞ。
「東風の影響だね。少し軌道修正しなきゃ」
そう言うとセリア君は「アポジモーター」と書いてあるレバーを動かし、オデッセイの進路を少々西へ修正した。
そしていよいよ僕の家が近づいた。
近くの公園では夏休みのラジオ体操をやっているようだった。僕がセリア君から借りた双眼鏡で見てみると、「僕」もラジオ体操やっていた!
「予定通り。六時三十分だ。新ぁらしぃい朝だね」
希望の朝にセリア君はそう言うと、逆噴射を掛け、オデッセイを玄関前の空中にぴたりと静止させた。
「さて、君のお父さんが出て来るのを待とう。まずは、君のお父さんの行動チェックだ。ところで今度はどこに着陸しようか。また棺桶って訳にも…」
「ばかやろう! その棺桶が来ないようにするんだろ!」
「そうだったね。じゃあどこへ降りようか?」
「あの花の上ってのは?」
「そうだね。チョウチョウみたいでイカしてるね」
それでセリア君は、僕の家の玄関前に置いてあったあさがおの花びらの上にオデッセイを降ろした。
このあさがおは妹が夏休み前に学校から持って帰ったものだ。七月二十日頃はまだ葉っぱとつるだけだったのに、そのときは見事なすみれ色の花を咲かせていた。
すみれ色で僕は一瞬「すみれ星」の事を思い出したけれど、それはいい。
それからセリア君は、オデッセイからフックの付いたワイヤーを引っ張り出し、僕らは花びらの繊維にフックを引っかけ、船体を固定した。
そして僕らは花びらの上に座り、お父さんを待つことにした。
時々風にあおられ、花びらがゆらゆらと揺れた。
それからしばらく待つと、ラジオ体操を終えた「僕」と妹が帰ってきて玄関から家の中に入った。
それは自分たちのビデオを見ているような、不思議な光景だった。
でもこの日、お父さんはなかなか出て来なかった。出勤の時間が少し遅かったみたいだ。
それで僕らは買っておいた豚マンを食べながら待つ事にした。
しばらくして、見事なアゲハチョウが飛んで来た。ビュービューと物凄い羽音を立てながら僕らの近くを悠々と飛んだ。
僕らはその雄姿に見とれていたけれど、そのうちに風が吹いてきた。
その風はだんだん強くなり、ひゅるひゅると音を立て始め、最後は嵐のような大風になり、オデッセイも僕らも吹き飛ばされそうになった。
オデッセイはフックで花びらにしっかり固定されていたから大丈夫だったけれど、僕らは本当に飛ばされそうになったので、あわてて花びらの繊維につかまった。
でも袋から手を離したすきに、食べかけの豚マンが袋ごとあっというまに飛んでいった。その代わり、黄色や黒のかわらのような物体が、ひらひらと飛んできた。
アゲハチョウのりんぷんだった。
そして七時五十分。
やっとお父さんが出てきた。




