お父さんが死んだ理由は
それで僕らはその話に聞き耳を立てた。
話の続きはこうだった。
「お祝いのパーティーの帰りに…」
「乗っていたタクシーに、馬糞を積んだトラックがセンターラインを超えて来たんだ」
「トラックはキジ猫を避けようとしたらしい」
「その猫は轢かれたのか?」
「そのまま逃げたんだって」
それでボールを拾った僕は急いでその節穴をよじ登り、僕らはボールとグローブをアクエリアスの小さなトランクにしまい込み、そして二人で聞き耳を立てた。
断片的だったけど、大体の話は分かった。
お父さんは、大学で医学博士の資格をもらう為の論文を仕上げ、それを大学の偉い先生たちの前で発表した。偉い先生たちが論文を審査し、お父さんに博士の資格を与えるかどうかを決めるんだ。
そしてお父さんは立派に発表し、偉い先生たちも立派な研究だと認めてくれた。それは前日、つまり八月十九日の事だった。
そしてその日の夜、研究室の人たちとお祝いのパーティーを開き、それが終わって家へ帰る途中、お父さんの乗ったタクシーが馬糞トラックと衝突したんだんだ。
お父さんは即死だったらしい。
タクシーの運転手も大怪我だったそうだ。
そして、その翌日の八月二十日。
僕らが迷い込んでしまったこの日。
お父さんのお通夜が行われていたという事らしかった。
「事故なら、それを回避するように運命を変える事は可能かも知れないよ。これは『運命変更』さ」
早速僕らは棺桶の上で作戦会議を始めた。
僕はセリア君の口から出た「運命変更」という言葉に、望みを託したい気分だった。もちろん僕もいろいろとアイディアを出した。
「事故の原因がキジ猫が飛び出した事だったら、タイムマシンで遡って、キジ猫を捕まえたら?」
「野良猫なら簡単には見つからないさ。それに、運命というものには連続性がある。だから少々の変更では似たような現象が連続して起きてしまう可能性がある」
「連続?」
「そうだ。似たようなことが連鎖反応的に起きる可能性があるんだ」
「でもどうしてそんなことが分かるの?」
「僕はオーラム星でタイムマシンの研究もやっているから、そのへんは予想出来るんだ」
「セリア君って、タイムマシンの研究までやっているの? という事は、三足のわらじ?」
「いいからいいから。それで、似たような現象が起こるから、キジ猫を捕まえても今度はブチ猫が飛び出すかもしれないぜ」
「そうだ! それじゃお父さんがそのタクシーに乗らないようにすれば?」
「それでは君のお父さんの代わりに乗った誰かが犠牲になるかも知れないぞ!」
「でもお父さん以外の人が乗ったら、きっと行き先が違うから、事故は起こらないんじゃ?」
「運命には連続性があるんだ。だから同じ方向のお客さんが乗る可能性が高い。同じ団地の人とか。つまりそうやって連鎖反応的に、誰かが死ぬという方向に事が進んでしまう」
「そんなことがあるの?」
「そう。それが、運命のエネルギーの作用なんだ」
「運命のエネルギー作用?」
「とにかく、そういうものがあるんだ。だから、一筋縄じゃいかないんだ」
「それじゃ一体どうすればいいの?」
「だから、大きな運命変更が必要だ」
「大きな運命変更?」
「例えば…、パーティーが中止になる、とかね」
「パーティーが中止になるって、そんなに大きな変更と言えるの?」
「出席予定者全員の運命が変わるだろう。だからそれはとても大きな変更と言えるんだ」
「全員の…」
「パーティーが中止になれば、全員のその日の行動が変ってしまうだろう? つまり多くの人の運命が変わる」
「そうか」
「会場はキャンセルされ、多分料理は無駄になる。沢山のタクシーの行先も変わり、運転手のその後の行動も変わり、それに、出席予定者の奥さんたちは余分に夕食の準備をするはめになる」
「そんな事まで…」
「だからそのくらいの運命変更があれば、事故そのものが起こらない可能性も十分に考えられる。仮に起こったとしても、軽い怪我くらいで済むかも知れないし」
「そんなにうまくいくの?」
「それはやってみないと分からない。だけど今はお父さんが死んだという最悪の状態なんだから、とにかく運命を、つまり多くの人の運命を変えること。で、多くの人の運命が変わると、『死ぬ』という不幸が多くの人に分担されて、多くの人が少しづつ迷惑する、みたいな方向になる可能性がある」
「そんなことが?」
「これは熱力学の第二法則と関係があって」
「何だって?」
「まあいい。話を聞け。これはエントロピーの増大で、君のお父さんに集中している不幸が分散される確率のほうが、お父さんにより集中する確率より大きいんだ。とにかく! パーティーを中止にする」
「よくわかんないけど、中止するんだね。分散されるから? でもどうやってパーティーを中止にするの?」
「それは例えば、ええと、そうだなぁ、君のお父さんの、論文発表をね…」
「論文発表をどうするの?」




