2020 9/11(1)
目を覚ます。理科から見たらこのホテルに住んでから11日目になるわけだが、部屋は自分の部屋のままになっているのでここが自分の住んでいた家なのではないか。今まで住んでいた一軒家は本当の自分の家ではないと思えるようになってきた。
そんなことはないと思いつつ、スマホで何か書き込みがないかを確認しているとグループの方に書き込みがあった。内容を確認するとシステムの方からチャットが書き込まれていた。その内容は
『緋色沙耶が退出しました』
理科「……あぁ?」
他の人の反応も見るに、何がなんだかわかっていないようだ。他の人の書き込みがあり
椿『なにこれ』
明坂『緋色さんと連絡が取れないわ』
茅野『部屋の前でよびかけてみましたが反応がありません』
宮永『シナリオをクリアしたということでしょうか?』
星名『分からない』
瀬奈『これってどうやって退出するの?』
楓『退出することができませんよ。このグループ』
清水『どうやってか知らないけど、シナリオから解放されたってこと?』
伊藤『そうじゃない?』
こんな感じに他の人全員が困惑しているのが分かった。いつかの記憶がよみがえる。
理科(あれは確か…。私・ルキ・社巫女さん・椿さん・緋色さんの5人で…夜遅くて…橋の上で…)
記憶を思い出そうにも正確には思い出せない。時期的にも数日、数週間前よりももっと前…数か月前か…数年前…あるいはそれ以上前にあったような無かったような…そんな曖昧なことを感じたが、すぐに気のせいだと考えて部屋を出る。
部屋を出ると緋色の部屋の前に10人が集まっていて、何人かが緋色の部屋に呼びかけている。
理科「状況は?」
伊藤「かれこれ数十分以上呼びかけているがダメみたいだ」
明坂「これどうする? 扉ぶち壊す?」
星名「〈鍵開け〉か〈追跡〉を使えば?」
星名がそういうと全員が黙り込む。こんな状況とは言え、自分の能力を公開することをためらっているのだろう。緋色の悪戯で済めばいいが、理科が襲われていることを知っていると…もしかしたら緋色も…なんて考えているのだろうか。
瀬奈「…今非常事態だし、使ってくれた方がいいと思うわよね朝倉?」
理科「え」
なぜか瀬奈から質問される。他の9人の視線が理科に集まる。その目は困惑と恐怖が混ざっており、自分の発言次第で今後の自分の立場に影響が出るように思った。
理科「えっと…」
瀬奈「どうなの朝倉」
やけに名前を強調してくる瀬奈。昨日の能力を無理やり聞き出そうとしたのが裏目に出ているのだろうか。清水がフォローに回ってくれるかと思い、一瞬彼女の方を見るが
清水「…」
彼女はただ黙って理科を見ているだけだった。なぜ黙っているのか…。自分の立場が不安定になることを嫌がっているのか、それとも理科を嵌める気で黙っているのか…。
理科「…そうですね。緋色さんの安否を確認したいですし〈鍵開け〉を持っている人は使ってみてくれませんか?」
理科がそういうと10人全員が疑うような目つきでお互いを見つめる。名乗り出てこなかった。少し脅してでも炙り出そうかと思っていると1人の声が上がる。
椿「分かったわよ。使えばいいんでしょ」
投げやりに言いながら緋色の扉に手を触れようとする椿。
理科「お願いします」
椿「私1人で中に入るの?」
伊藤「複数人連れて入れるのか?」
椿「出来なくはないわ」
瀬奈「じゃあ1人で行ってらっしゃい」
椿「何がじゃあよ。中がどうなっているのか分からないので単独突撃したくないのだけど? …朝倉さん」
理科「?」
椿「多分一緒に行けると思うから一緒に来なさい」
茅野「さっき試したことないって言いませんでした?」
宮永「言いましたね」
椿「こんなところに1人で突っ込むとか怖すぎて無理。言い出したのは朝倉さんなんだから付き合ってもらうわよ」
理科が抵抗しようとするが、背中から力が加えられる。後ろを見てみると奈那子と楓がよいしょよいしょと押している。
理科「ちょ、ちょっと」
奈那子「ほら朝倉、行ってきなさい」
楓「…」
楓は無言で理科の背中を押している。
椿「じゃあ行くわよ」
理科「…」
〈予感〉は発動していないので、命がなくなるような出来事はないと思いたいが…
椿「奈那子、楓。もし私に何かあっても気にしないで生きなさい」
奈那子「分かっているし」
楓「はい」
清水「随分とあっさりしているわね。姉が危険な目にあうかもしれないというのだから、もっと慌ててもおかしくないと思うけど?」
楓「この程度では慌てませんよ」
奈那子「椿ちゃんだし」
椿「それどういう意味?」
奈那子「…」
楓「…」
瀬奈「どうでもいいけど、早く確かめに行った方がいいんじゃないの? もしかしたら倒れているかもしれないし」
星名「瀬奈の言う通り。倒れているという可能性も十分ある」
瀬奈「星名~、一応私先輩だから敬語を使いなよ?」
星名「…」
瀬奈「おい無視か」
宮永「そんなことはどうでもいいんでしょう? 私達はここで待っていますので」
明坂「何かあったらグループの方に書き込んでもらえばいいしね、私達はご飯でも食べましょう」
こいつら焦っていた割には反応が薄いように思えるが、理科が降りるのはあり得ないと言わんばかりの雰囲気を醸し出してきている。
理科「…椿さん、行きましょう」
椿はため息をついた後に
椿「わかったわ」
椿の瞳が赤くなり、扉に手を触れる。もう片方の手で理科の手首を掴んで引っ張りながら前に歩き出すと扉をすり抜けるように緋色の部屋の中に入った。




