2020 9/9(9)
これからもよろしくお願いします。
保健室で椿と一緒にいてもらってからかれこれ数時間経過した。時間を置いたことで先程のただ震えている状態からなんとか受け答えが出来る状態になり椿に何があったかを話す。
椿には茅野が攻撃したことを言うべきか迷ったが、言ったらあの時みたいに自分が攻撃されるかもしれない…。
そう考えて茅野に関することは言えなかった。椿が茅野の味方ではないと確定しているわけではないから、もし茅野と組んでいるとしたら…。その先は考えたくもない。
椿「つまりなに? 飲料水を口に含んでいた状態で足を滑らせ転んでしまった。こう言いたいわけ?」
理科「…はい」
椿「転んで濡れていたというのは今いいわ。なんであんなに震えていたの?」
理科「びっくりして震えたんです」
椿「足を滑らせて転んで震える?」
理科「はい」
椿「…」
全然納得していない様子だが、これ以上理科に聞いても無駄だと思ったのだろう。その後は追及をしないで、他のことを話し始める。
椿「そういえば星名さんは? 確か星名さんも保健室登校でしょ? 下校は一緒じゃないの?」
理科「違いますよ。そもそも一緒に登校していませんし」
椿「でも昨日一緒にホテルに来ていなかった?」
理科「それは…私から誘ったんです。初めての場所に1人で行くのは心細かったので」
椿「へー」
理科「…そろそろ帰りましょう。空も暗くなっています」
椿「そうね。一緒に帰ろうか? 奈那子と楓もいるけど」
理科「…その」
前回2人が…少なくとも奈那子は確実に理科を拉致したことがあるので、なるべく一緒にいたくなかったので
理科「…大丈夫です。1人で帰れます」
椿「…そう?」
理科「はい…。私は大丈夫です、お気になさらず」
椿「…。分かった。お先に~」
椿が手をヒラヒラとさせながら保健室を出て行くと、保健室で仕事をしていた先生が背筋を伸ばしている。
保健室の先生「早く帰って~。もう戸締まりするから」
理科「…はい」
鞄を肩にかけて保健室を出ると、保健室がガチャリとしまった。さっきまで点いていた灯りが消えていて、外から見た限り真っ暗になっていた。
真っ暗。
理科「…」
意識せずとも歩く速さが上がる。徒歩から競歩、競歩から疾走するかのように歩幅が大きくなる。急いで階段を駆け下りて下駄箱を開けて革靴に履き替えようとすると、今度は赤い手紙が入っていた。
不気味に思いながらもそれを手に取ると、黒い文字でこう書かれていた。
「殺す」
理科「っ!」
書かれていた文章を見て、持っていて赤い手紙を落としてしまう。地面に赤い手紙を放置し走って校門を出ると空は真っ暗だ。時間を見るともう7時すぎで、スマホを開くと清水から何件も連絡が来ていた。
清水『もう遅いから帰ってきた方がいいんじゃない?』
清水『理科ちゃん、夜ご飯どうする~?』
清水『理科ちゃん?』
清水『おーい』
清水『どうしたの?』
このようなチャットが20件以上来ていた。全てを既読して走りながら今から帰ることを伝えると
清水『そう、早く帰ってきなよ』
それきり清水から何も連絡が来なくなっていた。普段なんとも思わないで歩いている通学路がなぜかとても怖いように思えた。
ガサガサ
何か音がして立ち止まり身構えてしまうが、草むらから出てきた猫だった。周りの街頭でしっかり見ることが出来たその猫は黒かった。
理科(黒猫…)
前回、清水から貰った黒猫のぬいぐるみのことを思い出す。
理科「…ふ」
少しだけ暗くて不安だった気持ちが楽になる。比較的信頼している人から貰ったものの姿そのままを見るとなぜか少しだけ落ち着いた。
それでも早足になるのは変わらない。走るのをやめるもスタスタと歩幅を大きくしながら歩いているとあることに気付く。
足音が2つあるような気がする。
理科は自分の足音かと勘違いして一度立ち止まる。すると僅かにだが、後ろから足音が止まったのに気づいた。
気のせいだと思って再び足を動き出す。若干早足で歩き、視線は前に固定しながら耳を後方に集中すると、理科の「カツカツ」という足音しか聞こえない。
理科(なんだ気のせいか)
そう思って歩く速さを競歩よりの徒歩にすると、また足音が余計に聞こえた。
今度はしっかりと聞こえた。壊れたロボットのようにギギギっと首を後ろに向けるが、そこには誰もいない。
理科「…」
後ろに何かないかと細かく確認する。壁に何かついていないか、地面に何かついていないか、電柱や近くの塀に何もいないか確認するが、怪しい者は何1つない。
ほっと息をついて前に振り返ると、すぐ目の前に誰かがいた。逆さ釣りの状態で理科の目をジッと見ていて、それと理科の顔の距離は数センチだが顔が見えない。街灯の位置的に見えていないのは不自然だ。服装は理科と同じ学校の制服を着用しており手にはナイフが握られている。
理科「…」
驚きのあまり声も出なかった。何も反応が出来なくてそれを見ているとそれはナイフを理科の顔に向けてふるってくる。
何も反応できず、もろにその攻撃を受けてしまう。なぜか〈予感〉が発動しなかった。
理科「…!」
なんとか顔を逸らして直撃は避けたが、両手に続いて頬にも激痛が走る。椿に処置をしてもらった両手はあくまで応急処置のようなもので、スマホで文字を打つくらいは出来るが、動かすだけでも激痛が走る。
それから距離を取って来た道を戻ろうと相手に背を向けようとしたら、いつの間にか先回りをされていた。理科が足を向けた方向にそれがナイフを揺らしながら待ち伏せをしている。今度は逆さづりではなく、地面に足を付けている。
身長は大体140㎝程度だろうか…。輪郭しか見えなくて相手の顔や肌の色が真っ黒だ。口元は歪んでいて、口を開けるような動作をすると口の中が真っ赤になっていた。それの口の中が真っ赤で、それ以外に色は無い。
どう見ても人間ではなかった。
理科「…っ!」
来た道がダメならばホテルに向かっていた方向に走り出そうとしたらまた先回りされている。まるで瞬間移動だ。どうやってか分からないが、理科の進行方向を察知して先回りをしている。
理科「…」
どうしようかと迷っていると、さっきまで少し離れていたのに突然目の前にそれが迫っていた。
理科「え」
一瞬で距離を詰められ何も抵抗が出来ないうちに身体にナイフを深々と刺される。
理科「…がぁ」
口から血が出てその場で倒れてしまう。そのままナイフを理科に刺したそれはその場から急に姿を消した。その直後、さっきまでそれがいた場所が急に凍る。
理科「~~!」
出血が思ったより多く、傷口を手で押さえて悶えていると足音が2つこちらに近づいている音が聞こえてきた。もちろん両手自体にも激痛が走るが、それよりも刺された箇所の方がもっと痛かった。
誰だろうと思って首だけ足音が聞こえる方を見ると、そこには目が赤くなっていた茅野がいた。
茅野「…っち、逃がしたか」
茅野の目が赤から黒に戻り、理科の傷口を見ると
茅野「これは…深々とやられましたね。明坂さん」
明坂「朝倉さん大丈夫?」
明坂の目も赤くなっている。さっきまで出血が止まらなかったのに、いつのまにか出血が止まっていた。徐々にめまいが強くなっていく。
明坂「茅野、思ったより朝倉さんの出血がひどいわ、今すぐ救急車呼ばなきゃ」
茅野「もう呼んでいます。朝倉さん、もう少しだけ耐えてくださいね」
明坂の目は赤く、茅野の目は赤くない。
遠くから救急車が一台やってくる。しかしサイレンは鳴らしていない。理科のすぐそばで急停車した救急車は、理科を中に入れてすぐに発進する。
???「~~~」
???「~~~」
???「~~~」
???「~~~」
誰かが運転席と助手席で何かを話しているのは分かったのだが、意識が遠ざかっていく。
???「朝倉さん! しっかり意識を保って!」
最後に聞き取れたのはこの言葉だった。




