2020 9/5(7)
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理科「…とりあえず伊藤と連絡を取るか」
歩きながらエントランスのソファーに座り、ポケットからスマホを取り出し、伊藤にこの後の予定を聞く。
理科『昼食の後に話があるとか言っていたけど、具体的に何時にするの?』
送信する。普段ならすぐに既読がつくが、今回はつかなかった。
理科「…まぁ、そういうこともあるよね」
伊藤だって毎回ずっとスマホに張り付いているとは限らない。こういうことも全くおかしくないと考えスマホをしまう。さっきからお腹がグーグーなっているので、何を食べようかと悩んでいると、部屋から瀬奈が出てきた。髪の毛が乱れていて、顔つきも少し疲れているように見えた。
食品コーナーに向かってゴソゴソと漁っているが、何も持たずに離れて、理科の方に近づいてくる。
理科「…?」
瀬奈との要件はないはずだが…。もしかしたら誰かと待ち合わせをしているのかと瀬奈のことを気にせず、ご飯のことを考えていると瀬奈が話しかけてきた。
瀬奈「朝倉。あんたお昼時間ある?」
理科「いえ…とく…には…」
瀬奈「良かったら私とここに行かない?」
瀬奈がスカートのポケットから何かのパンフレットを取り出すと、そこには今日の日付が書かれていて、2名のみ無料で焼肉食べ放題と書かれていた。
理科「焼肉…です…か」
瀬奈「この前食べたけどさ、大人数で行くとゆっくりと食べられなかったから。これ丁度今日だったの思い出したけど、特に誘う人もいなかったからよかったら一緒に行かない?」
理科「いい…ですよ…行きま…しょう」
瀬奈「あ、焼肉の匂いがついても大丈夫な服に着替えてね。私はここで待っているから着替えてくるなら着替えてきな」
理科「…はい」
特に断る理由は無かったので、付いていくことにした。領収書を置いておけばお金が戻るのが怖いと感じている理科にとっては、無料で焼肉が食べられると書かれているパンフレットの方が安心できた。
理科は料理が出来ないので自分で作るという選択肢は無かった。ソファーから立ち上がり、自室に戻り匂いがついても良い服に着替えて瀬奈の所に戻る。
瀬奈「来たか。じゃあ行くよ」
瀬奈が先に歩き出して、理科はそのあとをついていく。ホテルから出て、出てきた所を見る。理科の目にはホテルの入り口があるが、他の一般人には何も見えないというのが未だに信じられない。歩きながら瀬奈にホテルは一般人に見えないことを知っているかを聞いてみると
瀬奈「え?そうなの?」
とても驚いた表情で理科を見る。
瀬奈「え?なに?じゃあ私達存在が消えているの?」
理科「存在は…わかり…ません」
瀬奈「…存在が消えているかもしれないってこと?」
理科「それは…わかりません」
瀬奈「試してみるか。そこのお姉さん」
歩きながら話していると公園がある所に出た。公園には1人のおばあちゃん以外誰もいない。瀬奈が公園に入り、ベンチに座っているおばあちゃんに話しかける。
おばあちゃん「…ん?私に何か用ですか?」
目を細めて小さな声で返してくる。
瀬奈「そうですお姉さん。私達2人のことが見えていますか?」
おばあちゃんは何を聞かれたのか分からなかったのか、耳に手を当てて
おばあちゃん「ごめんなさい、耳が遠くてね…ゆっくり話してくれますか?」
瀬奈「わたしたちのことが…見えていますか?」
瀬奈は話す速度を2段程度落として、おばあちゃんの耳もとで話す。
おばあちゃん「え…はい。見えていますよ」
瀬奈「ここの近くに…ホテルは…ありますか?」
おばあちゃん「はい…ホテル? このあたりには無かったはずですよ」
瀬奈「最近…何か…変わったことは…ありませんでしたか?」
おばあちゃんは頭に手を当てて唸っている。具合が悪いのかと近づいてみるが、思い出そうとしているだけみたいだ。
おばあちゃん「…あーあったかしら。最近…人の出入りが…増えたような…気がします」
瀬奈「…何時ごととか…わかりますか?」
おばあちゃん「さあねぇ…。この時間は毎日ここに散歩をしに来ますが…日によってですかね…。8月に入った辺りから…だったかしら…」
瀬奈「なるほど…。男か女か分かりますか?」
おばあちゃん「そうですねぇ…。女性かと…思いますよ…。そうそう…。2人くらいの若い方に近いと思います…。ごめんなさい…。これ以上は…」
瀬奈「お姉さん、ありがとうございました」
おばあちゃん「いえいえ」
瀬奈「行くよ」
瀬奈がくるりと方向転換して公園から出て行く。理科もおばあちゃんに頭を下げようと出て行った瀬奈からおばあちゃんの方に目を向けると
おばあちゃん「…あなた」
おばあちゃんが弱弱しい手を理科に振ってくる。なんだろうと思って理科がおばあちゃんに近づくと
おばあちゃん「もし時間があったら今度から…話せないかしら…。恥ずかしながら家にいても1人でね…。若い人とおしゃべりすると気も少しは楽になるから…だめかしら?」
細い眼を理科に向けて、弱弱しい手で理科の両手を包む。
理科「その…私で…よければ…」
おばあちゃん「ありがとう…。私は…この時間は…いつもここにいる…から。また…会いましょう」
理科「はい」
おばあちゃんに頭を下げて、瀬奈の後を向かう。瀬奈は先に1人でスタスタと歩いてしまっていて、追いかけるのが大変だったが
瀬奈「あのおばあちゃんなんて?」
理科「暇があったら…また話がしたい…と」
瀬奈「…そう、暇を見つけたら話しかけに行ってみるといいわ。私は行かない」
理科「…え、でも…可哀そうです」
瀬奈「私にはやることがあるの。朝倉が話をしてあげれば」
理科は冷たい人だなと考えるが、実際こんな人が大多数だと割り切ることにして、瀬奈の後ろを歩く。
瀬奈「焼肉屋まですぐそこよ」
瀬奈は嬉しそうな足取りで向かう中、理科はさっきのおばあちゃんのことが気になり、あまり楽しい気持ちにはなれなかった。
理科「…帰りにいたら話しかけてみようかな」
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