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さようならロン。また会う日まで。  作者: 湖灯
*****中学校編(ロンとオーボエのはじまり)*****

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中学最後の大会⑨

 椅子を所定の場所に置き、譜面台をリレーして配る。足がちゃんと広がっているか確認した譜面台に楽譜をセットして全体をチェックする。


 みんなの準備が揃ったことを確認して楽器を取りに行く合図をする。


 正面で合図を送る私の1メートル後ろには緞帳どんちょうがあり、その向こう側には各校の代表と父兄たちが緞帳の上がるのを待っている。


 列の最後方に陣取るトランペットとトロンボーンの男子が、打楽器の組み立てを手伝っていて、それもすぐに終わり、江角君からOKの合図が出る。


 私は一つ深呼吸をして、一歩一歩確かめるように自分の席に向かって歩く。


 隣の二年生の子から私のオーボエが手渡され、丁寧にそれを受け取りしっかり手に持ちチューニングのための音を出す。


 みんなが私の出す音に合うように音を整えていく。


 全員のチューニングが終わると、急にまた静かになる。


 座り直して背筋を伸ばし呼吸を整え、目を深く閉じる。


 呼吸が整ったかことを確認して目を開けて、顔をゆっくりと上げ正面の指揮台に立つ先生に向けると『行くぞ』と目で合図され、私も『はい』と目で合図を返す。


 後方の江角君が、ひとつだけ咳払いをしてから「お願いします」と係の人に声を掛けた。


 場内アナウンスが、私たちの中学校と曲名を紹介し幕が上がっていく。


 拍手に迎えられているようだけど私には自分の心臓のリズムしかなぜか聞こえない。


 再び深く目をつむった後、呼吸を乱さないようにゆっくりと席を立ち、指揮をする先生の指先に意識を集中して待つ。


 先生は私の呼吸に合わせて、優しく指を回し、それを合図にリードに息を送り込むと私の大好きな軽快で感情豊かな声が静まり返った会場の隅々まで溶け込んでゆくのが分かった。


 自分のソロパートが終わり席に着くと江角君に言われたとおり、余裕ができて他の人の音がいつもより良く耳に入ってくるのが分かった。


 最初、市の大会からアレンジを入れて三年生のソロパートを入れる案には正直反対だった。


 少ない人数だとミスが目立ちすぎるからだ。


 でも、こうして実際にやってみると三年間同じことを繰り返してきた強みか、誰もミスするどころか、逆にいつもよりいきいきと音とリズムを奏でていた。


 曲の終盤はトランペットとトロンボーンの金管楽器の二重ソロ。


 正直この部分の高音は三年生でも出すのが難しいところ。


 当然トランペットは金管の最も高い音を要求される。

 それはトランペットにしか出せないから。


 ソロの後半、ほんの少しだけトランペットの高音が弱くなった。


 それをカバーするために江角君のトロンボーンがかなり無理をして高音域をカバーしているのが分かった。


 さすが江角君とも思ったけど、音色の違うトロンボーンにカバーされたメロディーに私は違和感を覚えてしまった。


 フォローしなかったほうが自然だったのではないだろうかと……。


 曲が終わったとき、泣きそうなくらい感動して、実際涙が頬を伝うのが分かった。


 やり遂げた達成感にみんな沸き立っているなか、冷静な目をしていた人間が二人だけいた。


 それは江角君と私。


 私だって最初にソロを弾いていなかったら、みんなと一緒に手放しに喜んでいられたのだろう。

 だけど気がついてしまった。


 江角君の落胆した心に。

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