表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/820

中学最後の大会⑧

 到着したホールは、いかにもコンサートホールという建物。

 そのモダンな建物の中に入って行くと、そこは体育館とは別世界のコンサート会場というより映画なんかで見るオペラ会場のようなホール。

 圧倒されて「すごいね!コンサートでも始まりそうね」と里沙ちゃんに言うと「だって千春たちがやるのはコンサートでしょ」と返され、二人で笑った。

 笑った声が響きはしなかったと、特にこういうことに神経質そうな江角君を見ると、江角君もこっちを向いていて目が合った瞬間にそっぽを向かれた。

 心なしか江角君の顔が赤い。

『やっぱり……』

 なんにも知らずに喋っている里沙ちゃんには悪いけれど、江角君たら結構純情なんだと一人ニヤけてしまいそうになる顔を堪えるのが辛い。

 開会式が行われて、それから早い組順に演奏が始まった。

 私たちは順番が来るまで指定された席でおとなしく聞いている。

 もちろん私の隣には里沙ちゃん。

 演奏の練習は指定された順番で行われるので、それまではゆっくりしていられる。

 まだ市の代表を決める予選会なのに、どこの中学も物凄く練習してきているのが伝わってきて、聞いていて鳥肌が立つほど凄い。

 私が他所の中学の演奏を聴いて感動に浸っているとき、二列斜め前の江角君がこっちを向いていることに気が付いた。里沙ちゃんが気になるのかなと、ほのぼのとした顔で受け止めた私とは対照的に江角君は厳しく表情を引き締めて左腕に掛けていた腕時計を指さして見せた。

 いよいよ本番前の最後の練習だ。

 曲間に、みんなを誘導して会場の外に出て楽器を取る。

 練習というより音合わせが主体で各自自由に音の確認をしたり苦手な場所の練習をしたりしながら次第に緊張が高まって行く。

 特に三年生にはプレッシャーが掛かる。

 と言うのも今回の大会に向けて三年生だけ特別にソロパートが用意されている。

 ソロと言っても同じ楽器の担当はたいてい少なくても二人以上は居て、人気のトランペットやフルートは六人もいる。

 ……それなのに、嗚呼それなのに私の担当するオーボエは私一人。

 しかも普通省くことの多いイントロの部分が、このオーボエなので幕が開いたとたんに私一人でそれを独奏するという大役なのだ。

 これが最初決まった時、江角君に抗議したところ

「人に合わせる必要が無いから思ったより楽だよ。それに初っ端ってところは確かに緊張するだろうけど飼い犬の世話が確りできる鮎沢ならキチンとできると思うし、最初にやっておけば後が楽だよ」

 って言われ渋々納得した。

 確かにロンの世話なら、どこでどんなに人が見ていようとも確りやり切る自信はあるし、事実やってきた。

 でも、それをなんで江角君が知っているの……?

「本番前でーす。移動してください!」

 係の人から声を掛けられて、再び会場へと入る。

 今度は別の入り口「楽屋口」からだ。里沙ちゃんも途中まで搬送を手伝ってくれていたけど、搬送が終わると手を振って会場に戻って行った。

「用意してください!」係の人の声を合図にステージに楽器を運んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ