穏やかな時間
「なんでもないよ。……実は、俺もあんまり覚えてないんだ。ただ、俺は由季と違ってすぐにどうにかなっちゃったってわけじゃないみたいなんだけど……」
「そうだったんだ……。わたしは……、捕まってすぐにおじさんたちに連れて行かれて、病院のベッドみたいなのに無理矢理寝かせられたの……。そこからは、なんにも思い出せないの……」
由季は小さく震えていた。きっと、そのときの事を思い出すのは怖くて仕方ないんだろう。
由季は、本当に捕まってすぐに兵器に改造されてしまったんだ。
でも……俺はそんな由季をどうしてやることもできない。
「ユキちゃん、大丈夫だよ。スギサキくんはユキちゃんを必ず守ってくれるから」
ロナさんはそう言う。でも……俺にそんな力、あるのか……?
「俺は……ロナさんが言ったように由季を守れるかって言われると……自信はない。でも、できるだけ守ってあげたいとは思ってるんだ」
きっと、今の状態の俺が言っても説得力はほとんど無いだろう。でも……いつか、きちんとこの言葉の通りに行動できればな、と思う。
「……お兄ちゃん、わたしはまだ子どものままだけど、お兄ちゃんは大人になってるんだね……」
大人、か。由季にとっては俺は「お兄ちゃん」だ。だけど、由季は小さな頃の俺だけを見てきたから、今の姿は「大人」に見えるんだ。
その空白の時間の分だけ俺たちには差がある。なんか……寂しいな。
「……ねえ、お兄ちゃん」
由季は唐突に言った。
「ん?」
「ぎゅっ!ってして、いい?」
………
「えっ!?」
一瞬反応が遅れた。
そのうちにロナさんがなんか言っている。
「いいよいいよ!抱きついちゃいなよ!そんなこと了解取らなくたって兄妹なんだからオールオッケーよ!」
「そっか!わーい!」
ロナさんにけしかけられ、由季が俺に抱きついてきた。
あぁ……幸せだ……。って、違う!何考えてんだ、俺!
「ちょ、待って!苦しい……!」
抱きつくというより、思い切り絞めてる。このままだと窒息する。
「あっ!お兄ちゃん、ごめん!」
由季はすぐに離してくれた。
「由季……絞めすぎ……。死ぬかと思った……」
「でも、スギサキくんうれしそうだったよ」
やばっ。顔にでてた。
「そんなこと無いです。気のせいです」
「うっそだぁ。妹とはいえユキちゃんは女の子だもん、うれしくないはず無いって」
……ロナさんめ。まあ、嘘じゃないんだけど。
「お兄ちゃん、照れ屋さんだね」
由季は笑っていた。
今の時間がこのまま続けばいいと俺は思う。
でも……こういう幸せな時間は長くは続かないものなんだ。




