由季の記憶
「……お兄ちゃん?」
由季は心配そうな顔で俺を見ている。
「兄貴、やっぱカワイイッスね……」
「あれ、なんだ、カイ君もいたのね。ユキちゃん、カワイイ?」
「ハイ……」
カイは由季に一目惚れらしい。
ウィン先生は苦笑いを浮かべている。
「カイ、ちょっと俺とどっか行ってるか」
「え……?な、なんでっスか?俺も話したい……!」
「じゃあ、マサヤ。こいつ借りてくから」
「あ、はい」
ウィン先生は気を使ってカイを連れていってくれた。
「由季、久しぶり……?」
俺は由季に声をかけた。
由季はこの後何を言うんだろう……?
「お兄ちゃんの……バカ!」
え。第一声がそれか。
「やっぱり、お兄ちゃんに怪我させたのわたしじゃん!うそつき!」
「ち、違うんだ、ただ俺は……由季を傷つけたくなくて……」
俺はすごく困った。何をどう説明すればいいのか、それがわからない。
「……違うの、そういうことじゃなくて……」
由季は怒っていたかと思ったらふるふる首を振った。
「どうしよう……わたし、何言ってるのか自分でもわかんない……」
「……」
由季は、泣きそうな顔をしている。たぶん、いっぱいいっぱいになってしまったんだろうと思う。
俺がもし由季と同じような状況だったらどうなるか考えてみた。
「……ごめん。由季は何が起こったかよくわかってないんだよね」
「うん……。わたし、本当は何で自分がここにいるかもわからないの……」
由季はしょんぼりしている。
「気づいたらお兄ちゃんに怪我させてて……あのおじさんの声が頭の中でして、それがお兄ちゃんに怪我させちゃった元だってわかったから、あのおじさんと戦ったの……。お兄ちゃん、ごめんなさい……」
「……いいんだ、俺は由季とまた逢えてうれしいと思ってるんだから。怪我くらいどうってことないよ」
由季からしたら、俺の姿を見てない時なんてほとんど無いのだろう。
でも俺は、あの研究者たちに由季を連れて行かれてしまったときからずっと、由季のことを探し続けてたんだ。
「……ねえ、お兄ちゃんはいつの間に大きくなったの?」
由季は俺にそう聞いた。
やっぱり、兵器にされてから今の状態に戻るまでの記憶は全くないみたいだ。
「由季が俺のことを見てないうちに大きくなったんだよ。」
「私は?大きくなってるの?」
双子の兄妹なのに、年の離れた妹のような気分になる。
「うん。大きくなってるよ」
「……私はいつ大きくなったんだろう……?」
「由季」
俺は聞いてみることにした。……あまり聞きたくはないけど。
「自分がいま、何歳だと思う?」
「えっ?えっと……、12歳くらいかな?」
やっぱりそうだ。完全に由季の記憶には間がない。
「由季、鏡見てみなよ。大きくなってる自分、見てないでしょ?」
「うん……」
ロナさんがポケットをゴソゴソ漁る。やがてでてきたのは手鏡だった。
「はい、ユキちゃん」
「ロナさん、ありがとう」
由季は鏡を受け取り、そろそろと覗く。
「……わたし、こんなに髪、長かったかな?それに……思ったより大人の顔になってるよ……?」
由季は困惑気味な顔をしている。
「じゃあ、もう一回聞くけど、今、何歳だと思う?」
「……たぶん、15歳くらい……かな」
惜しいな。まあ、由季も俺も見た目より少しだけ若く見られるみたいだけど。
「ユキちゃん、惜しいね。正解は17歳だよ」
ロナさんが俺の代わりに言った。
「とゆうことは、由季は五年間の記憶がないってことなんだ」
「お兄ちゃんは?一緒にあの人たちに捕まったよね?」
「俺?俺は……、捕まった後……どうだったんだろう……?」
そう、俺の記憶はところどころない。でもそれは俺が兵器にされたから、ではない。なにか、思い出しちゃいけないことがあるんだろうか。
「どうしたの?」
「うーん……」
まだ黙っておこう。由季のことだから意外と心配すると思うし。




