相手の要求
マサヤは想像以上に物覚えがよかった。……ていうか、上達早すぎ。
「お前、ほんっとーに自転車乗ったことないの?」
「?……はい、ありませんよ。見たのだってこの前先生が乗ってたのが初めてですし」
でも……何か普通にもう乗れるようになっちゃってるんだよな。
「先生、早く本返しに行きましょうよ」
「ん?ああ、行くか」
図書館に着き、さっさと本を返して一息つく。
ひと休み中、初めて乗った自転車の感想をマサヤに聞いてみた。
「なあ、チャリに乗ってどうだった?」
「コツさえつかめれば結構簡単に乗れるんですね。俺、難しく考えてたみたいです」
「ふーん。そっか。じゃあ…」
ぴりりりり。
あ。電話だ。
図書館にいた人全員の視線が俺に集中する。
「先生、図書館はマナーモードじゃないとですよ」
マサヤに小声で注意された。
「わかってるよ」
同じように小声で返し、携帯ディスプレイを見た。
病院からだ。急いで図書館から出て、電話にでる。マサヤはその後を小走りでついてきていた。
「はい、ウィンストンです」
『…覚えているか?』
……誰だ?でも、聞き覚えのある声だ。まさか、この声は……!
「お前!あのときの!……あん時はよくもやりやがったな!」
『ふっ。そんなことを言ってる余裕があるのか?俺がここにいるということは……どういうことだかわかるな?』
「!!」
「先生!どうしたんですか!?」
『MS……杉崎雅也をつれてワーナル総合病院に来い。そいつの命と、人質ここにいる全員の命……どっちを選ぶかはお前次第だ』
ブツッ!と音を立てて通話は途絶えた。
「くそっ!あいつ……」
「何があったんですか!?」
マサヤは真剣な声で俺に聞く。
「まただ……またあいつ等がお前を狙ってる……!!病院にいる全員と、お前の命……。それで交換条件を出してきた……」
「……」
一瞬の沈黙の後…
「先生!早く帰りましょう!急がないと!!」
マサヤはこう言った。
「はあっ!?何言ってんだよ!行ったらお前死ぬんだぞ!?」
「俺は、そんなに簡単に死ぬつもりはありません。それに……これはチャンスです。由季を取り返せるかもしれない」
マサヤは俺を見据え、強気な笑みを浮かべる。
なんだ……?こいつ、ここ何日かの内に劇的に変わった気がする。この変化は……友達が出来たからとか?……まあ、今は考えてる場合じゃない。そこはまだ置いておこう。
「……わかった。戻るぞ。ただし、気をつけないと……あいつ等はお前の命を狙ってんだからな」
「わかってます」
「無理するなよ。俺たちはあくまでも警察が来るまでの時間稼ぎだ」
「はい」
「よしっ!確認完了!急ぐぞ!」
俺たちは自転車に乗り、全速力で病院に急いだ。




