差し向けられる追っ手
「ふんっ。バカだなお前」
ニコルは目の前で電話の受話器を置いた男に言った。
現在、ワーナル総合病院内のほぼ全ての人間が一カ所に集められていた。そしてそこにいる全員が後ろ手に縛られている。
そこは三階・ナースステーション。普段、ニコルやウィンなどが看護師との打ち合わせに使う場所だ。
「お前たちがマサヤとウィンを襲った犯人なんだろ?あいつ等がおとなしく戻ってくると思うか?」
ニコルの言葉に男は訝しげな視線を向ける。
「どういうことだ?」
「やっぱバカだ。お前、自分がやってることわかってねーもん」
挑発的なニコルの言葉に男は怒りを露わにした。
男は見張りに立たせておいた少女をニコルに差し向ける。
「次に同じようなことを言ったら殺す。ここにいる患者も含めてな」
「ちっ……」
ニコルは舌打ちし、そっぽを向いた。
「YK01、外から状況を確認してこい。MSAAAを発見したらまず医者と引き離せ」
「……了解」
ニコルは少女が気になり、去っていく少女を見る。なんだか、見覚えのある顔立ちだ。
「部長、部長」
「なんだい?」
小さな声で部長に声をかける。
「あの女の子、誰かに似てませんか?誰かって聞かれるとちょっとわかんないんすけど」
「うーん……。どうかなあ?私にはよくわからないんだが……」
「あと、ここから脱出する算段を考えましょう。あいつ、ウィンに電話かけてたんで、ウィンたちたぶんすぐ戻ってくると思うんですよ。二人が戻ってきたら俺、あいつに襲いかかってやろうかと思って」
「ほーう。一矢報いてやろうと言うことだね。いいじゃないか」
部長は頷く。
「ちょっと必要なものがあるんですけどね」
そういって、ニコルはニヤリと笑った。
「……標的捕捉……」
少女は自転車に乗ってやってくる二人の影を視界の端に発見した。
自転車を乗り捨てる二人。
その様子を確認した後、素早くロビーに移動した。
自転車を乗り捨てて病院内に入る。すると、そこには由季がいた。
「由季!」
「……」
由季は無表情で俺に武器を向ける。武器は……腕と同化していた。
「……一部、変化型だ……」
なんか、覚えのない単語が俺の口から出た。
「一部変化型?……あの子の兵器の形のことか?」
「えっ?いや、わからないです。たぶん、そうなんだと思うんですけど……勝手に口から出ました」
「ん?どういうことだ?」
「……敵戦力、二名。内一名が標的です。もう一名はどうしますか」
由季は小さな声でつぶやいている。
「……了解」
たぶんどこかに先生に電話をかけてきた奴がいるはずだ。そいつと連絡を取っているのだろう。
「……標的捕捉。敵戦力分散モード、起動」
由季は俺と先生の間に割り込み、俺に切りかかる。
「先生!みんなを探しに行ってください!たぶんもう一人は由季ほど強くはないと思います!」
「何言ってんだよ!?それじゃ敵の思うツボだぞ!」
「俺としては二人だけの方が好都合です!」
振り下ろされる腕をかわしながら先生に言った。
「……わかった!絶対戻ってくるからな!それまで死ぬなよ!」
先生はそう言って階段を駆け上がっていく。
これでこの空間は俺たち二人だけだ。
「……さあ、来い!」
俺は丸腰だが、逃げるつもりもないし死ぬつもりもない。
ここで……、絶対に由季を取り戻す!




