第八十七話「五人」
数日後。
放課後の訓練場に入ると、すでにガレスたちが一区画の中央に集まっていた。
「お、来たな」
ガレスがこちらを見て手を上げる。
その横にはリネットとエミール。ルシアンは中央に置かれた魔導具の認証部を確認していた。
今日は五人だけではない。
反対側にも、同じ三組の学生が五人いる。
その中心にいた男子生徒が俺に気づいた。
「よろしく、アストリア」
「うん。よろしく」
マルク・ヴェルナー。
同じ三組なので授業では何度も顔を合わせている。今日はマルクの班が、俺たちの相手をしてくれることになっていた。
五人全員で、実際に別の班を相手にする。
それは今日が初めてだ。
「腕がなるな」
ガレスが靴底で訓練場の地面を二度踏み、感触を確かめる。
「ガレス、今日は相手を倒す練習じゃないからね」
「分かってるって」
ルシアンが中央から戻ってきた。
「一応、最後に確認しようか」
俺たち五人が認証板の近くに集まる。
練習内容は昨日のうちに共有されている。
ルールは、予選の課題争奪をかなり単純にしたものだ。
訓練区画の中央には、腰ほどの高さの台が一つ置かれている。その上に透明な認証板があり、縁には十個の小さな印が並んでいた。
「どちらかの班が認証板に触れて魔力を流す。十個全部点けば勝ち。途中で手が離れたらゼロからやり直し」
ルシアンが言う。
「相手への攻撃と妨害はあり。安全核が作動した人はその試合では抜ける。当然、相手を全員離脱させてもそこで終了」
「一人二人落としても、中央取られたら負けってことね」
リネットが確認する。
「そう」
ルシアンが頷く。
最初の一戦については、昨日の時点でもう一つ言われている。
必要な警告や、見えている相手の位置を伝える声掛けはする。
ただ、ルシアンから誰をどこに動かすかという指示は、試合中には出さない。
初めて五人で相手と戦った時、それぞれがどう動くのかを先に見ておきたいということだった。
ルシアンが俺を見る。
「あとレイン。今日はこの区画をまとめて巻き込むような魔法はなしで」
「分かってる」
そもそも、この広さで大規模な魔法を使えば練習にならない。
相手が逃げる場所も無いし、遮蔽物を使う意味もなくなる。
「今日は五人で動いた時に、どこが崩れるかを見るのが目的だからね」
「認証は?」
リネットが聞く。
「最初は僕がやる」
「レインじゃなくて?」
「レインは十秒間ここに固定するより、戦う側に残した方がいい」
俺は無詠唱で魔法を発動できるし、状況に応じて複数の属性を切り替えられる。
認証板に手を置いて十秒間動けなくなるより、戦う側にいた方が使える場面が多い。
「分かった」
「俺は後ろから見る」
エミールが言った。
「ガレス。岩壁を出すなら、中央の射線だけは塞がないで」
「おう。じゃあ俺は前だな」
ガレスが中央を見る。
「私は右を見るわ」
リネットも続いた。
今までの実技の授業で何が得意かは互いに知っている。
ルシアンが区画を見る。
今回借りた場所は、横より奥行きのある長方形だった。
中央に認証板。
俺たちとマルクたちは、その両側にある白線から向かい合って開始する。
白線から中央までは、身体強化まで使って全力で走れば数秒で詰められる。ただし、その間には何もないわけではない。
中央付近には、人の腰より少し高い石造りの障害物が互い違いに置かれている。完全に身体を隠せるほどではないが、しゃがめば射線は切れる。
さらに外側。
区画の左右端に近い場所には、人の背丈を越える柱状の障害物が二本ずつ立っていた。二人並んでも身体を隠せるくらいの幅がある。
中央から外周を走る相手を追えば、途中で一度はその陰に入る。
そこまで行けば、中央からは姿が見えない。
安全核は全員がすでに装着している。
安全核は、この訓練場の基幹結界と繋がり、危険な攻撃が成立する直前に結界を介入させる魔導具だ。
反対側では、マルクたちも配置についた。
前に三人。
実技の授業でも、出力の高さが目立っていた学生たちだ。
その後ろにマルクと、もう一人。
(正面から来るのか?)
俺は杖を握る。
誰が前に出るか。
誰が後ろに残るか。
どんな魔力を動かすか。
一対一の時よりも、見る場所が更に多い。
「こっちはいいよ」
ルシアンが声を上げる。
「こっちも」
マルクが返した。
一拍置いて。
「始め!」
同時に地面を蹴った。
ガレスが真正面から中央に走る。
俺は一歩だけ遅れて、その右後ろ。
相手も前の三人が中央に出た。
一番前の学生が詠唱を始める。
赤い魔力が杖先で膨らみ、横に広がった。
炎。
正面を薙ぐようにガレスに迫る。
「大地よ、我が声に応えよ」
ガレスは走る速度を落とさない。
「重なり、固まり——立ちはだかる壁となれ!」
地面が鳴った。
正面に、肩ほどの高さまで岩がせり上がる。
横幅はガレスの身体を正面から十分に隠し、左右にも余りがある。
位置は中央よりやや右。
後方左にいるエミールから認証板までの射線は外している。
轟ッ!
炎が岩壁にぶつかった。
表面が赤く焼け、細かな石片が落ちる。
それでも抜けない。
ガレスは自分で作った岩壁の左端から出た。
「右、一人来る」
エミールの声。
リネットがそちらを見る。
正面を岩壁で止められた相手の一人が、中央右の障害物を回り込んでいた。
横から崩すつもりらしい。
「水よ、集いて弾となれ!」
リネットから三つの水弾。
一発目は正面。
相手が石造りの障害物の陰に入る。
二発目はその端。
出てくる場所を塞ぐ。
三発目にだけ、白銀の風が添った。
「風よ、細く添いて、軌道を導け」
水弾が障害物の際で緩く曲がる。
相手が一歩引いた。
そこに、後ろから小さな魔力弾が通る。
エミール。
狙ったのは身体じゃない。
相手が展開しかけた結界の端。
パキッ。
薄い部分だけを撃ち抜き、結界が崩れる。
「っ!」
相手が障害物の陰まで下がった。
中央が空く。
ルシアンが走った。
俺とガレスも前に出る。
マルクが杖を上げた。
赤い魔力。
火属性魔法の詠唱が始まる。
俺はその正面には行かない。
小さな火球を一つ作った。
無詠唱で、マルクの右側から斜めに入れる。
その場に残れば防御が必要になる。
マルクが左に動いた。
そこに。
土。
足を置こうとした場所だけを、脛ほどの高さまで隆起させる。
「っ」
踏み込みが止まった。
マルクが左に退いたぶん、火球は最初に通した射線のまま、その右脇を抜けた。
マルクは結界を張りながら後ろに下がった。
「押すぞ!」
ガレスが前に出る。
相手の前衛が一度下がった。
そのままガレスは認証板の手前まで進む。
「大地よ、我が声に応えよ」
もう一度、土の魔力が集まる。
「重なり、固まり——立ちはだかる壁となれ!」
認証板と相手班の間に、二枚目の岩壁がせり上がった。
今度は認証板の正面を守るための壁だ。
正面から飛んでくる魔法は遮りつつ、左後方にいるエミールから中央を狙う線は残している。
その隙に、ルシアンが認証板に手を置いた。
魔力が流れる。
一つ目の印。
二つ目。
俺は中央の右前に残る。
マルクがもう一度出ようとするが、俺が正面に入ると止まった。
左ではガレス。
右ではリネット。
後ろにはエミール。
石造りの障害物の端から相手が身体を出すたび、エミールの魔力弾がその近くを抜ける。
当てる必要はない。
陰から出れば狙われる。
それだけで動きが遅れる。
三つ目。
四つ目。
五つ目。
「正面やめる!」
マルクの声が飛んだ。
相手の動きが変わった。
前にいた三人が、一斉に広がる。
一人は認証板の前にガレスが作った二枚目の岩壁を左から回り込む。
一人はリネットの右。
残る一人は中央を挟んでエミール側に圧力を掛ける。
そして、それまでマルクの後ろにいたもう一人が、大きく左の外周に走った。
「左!」
エミールが言う。
外に出た学生は、石造りの障害物を回り、そのまま柱状の障害物に向かう。
認証板じゃない。
エミールが狙いだ。
相手が短く詠唱する。
白銀の魔力が細く引き伸ばされ、三枚の風刃に変わった。
エミールが一枚目を避ける。
二枚目がその足元を走り、位置をずらす。
三枚目を結界で受けた。
相手はそのまま柱の陰に入る。
射線が切れる。
このまま近づかれれば、エミールは中央を援護できなくなる。
ルシアンは認証板に手を取られている。
魔法を完全に使えないわけじゃない。でも、その場から自由に動けない以上、できることは限られる。
ここでエミールまで自分を守るだけになれば、自由に戦えるのは俺とガレス、リネットの三人。
向こうは五人とも動ける。
しかも、正面にいる三人は出力が高い。
ガレスなら正面から受けられる。
でも、リネットは出力をぶつけ合うより、複数の魔法を動かして崩す方が得意だ。
(だったら)
俺は左に走った。
相手が柱の陰から出る。
こちらを見る。
そして、そのままエミールとは反対方向に走った。
(逃げる?)
中央を一度だけ見る。
ルシアンの認証は六つ目。
ガレスは正面。
リネットは右。
エミールも、相手が離れれば中央に射線を戻せる。
マルクたち四人はまだ中央側にいる。
こいつを短時間で落として戻れば、エミールも中央への援護に戻れる。
中央の負担は一気に減る。
(先に落とす)
地面を蹴る。
身体の内側を巡る魔力を、脚に寄せる。
必要な場所に魔力を集める使い方自体は、昔からしていた。
でも、アルドリックと戦って、その一瞬の切り替えだけで動きがどこまで変わるのかを、改めて思い知らされた。
脚に流す魔力を一気に増やす。
踏み込む。
地面が後ろに流れた。
距離が縮まる。
相手もそれに気づいた。
走りながら詠唱。
三枚の風刃が生まれる。
一枚目は正面。
二枚目は右側。
三枚目は膝より低い位置を薙いできた。
(なら)
脚の強化を切らない。
体幹にも魔力を回す。
踏み切った。
身体が地面から離れる。
一枚目が足元を通る。
空中で身体を捻った。
肩。
腰。
脚。
勢いのまま一回転。
二枚目が、さっきまで胸のあった場所を抜けた。
三枚目がその下を走る。
視界が一度上下に回る。
でも、相手の魔力だけは見失わない。
着地。
片足。
すぐにもう一歩。
(できた)
アルドリックほど滑らかじゃない。
それでも止まらなかった。
相手との距離が一気に縮む。
「速っ——」
相手がもう一度詠唱を始める。
待たない。
土。
左側の地面を斜めに持ち上げる。
大きな岩壁を作る必要はない。
逃げ道を一つ削るだけ。
相手は右に切り返した。
そこに火球。
小さい。
でも走ったまま受けるには近い。
「くっ」
相手が止まり、結界を張る。
火球が弾けた。
その瞬間。
風。
結界ごと身体を横から押す。
大きく飛ばす必要はない。
足が半歩ずれれば十分。
青紫の魔力を細く束ねる。
雷。
相手も気づいたらしい。
結界を正面に厚くする。
なら。
雷を撃たない。
もう一度、逆から風を入れる。
「なっ——」
身体が戻る。
それに合わせて結界の正面も僅かにずれた。
空いた肩口。
そこに紫電を通す。
バチッ!
直撃する寸前、基幹結界の光が割って入った。
胸元の安全核が赤く染まる。
相手が止まった。
「……参った」
悔しそうに杖を下ろす。
これで一人離脱。
すぐに中央を振り返る。
柱が間に入って、認証板までは見えない。
その向こうから、立て続けに重い魔法の衝突音が聞こえている。
(戻らないと)
身体強化を脚に残したまま駆け戻る。
柱の横を抜けた。
「っ——」
さっきまでとは、状況が変わっていた。
認証板の正面に作った岩壁は半分近く崩れている。
ガレスはその手前で一人とぶつかり、リネットは右側から押し込まれていた。
エミールも最初より後ろ。
そして。
認証板に手を置いているのはマルクだった。
印は、すでに八つまで光っている。
(まずい)
地面を蹴る。
マルクまで一直線。
その間にいる一人が、こちらに杖を向けた。
九つ目。
火属性の魔力が膨らむ。
避けている時間はない。
土。
目の前に低く隆起させ、その上を踏む。
身体強化。
蹴る。
障害物ごと飛び越える。
着地。
まだ遠い。
マルクがこちらを見る。
十個目の印が光った。
カァン——。
高い音が訓練場に響く。
間に合わなかった。
俺は速度を落とした。
認証板の十個の印が全部点灯している。
ガレスも、リネットも、エミールも、ルシアンも致命判定は受けていない。
マルクたちも、俺が落とした一人以外は全員残っている。
ただ。
認証板の前に作ったガレスの岩壁は一部が崩れ、リネットの前にある障害物には黒い焦げ跡が残っていた。
エミールも、最初にいた位置から大きく後ろに下がっている。
俺たちが六つまで点けていた印は全部消えていた。
六つまで先に進んでいた。
相手も一人落とした。
それでも、間に合わなかった。
マルクが認証板から手を離し、こちらに来た。
「追ってくれたな」
「……」
「あいつには途中から、エミールを狙ってもらった。アストリアが来たら、そのまま外まで引けって」
「……俺を外すため?」
「正面から押そうとしても無理だったから」
マルクは中央を見た。
「お前を倒すより、ここから離した方が早いと思った」
「俺が追わなかったら?」
「そのままエミールに張りつく」
どちらでもよかったのか。
俺が行けば、俺が中央から消える。
行かなければ、エミールの援護を止められる。
「俺がいない間、どうなった?」
「相手の三人に押された」
ガレスが答えた。
認証板の前に残る岩壁を見る。
「三人とも出力が高い。俺は正面の一人を止められたけど、そいつを押し返してる間にもう一人が右に回った」
「私がそっちを止めた」
リネットが続ける。
「でも、まともに出力をぶつけられると押し返すので精一杯だったわ」
リネットは軌道を変えたり、複数の魔法を同時に動かしたりするのが上手い。
エミールも、遠くから狙った場所を抜く精度がある。
でも、二人とも正面から大きな出力をぶつけ続けるタイプではない。
「俺の方にも一人来た」
エミールが言う。
「中央を狙おうとすると撃たれる。撃ち返せば、マルクを見られない」
「僕は六つまで進めてた」
ルシアンが認証板に触れる。
「でも、その三人が一気に前に出た時点で、ガレスたちだけだと中央まで押し込まれると思った」
「それで手を離した?」
「最初は離してない」
ルシアンが首を振る。
「僕も片手で撃ち返した。でも、認証板に触れたままだと避けられない」
向こうから高出力の魔法。
正面ではガレスが一人を止めている。
右ではリネット。
左後ろではエミール。
そして俺はいない。
「二発目が来たところで、僕が板から離れた」
ルシアンが一歩横に動く。
「そこで六つ全部消えた」
「マルクは?」
「まだ触ってない」
マルクが答える。
「メルヴィンが板から離れたあとも、すぐには入れなかった」
ルシアンが続ける。
「僕が中央に残って、マルクを止めてたからね」
「じゃあどうやって?」
「もう一回、三人で押してきた」
ガレスが言った。
「俺が正面。一人止める。リネットとエミールもそれぞれ一人」
「でも」
リネットが認証板を見る。
「それで三人とも手一杯になった」
残るのは。
ルシアンとマルク。
「僕はマルクを止めようとした」
ルシアンが言う。
「でも、ガレスが止めてた一人が一度だけこっちに大きいのを撃ってきた」
「こっちは抜かせてないぞ」
「分かってる。撃った後はガレスに戻ってる」
ほんの一瞬。
ガレスに向けていた高出力を、中央に振った。
ルシアンはそれを防ぐ。
その間に。
「俺が反対側から入った」
マルクが言った。
「そこから十秒」
「止められなかったの?」
「止めようとはしたよ」
ルシアンが答える。
「でもその十秒だけ、向こうは三人とも倒しに来なかった」
ガレスの前の一人は、岩壁を越えない。
ただ近づかせない。
リネットの相手も、正面から押し切ろうとせず、広めの魔法で進路を塞ぐ。
エミールの相手も、射線に入るたびに防御させる。
「僕が一人の結界を割って中央に戻ろうとした時には、半分以上点いてた」
ルシアンは弱くない。
初回実技でも高い出力を出していた。
でも、認証をしていた分だけ最初の対応が遅れた。
しかも、相手側には正面から出力を押しつけられる学生が三人いる。
ガレス一人なら対抗できても、リネットとエミールまで同じ形で受けるのは苦しい。
「最後は?」
「僕がマルクを狙った」
ルシアンが言う。
「一発は前に入られて止められた。次を撃つ前に終わった」
十秒。
長いようで。
実際に魔法を撃ち合っていると、短い。
「……そっか」
俺が相手を追っている間。
中央に残った相手は、高出力の三人とマルク。
こっちも四人残っていた。
でもルシアンは認証板から動けない。
実際に相手の攻撃を受けながら中央を守っていたのは、ガレス、リネット、エミールの三人だった。
そこで押された。
ルシアンが認証を諦めて戦えるようになった時には、それまで進めた分は消えていた。
「でも、ここまで崩れるとは思わなかったな」
ルシアンが言った。
「指示出さなかったの、わざとなんだよな?」
ガレスが聞く。
「うん」
「じゃあ今のも予定通り?」
「負けるところまでは予定してないよ」
ルシアンは普通に答えた。
「誰かが外れた時に、残った四人がどう動くかは見たかった。でも、想定より全員が別々に対応した」
「俺が追ったのは?」
聞く。
「結果だけなら戻った方がよかった」
ルシアンはすぐに答えた。
「でも、あの時点で追う判断がおかしかったとは思わない。エミールを放っておけば援護が止まってたし、レインなら短時間で一人落とせる可能性も高かった」
実際に落とした。
急いで戻った。
それでも間に合わなかった。
「僕も、レインが一人落として戻ってくれば有利になると思ってた」
「じゃあ何が悪かったんだ?」
ガレスが聞く。
ルシアンは認証板から少し離れ、中央を見る。
「五人の役割が、一人動いただけで全部ずれたこと」
ガレスを見る。
「ガレスは高出力の相手を正面で止められる。でも二方向は無理」
次にリネット。
「リネットは動かしたり崩したりするのは得意だけど、出力勝負を続けると動けなくなる」
エミール。
「エミールも近づかれると、中央を撃つ仕事と自分を守る仕事を同時には続けにくい」
最後に、自分が立っていた認証板。
「僕は出力を出せる。でも認証中にそこを任されたら、動けない」
「レインが抜けたところを、誰も埋められなかったってこと?」
リネットが聞く。
「それもある」
ルシアンが頷く。
「でもレインだけの問題じゃない。今日は僕が指示しなかったから、全員が目の前の相手に合わせて動いた。それぞれの判断は変じゃない。でも、その結果を誰もまとめてなかった」
ルシアンは今日、俺たち五人だけで何が自然にできて、何ができないのかを見た。
「じゃあ次は指示するの?」
俺が聞く。
「少しだけ」
ルシアンが答える。
「いきなり全部決めるんじゃなくて、今崩れたところだけ直そう」
「まず何だ?」
「レインが外まで追わない」
ガレスが即答した。
「俺?」
「そこはそうだろ」
「まあ……」
「でも、それだけにするとまたエミールを狙われる」
ルシアンが言う。
「だから追う距離を決める。外側の柱を越えない。そこまでで落とせなかったら戻る」
俺がさっき中央を見失った場所だ。
「分かった」
「エミールが近づかれた時は?」
リネット。
「今度は僕が早めに認証を切る」
「最初から?」
「危なくなってから慌てて離れるよりいい。認証を六つまで進めても、全部消えたら同じだから」
「その間、誰が中央を見る?」
ガレスが聞く。
「そこを今から決める」
ルシアンが認証板から離れた。
ガレスは自分の岩壁を見る。
「次はもう少し中央寄りに出すか」
「中央寄りすぎると俺の射線に入る」
エミールが言う。
「じゃあどこだよ」
「一回立ってみればいい」
「おう」
二人が実際に位置を取り始める。
リネットも右側の石造りの障害物まで歩いていき、そこから中央に杖を向けた。
「ここなら中央は見える。でも外を回られたら一回切れるわね」
「半歩後ろなら?」
「今度は認証板が障害物にかかる」
「じゃあ俺がそこを見る」
ガレスが位置を変える。
「でも正面——」
「そこは僕が見る」
ルシアンが続ける。
「認証を切った後だけね」
さっきまでは、それぞれが自分の前を見ていた。
今度は、誰かが動いた後に何が空くのかまで確認している。
俺は中央に残った。
認証板を見る。
十個の印は消えている。
俺が相手を追っていった左の外周を見る。
そこから中央。
さっきは、あの一人を早く落として戻れば間に合うと思った。
実際、一人は落とした。
でも戻る前に盤面をひっくり返された。
「レイン」
ルシアンに呼ばれる。
「次の位置、確認するよ」
「うん」
反対側では、マルクたちも開始位置に戻っていた。
さっき離脱した学生も、もう一度開始位置に入っている。
認証板の十個の印も、最初の状態に戻った。
俺はもう一度、中央を見る。
「もう一回」
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