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第三十四話「州都セレスタ」

 日の出前。


 少し眠い。


 屋敷の正面玄関を出ると、二台の馬車と護衛の騎兵がすでに待っていた。


 その傍らで、レオンが外套の留め具を確かめている。


 外套の下、腰にはいつもの長剣がある。


 少し離れたところでは、セレナが身の丈ほどある長杖を手に、馬車へ積み込む革鞄を確認していた。


 白い魔導衣の上には濃紺の外套。


「先生、その杖も持っていくんですね」


「地脈の異常について話すのでしょう。現地の記録や魔晶石を確認することになるかもしれませんから」


 昨夜の地図が頭に浮かぶ。


 州東部で起きている、いくつもの異変。


「レオン様」


 オスカーが書類の束を差し出した。


「昨夜までに届いた報告の写しです。地脈観測所からの追加報告も最後に綴じております」


「ああ」


 レオンが受け取る。


「留守を頼む。新しい報告が入れば、内容にかかわらず伝信を」


「承知いたしました」


 オスカーは一礼した。


 州都へ向かうのは、レオン、俺、セレナ。


 それに最低限の護衛だけ。


 領主が領地を離れる以上、オスカーは残って領内から届く報告を取りまとめることになっている。


「レイン」


 振り向くと、テレシアが立っていた。


「気をつけて行ってくるのですよ」


「はい」


「今日は、よく見てきてください」


 昨日、レオンにも言われた。


 発言するためではない。


 まずは、見る。


「行ってきます、母様」


「ええ。いってらっしゃい」


 馬車へ乗り込む。


 セレナの長杖は、座席脇の留め具へ固定された。


 それを確認してから、扉が閉じる。


 御者が手綱を鳴らした。


 まだ人通りの少ない領都を抜け、馬車が西へ走り出す。


 昨日。


 十二歳になった。


 成人の儀を終えた。


 《旗契(きけい)》にも登録された。


 帝国中央魔法学院からは、特例入学を認める手紙まで届いた。


 それだけでも十分すぎる一日だったのだが。


 その翌朝には、州政府の緊急対策会議へ向かっている。


(……成人二日目から、随分と忙しいな)


 窓の外を見る。


 空が、ゆっくりと色づき始めていた。


 ***


 領都を離れてしばらくは、見慣れた景色が続く。


 街道沿いの農地。


 点在する村。


 赤い星霊花(ルミア)の畑。


 しかし、アストリア領の中心部から離れ、州都へ続く東部幹線街道へ入った頃から、景色が変わり始めた。


 まず違ったのは、道そのものだった。


 大型の荷馬車が三台並んですれ違えるほどの幅があり、その外側にも騎馬や徒歩の人間が通れる余地が残されている。


 路面には平たい石が敷き詰められ、両側には排水用の溝。


 一定の間隔で街道標が置かれ、その先には馬と御者を休ませる中継所まで見えた。


 これまで走っていた街道より、馬車の揺れも明らかに小さい。


「ここまで違うんですね」


「州東部の主要街道だからな」


 向かいに座るレオンが答える。


「アストリア領だけのためにある道ではない。東部各領と州都を結び、人と物資を運ぶための道だ」


 言葉通り、行き交う馬車の数も多かった。


 材木を積んだ荷車に、布を幌いっぱいに詰めた商隊。


 鉄材を運ぶ大型馬車も居れば、他領の紋章を掲げた貴族の馬車も通る。


 中には、見慣れない衣服を纏い、知らない言葉を交わしている商人たちもいた。


 やがて前方に、大きな川が現れた。


 その上に、大きな石橋が架かっている。


 何本もの太い橋脚が川の流れを受け止め、橋の上でも大型荷馬車が余裕を持って行き交っていた。


「父様。あれも州政府が造ったんですか?」


「州政府だけではない」


 馬車が橋へ入る。


「州政府、橋を利用する沿道の領地、それに中央からの補助も入っている。維持費も同じだ」


「一つの領地で管理するには大きすぎるから?」


「ああ」


 レオンが頷く。


「この橋が落ちれば、困るのは橋のある領地だけではない。東部から州都へ運ぶ物資も、その逆も止まる」


 窓から下を見る。


 川幅は広い。


 これだけの橋なら、造るだけでも相当な費用がかかるはずだ。


 (オスカーの授業で考えた橋より、何倍大きいんだ、これ)


 橋の中央ですれ違った荷馬車に、鉄で補強された木箱が何段も積まれている。


 箱の側面には、魔晶石を扱う商会らしい紋章。


 セレナも気づいたのか、そちらへ目を向ける。


「魔晶石ですね」


「昨日の報告にもありましたね」


 東部の採掘場で、掘り出された魔晶石の魔力含有量が落ちている。


 その話をしていた時だった。


 すれ違う荷馬車の御者台から、男たちの声が聞こえてきた。


「また上がったのか?」


「ああ。高純度品は前の仕入れより二割近くだ」


「そんなに?」


「東の鉱山が不調らしい。次の荷から、うちも値を変える」


 馬車は反対方向へ走り去り、声もすぐに聞こえなくなる。


「もう値段に影響が出ているんですね」


「商人は早い」


 レオンが言った。


「物がなくなってから動いていては遅いからな」


「領主も同じだ」


 昨日の段階では、まだ原因すら分かっていない。


 それでも州政府は情報を集め、東部の領主を招集した。


 何かが起きてから動くのでは遅い。


 そういうことなのだろう。


 橋を渡り終える。


 州都へ近づくにつれて、街道へ合流する道はさらに増えていった。


 そのたびに人が増え、馬車が増える。


 積まれている荷物の種類も増える。


 本でしか知らなかったものが、少しずつ街道の上へ現れていく。


 州都は、まだ先だ。


 ***


 昼を迎える少し前。


 馬車は、州都の手前に横たわる長い丘を登り始めた。


 それまで前方を塞いでいた斜面が、少しずつ低くなっていく。


「そろそろ見えますよ」


 セレナが言った。


 やがて馬車が丘の頂へ差しかかった。


 視界が、一気に開ける。


 俺は思わず窓際へ身を寄せた。


 眼下に、一つの巨大な街が広がっている。


 州都セレスタ。


 丘の麓からしばらく離れた場所を、灰白色の城壁が大きく取り囲んでいる。


 城壁の中では、無数の屋根が隙間なく連なり、その合間から石造りの塔や尖塔がいくつも伸びている。


 街の脇には大きな川が流れ、そこへ架けられた複数の橋から、太い街道が延びていた。


 街道には荷馬車や人の列が絶えず行き交い、川面には帆を張った荷船がゆっくりと進んでいる。


 城壁の内側でも、人の動きが小さな点となって絶え間なく続いていた。


 さらに街の奥。


 緩やかに高くなった土地には、周囲の建物よりひときわ大きな石造りの建物が建っている。


 これから向かう州政府の庁舎だろうか。


 領都とは違う。


 ただ大きいというだけではなかった。


 東部各地から伸びてきた街道がここへ集まり、人も、物も、情報も、この街を通って再び別の場所へ送り出されていく。


 昨日まで地図の上でしか知らなかったものが、今は眼下に一つの街として広がっていた。


「……あれが、州都」


 ようやく、言葉が出た。


「ああ」


 レオンの返事は短い。


 セレナが少しだけ俺を見る。


「帝都は、もっと大きいですよ」


「これより?」


 思わず聞き返した。


「はい」


 いつも通りの口調だった。


 帝都。


 帝国中央魔法学院のある、アルカディア魔法帝国の首都。


 昨日届いた白い封筒が、頭の片隅に浮かぶ。


 行ってみたい。


 州都でこんなに大きいんだ。


 帝都は、いったいどれほどのものなんだろう。


 どんな人が暮らし、どんな魔法が使われ、どんな研究が行われているのか。


 想像するだけで、わくわくしてしまう。


 けれど。


 今は違う。


 俺はもう一度、州都を見る。


 これから入るのは、観光のためではない。


 東部各地で起きている異変。


 その答えを探すためだ。


 馬車は坂を下り、州都へ続く人の流れへ入っていった。


 ***


 城門を抜けると、外から見ていた以上の人の多さだった。


 広い石畳を荷馬車が行き交い、その脇を商人や兵士、州政府の職員らしい者たちが歩いている。


 州軍の制服や他領の兵士。


 魔法省や軍務省の記章を付けた者もいる。


 州庁舎へ近づくほど、軍用馬車が増えている。


 馬車が大きな道を曲がると、目の前には立派な州庁舎が現れた。


 正面玄関前には、すでに何台もの馬車が停められている。


 側面に刻まれた家紋は、どれも違う。


「東部の領主たちだ」


 レオンが言った。


 馬車が停まる。


 レオンが先に降りる。


 その動きに合わせて腰の長剣が僅かに鳴った。


 セレナも長杖を手に続く。


 俺も二人の後ろから州庁舎に入った。


 ***


 案内された会議室には、すでに二十人近い人間が集まっていた。


 中央の長机の上いっぱいに、セレスタ州東部の地図が広げられている。


 周囲には貴族らしい服装の男たちのほか、州軍の将校、魔法省の魔導師、軍務省の職員もいた。


 その中に。


 見覚えのある男がいる。


「……カシウスさん?」


 暗い紅色の瞳がこちらを向いた。


 短く整えられた濃銀色の髪。


 軍服。


 腰には細身の黒い軍杖。


 軍務省魔導戦術局の帝国魔導師。


 カシウス・ヴァレリウス。


 カシウスは、少しだけ眉を動かした。


「……お前も来たのか」


「その反応、僕も同じです」


「別に驚いていない」


「今、眉が動きましたよ」


「気のせいだ」


 相変わらずだ。


 ただ、最初に会った時のような、値踏みする視線はもうなかった。


「軍務省からか」


 レオンの声が入った。


 カシウスの表情が戻る。


「はい。魔導戦術局から、東部異変への対応支援です」


「必要なら州軍への魔術支援と、上空からの偵察も受け持ちます」


「分かった。頼む」


 レオンが頷く。


 その時。


 会議室の扉が開いた。


 話し声が止まった。


 一人の男が入ってくる。


 五十歳前後だろうか。


 短く整えられた灰褐色の髪。


 上質な服を着ているが、目立つ装飾はほとんどない。


 手には、すでに何枚もの書類を持っている。


 男は席へ向かう途中でレオンを見ると、足を止めた。


「アストリア伯」


「グランフォード州総督」


 レオニス・グランフォード。


 セレスタ州総督。


 州全体の行政を預かる人間だ。


 その視線が、俺に向く。


「そちらが、昨日成人したというご嫡男か」


「レイン・アストリアです」


 一礼する。


「本日は父に同行させていただいております」


「レオニス・グランフォードだ」


 短く名乗る。


「成人、おめでとう」


「ありがとうございます」


「祝いの日の翌日から悪いが」


 レオニスは机の上の地図へ目をやった。


「こういうものは、早いうちに見ておいた方がいい」


 昨日、レオンにも似たことを言われた。


「はい」


 姿勢を正す。


 やがて全員が席へ着いた。


「始めよう」


 ***


「まず、確認できている事実だけを共有する」


 州政府の職員が立ち上がり、報告書を読み始めた。


「昨日までに、北東山地、東部森林、南東丘陵の複数地点で魔獣の生息域からの離脱を確認しています」


 地図に印が置かれる。


「東部三か所の地脈観測所では測定値が低下。最大で通常値より二十九パーセントの低下」


 さらに印。


「魔晶石採掘場七か所から、採掘された魔晶石の平均魔力含有量低下を報告。魔力吸収量の多い植物にも複数の異常が確認されています」


 昨夜、屋敷で聞いた内容と同じものも多い。


 けれど。


 州政府の地図へまとめられると、印の数がまるで違った。


 アストリア領から見えていたのは、州東部で起きている異変の一部にすぎなかったのだ。


 一通りの報告が終わると、一人の領主が手を上げた。


「避難路について確認させていただきたい」


 男が地図の南東側を指す。


「南東方面から州都へ入る南東支線で、すでに商隊が集中しています。現状のまま避難を始めれば、途中の宿場で詰まる可能性があります」


 州軍の将校が地図を覗き込む。


「ならば、一時的に商隊を制限して、南東支線を軍と避難民の専用路へ切り替えるべきです」


「待っていただきたい」


 別の領主が口を挟んだ。


「そこを閉じられれば、我が領から州都へ食料を運ぶ荷馬車も止まります」


 次々に意見が出る。


「アストリア伯」


 レオニスがレオンを見る。


「南東支線を避難優先に切り替えた場合、そちらへの影響は?」


「南東二村への増援が遅れます」


「どの程度だ」


「領軍だけで補うなら一個大隊を動かす必要があります。その分、東の森林側の予備隊が薄くなります」


「避難準備は?」


「昨夜のうちに荷馬車と集合場所を確認させています。ですが、まだ住民は動かしていません」


 レオニスが、少し離れた席にいる男を見る。


「グレイベル伯」


「はい」


「アストリア領南東二村の住民を、必要に応じてそちらで受け入れられるか」


 グレイベル伯が地図を見る。


「西側の宿場二か所と、その近くの倉庫を開ければ。ただし、長引けば食料が足りません」


「不足分は州備蓄から回す。受け入れ費用も州政府で負担する」


 続けて州軍の将校へ視線を移す。


「州軍第三大隊をアストリア領境近くへ移せるか」


「移動準備だけなら、すぐに」


「始めてくれ。ただし、出動命令はまだ出すな」


「はっ」


 話が、その場で形になっていく。


 レオンなら、アストリア領にある兵や食料、治癒所の中で、どうすれば領民を守れるかを考える。


 しかし、レオニスは違った。


 一つの領地で足りなければ、隣の領地を使う。


 領軍が足りなければ、州軍を置く。


 食料が足りなければ、州の備蓄を動かす。


 一つの領地の中だけで、答えを出す必要がない。


 州全体を見ながら、どこへ何を渡すのかを柔軟に決めている。


(......これが、州総督の仕事なのか)


「しかし」


 別の領主が口を開いた。


「まだ大規模な被害は発生していません。ここまで準備を進めれば、それだけでも商業や輸送へ影響が出ます」


「その通りだ」


 レオニスは否定しなかった。


「だから、まだ全域への避難命令は出さない」


「馬車を確保する。街道を空ける準備をする。治癒所の受け入れ余力を増やす。避難先を決めておく。州軍は移動できる状態まで整える」


「何も起こらなければ、かなりの費用になりますが」


「空振りなら、それでいい」


 迷いのない返答だった。


「費用について責任を問われるなら、私が負う」


 レオニスは地図から目を上げた。


 誰も反論しなかった。


 レオンも黙ったまま、僅かに頷いていた。


 ***


 その後も会議は続いた。


 州軍の配置。


 魔法省の派遣員による追加観測。


 治癒魔術師の待機場所。


 避難民を受け入れる宿場と倉庫。


 道路上で軍用馬車と避難民がぶつからないための通行順。


 一つずつ、具体的な準備に変わっていく。


 途中、カシウスも口を開いた。


「一つ問題があります」


 全員の視線が向く。


「魔獣群の移動がこのまま速くなれば、地上の斥候だけでは位置情報が遅れるおそれがあります」


「上空から見るつもりか」


 レオニスが尋ねる。


「はい。必要なら飛行魔法を使える者を出します。私を含め、数名が飛べます」


 思わず地図から顔を上げた。


 飛行魔法。


 セレナの監督下で訓練したことはある。


 けれど。


 それは決められた訓練区域の中だけだ。


 高い場所から、領地を見たことはない。


(空からなら、どう見えるんだろう)


 考えた、その時だった。


 会議室の扉が勢いよく開いた。


 全員が振り返る。


 州政府の職員が立っていた。


 呼吸が乱れている。


 手には新しい報告書と、丸められた地図。


「州総督!」


 レオニスが椅子から立ち上がった。


「何があった」


「東部各観測所より、緊急報告です!」


 広げられていた地図の上に、新しい地図が重ねられた。


 会議室の空気が変わった。


 赤い矢印が増えている。


 東部深部の広い範囲から、北西、西、南西へ。


 いくつもの線が、外へ向かって放射状に伸びていた。


「先ほどから、東部深部の複数地点で魔獣群の移動速度が急激に上がっています!」


 職員が地図を指す。


「確認されたのは、風喰狼(かざはみおおかみ)、岩甲獣(がんこうじゅう)に加え、灼尾蜥(しゃくびとかげ)、雷角鹿(らいかくじか)など、少なくとも九種!」


 どよめきが起こる。


 セレナが立ち上がった。


「生息域の重なる種ではありませんね」


「はい! 本来なら同じ進路を取らないはずの種も混在しています!」


「争いは?」


 レオンが尋ねる。


「一部で確認されています。ですが、多くは互いに争わず、西側へ移動を続けています!」


 やはり。


 昨日の地図と同じだ。


 魔獣が、東部の奥から離れている。


「長距離移動による疲弊と、魔力不足の影響と思われる興奮個体も増加しています!」


 別の印が置かれる。


「北東部では風喰狼(かざはみおおかみ)が防獣柵へ突進。南東部では灼尾蜥(しゃくびとかげ)の群れが街道脇の草地へ入り、火災が発生しています!」


「住民は」


 レオニスの声が低くなる。


「現在避難中です!」


 その時。


 再び扉が開いた。


 今度は別の職員だった。


「追加報告!」


「東部第五村、魔獣群と接触しました!」


 胸の奥が強く鳴った。


「外縁の防獣柵を突破! 住民と守備兵に負傷者が出ています!」


 昨日までは、まだ調査中だった。


 今はもう、人が傷ついている。


 レオニスは地図へ目を落とした。


 数秒。


 それだけだった。


「ここで話している時間は終わりだ」


 声が変わる。


「州軍第三大隊。準備中の配置変更を即時実行。東部方面へ進出」


「はっ!」


「第二大隊は州都周辺で待機。各領から来る避難民の受け入れと幹線道路の確保を優先」


「承知しました!」


「南東支線は商用大型車の通行を一時制限。避難民と軍用車両を優先する。止めた物資輸送は北側幹線へ迂回させろ」


 州政府の職員が次々と書き留めていく。


「グレイベル伯」


「はい」


「先ほどの宿場二か所を開けてくれ。避難民が来る」


「承知しました」


「魔法省の派遣班は地脈観測を継続。ただし深部への追加派遣は中止。既に入っている調査員も退路を確保しろ」


「はい!」


 レオニスの視線がレオンへ向く。


「アストリア伯」


「アストリア領東部の避難と防衛を任せる。現時点で、最も多くの移動群がそちらの周辺を通過する可能性が高い」


「承知しました」


 レオンはそれだけ答えた。


 だが、すでに地図を見ている。


 頭の中では、もう次の命令を組み立て始めているのだろう。


「カシウス・ヴァレリウス」


「はい」


「軍務省派遣班は上空偵察の準備を。地上の報告が追いつかなくなれば、魔獣群の位置と進路を上から確認してくれ」


「了解しました」


「各領との連絡は州政府で集約する。新たな情報は待たずに送れ。こちらからも随時流す」


 レオニスが全員を見渡した。


「各自、持ち場へ」


 一斉に椅子が引かれた。


 静かだった会議室が、瞬く間に動き始める。


 書類を抱える者。


 伝信札へ命令を書き込む者。


 地図から必要な部分だけを写す者。


 廊下へ走り出す軍人。


 俺も立ち上がった。


 視線はまだ地図の上にある。

 

 昨日より遥かに増えた赤い矢印。


 その多くが、州東部の奥地から西に伸びている。


 そして、その進路上に。


 見慣れた紋章があった。


 赤い星霊花(ルミア)。


 アストリア領だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


感想や評価などをいただけるととても励みになります。お気軽にお寄せください。


次話もお楽しみ頂ければ幸いです。よろしくお願いします。

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