第十四話「魔力を見ること」
ボンッ!
また失敗した。
右手の指先から漏れた魔力が、小さく弾けて消える。
「……難しい」
十回ほど繰り返しているが、まだ安定しない。
少なくしようとすれば、速くなる。
ゆっくり動かそうとすると、途中で量が膨らむ。
ようやく指先まで来たと思ったら、止める瞬間に勢い余って外へ出る。
「もう一度お願いします」
先生に言われ、身体の中心へ意識を戻す。
(今度こそ)
さっきより弱く。
もっと慎重に。
魔力が右肩へ動く。
今度はいい。
そのまま上腕――。
ボンッ!
「…………」
駄目だった。
「先生」
「はい」
「これ、本当にいつかできるようになります?」
「なります」
即答だった。
「私ができると言っているので、できます」
根拠が強いのか弱いのか分からない。
もう一度。
ボンッ。
さらに一度。
ボンッ。
そこで、先生が俺の左手を離した。
「少し待ってください」
腕を組み、顎に指を添える。
目を閉じた。
どうやら、考える時の癖らしい。
しばらくして、紫の瞳が開く。
「レイン」
「はい?」
「今、何を基準に加減していますか?」
「基準?」
「どれくらいの量を、どれくらいの速さで動かすか。何で決めているんです?」
「何って……」
考える。
「さっきより少なく、とか。もっとゆっくり、とか……」
「それを、どう判断しています?」
「感覚です」
答えた瞬間、先生が止まった。
「…………」
また目を閉じる。
「先生?」
今度は長い。
やがて、先生は額へ手を当てた。
「私の教え方が間違っていました」
「え?」
思わず聞き返す。
「先生が?」
「はい」
少し悔しそうだった。
「確認します。レインは、自分の魔力が今どこにあるか見えていますね」
「見えます」
「流れる速さも?」
「見れば分かります」
「量の違いも?」
「はい」
「……それなのに、なぜ感覚だけで調整しているんですか?」
「……あ」
言われて初めて気づいた。
俺は魔力を見ていた。
でも、扱う時は先生に言われた通り、ずっと『感じよう』としていた。
「普通の人は魔力が見えません」
先生が説明する。
「だから感覚を育てるしかない。目を閉じたまま、自分の手の位置を覚えるようなものです」
先生は俺をまっすぐ見た。
「けれど、あなたには見えている」
「はい」
「私は、目の見える人へ目隠しをして歩き方を教えていたようなものでした」
その例えは、すごく分かりやすかった。
「じゃあ……見ればいい?」
「そのはずです」
先生の声に、少しだけ研究者らしい熱が混じる。
「試しましょう」
右手を上げる。
「まず、私の魔力を見てください」
胸元の光が動く。
肩。
上腕。
肘。
手首。
指先。
一定の速さ。
一定の量。
そして、最後はぴたりと止まる。
「見えましたか?」
「はい」
「では、レインの魔力から同じ量を切り分けてください」
俺は自分の身体を見る。
今までの『少し』ではない。
目の前に、見本がある。
先生の指先に留まった光と、自分の光を比べる。
(多い)
少し減らす。
まだ多い。
もう少し。
ほぼ同じになった。
「できました」
「次は速度です。さっき私が動かした速さを思い出してください」
曖昧な『ゆっくり』ではない。
実際に見た速さだ。
俺は光から目を離さず、動かした。
胸元から右肩へ。
暴れない。
上腕。
肘。
手首。
そのまま、指先へ。
そして――。
止める。
光が、ぴたりと留まった。
「……」
思わず右手を見つめる。
できた。
今まで十回以上失敗していたことが、一度で。
先生は俺の左手を取り、魔力の動きを確かめている。
「先生?」
少しの沈黙。
それから、先生が小さく息を吐いた。
「成功です」
「……本当に?」
「はい」
胸の奥から、一気に嬉しさが込み上げた。
見えているのに、見ていなかった。
それだけだった。
そして初めて俺は、自分の『魔力を見る』力が、ただ綺麗な景色を見るためだけのものではないのだと実感した。
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