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愛しの仮面夫婦  作者: 結塚 まつり


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仮面夫婦の初夜

R18ではありません。たぶん。

「陛下、先ほどから顔が赤いですわ。もしや熱がおありなのでは? 侍医を、」

「……いや、不要だ」

「ですが、御身に何かあれば」

「……王妃が、可愛いので、緊張、している」

「……へ?」


沈黙が漂った。ヴィクトルは顔を真っ赤にしたまま俯いている。アンネリーゼの唇が弧を描いた。律儀に正座して畏っているヴィクトルの膝めがけて、ころりと身を転がす。膝枕状態で見上げると、ヴィクトルは分かりやすく動転した。逃げ腰になりかけたところで、アンネリーゼの頭を落とすまいと思ったのか、元の位置に戻る。けれど上体は僅かに引いたままだ。


「おっ、おお王妃」

「リゼとお呼びしてくださらないの?」

「えっ」

「わたくしは、陛下をヴィクとお呼びしたいわ」


もう茹で上がるのでは、と思うくらい、ヴィクトルは真っ赤になっている。顔だけではなく、耳や首までもだ。


「……り」

「り?」

「り、」

「り」

「……り、林檎酒は、お好きだろうか」


アンネリーゼは思わず真顔になった。


「林檎酒は確かに好きですけれど、ヴィクの方がもっと好きよ」

「んな」

「ヴィクは、わたくしの名前を呼んで下さらないの?」


見上げれば、ヴィクトルは手で顔を覆った。目を合わせてくれないのが無性に悔しくて、アンネリーゼが起きあがろうとした瞬間、視界がぶれた。

押し倒されたと理解するのに、数秒の間があった。


「あ、まり。煽らないでくれ。理性を保てない」

「あら。わたくし、可愛いですものね」

「……可愛すぎるのも考えものだ」


そうかしら、とアンネリーゼが頬に手を当てて首を傾げたところで、さらりと銀の髪が垂れた。


「……触れても?」


アンネリーゼは目を丸くした。閨の教科書には殿方の言うことには逆らわぬよう、と書いてあったし、指導教師もそう言っていた。

けれどその驚きをどう受け取ったのか、ヴィクトルは身を起こそうとした。アンネリーゼは慌てて、お待ちになって、と体を起こし、勢いが良すぎてヴィクトルの胸筋に頭をぶつけた。ヴィクトルは血相を変える。


「すまない! 大丈夫か」

「え、ええ。わたくしこそ、頭突きをしてしまってごめんなさい」

「いや、羽根のように軽やかだった」


その台詞を体重以外で使う人を初めて見た。


「ヴィク、わたくし、あなたに触れられるのが嫌なわけではありませんの。ただ、許可を求められたことに驚いただけ」

「……まだ、夫婦になって間もない。いきなり触れては、あなたが嫌がるかと思った」

「まぁ、夫婦ならば当然のことですわ。嫌だなんて思いません」

「そうかもしれないが。あなたが時間を求めるなら、それに応えようと思っている」


アンネリーゼはゆるゆると首を横に振った。


「いいえ。時間は必要ありません。わたくしはあなたの妻となる覚悟はとうにできております」

「……後悔は、なさらないか」

「わたくし、反省はしても後悔はしませんの」


笑顔で言い切ると、ヴィクトルは目を細めた。


「ですからどうか、わたくしをヴィクの妻にしてくださいな」


ゆっくりと、ヴィクトルの手がアンネリーゼの手を包む。恭しく、手の甲にキスが落とされた。


「……リゼ」


アンネリーゼは目を丸くした。この分では、今日中に名前を呼んでもらうのは無理かも、とさえ思っていた。


「……大切に、する」


アンネリーゼは笑い、ヴィクトルの首に手を回した。



***



小鳥の囀りに目を覚ます。けれどまだ眠い。何やら大きな温もりがあるので、アンネリーゼは無意識の内にそちらにすり寄った。温かい。気持ちいい。思った途端、温もりが大きく震えた。アンネリーゼが寝惚け眼を開けると、真っ赤な顔をしたヴィクトルと目が合った。


「......おはようございます、ヴィク」

「お、はよう、リ、リ、リゼ........」


どんどん尻すぼみになる声が可愛らしくて、アンネリーゼはくすりと笑みを漏らす。昨夜はアンネリーゼが照れに照れてヴィクトルが宥めてくれたのに、今朝は真逆だ。


「昨夜は情熱的に呼んでくださったのに」

「リ、リゼ!」


焦った様子でヴィクトルが離れようとするが、そもそもアンネリーゼに腕枕をしているので、動くに動けていない。アンネリーゼはこれ幸い、とヴィクトルにすり寄った。ヴィクトルは温かいし、くっついていると安心する。


「リ、リゼ、あの、ちか、」

「まあ、夫婦になったのですから、そんなに恥ずかしがらずとも.......あ、なるほど。殿方はいつも元気なのね」

「~~っ」


ヴィクトルは何も言えずに口を噤み、見る見る赤くなった。一方で揶揄ったアンネリーゼもまた、昨夜のことを思い出して頬が紅潮した。それを見たヴィクトルは瞠目する。


「......君も、随分顔が赤いが」

「なっ........それは、だって。昨夜、ヴィクがあんなに」

「嫌では、なかっただろう?」

「それは......そうですけれど」


するりと腕が抜かれる。銀の髪が垂れて頬を擽った。


「あの、ヴィク? もう、朝ですけれど」

「......初夜くらい、多めに見てもらえるだろう」

「へ」


口づけが落とされる。アンネリーゼは慌てた。


「ちょっ、ヴィク、もう、空が明るく、~~っ」

「――リゼが可愛すぎるのがいけない」


アンネリーゼの二度寝はお預けになった。






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