グレーデン国王兄弟の団欒
「ふえっくしぇい!」
「なんだアーノルド、体調が悪いのか? 休むか?」
「うーん、誰かが噂しているんでしょうかね」
ずび、と鼻を啜り、アーノルドは長兄ことグレーデン国王フィリップ四世を振り返った。フィリップは、棚の中からブランケットと布団を取り出したところだった。アーノルドは呆れ顔で兄を見遣る。
「そんなにしなくても大丈夫ですって。昔と違って、そんなに体が弱いわけではないですし」
「それは分かっているんだが、つい」
「分かってるならしまって下さいよ」
アーノルドはどっかりとソファに腰掛けると、ペラペラと手元の書類を捲った。今回は、アーノルドの息子・ノルドヴァル国王エーリクと、グレーデン王の姪に当たるーーフィリップの弟であり、アーノルドの兄であるニコラス王弟の娘であるー―公爵令嬢ヘートヴィヒの婚約についてまとめる為、アーノルドがグレーデンを訪れているのだった。
「ヘートヴィヒとの婚約で、色々騒がしいみたいですね。手間取らせてすみません、兄上」
「構わん。ノルドヴァル内の方が忙しないだろう」
「はは、エーリクなら大丈夫ですよ。うまく抑えられます」
「まぁそうだろうな、お前の息子だし……というか、エーリクにはきちんと伝えているのか?」
「何をです?」
「不義の子である可能性は低いと」
あはは、とアーノルドは笑う。一瞬安心したフィリップは、次の瞬間、己の甘さを呪った。
「言うわけがないでしょう。確証がないことを伝えてどうします」
まぁ、体調の崩し方とかそっくりですから、僕の子だとは思いますけどねぇ、とのんびりアーノルドは言葉を続ける。がっくりとフィリップは項垂れた。
「そうだよなそうだよなお前はそういう奴だよなぁ……」
「兄上からの信頼が厚くて嬉しいなぁ」
「馬鹿者、信頼じゃなくて今までの経験値だ。これまでどれだけ私がお前の行動の尻拭いをしてきたと思っているんだ」
病弱でのんびりしているように見えるアーノルドが、兄弟の中で一番苛烈であり、性格が悪いことを、フィリップはよく理解している。一度やると決めたら、絶対にやり通すし、意見は曲げない。そんな奴である。
「えー、そんなにお手伝いしていただきましたっけ。勿論、ノルドヴァル侵攻に関しては色々とご協力いただきましたけど」
「あの時だってお前、カール先王とヘレナ王太后の結婚祝賀会から帰ってくるなり『ノルドヴァルを攻め落としますね』だっただろうが」
「いやぁ、若きの至りってやつですね」
あはは、とアーノルドは笑い、手元の書類に幾つか書き込みを残す。
「それじゃ、キリがいいところまで終わったので、今日はこれで失礼します」
「いや早っ!?」
「早く正確に、が指針ですから」
「ぐぬぬ」
兄の唸り声を背後に、アーノルドは執務室の扉を閉めた。窓の外を見上げると、雪がしんしんと降っている。
懐かしいな、とアーノルドは目を細めた。
あの日ーーアーノルドが国をひとつ滅ぼそうと決めた日も、こんなふうに雪が降っていた。




