表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛しの仮面夫婦  作者: 結塚 まつり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/32

先輩侍従の受難

静寂な王宮に、夜の日差しが差し込んでいる。

白夜である。

ヨナスが勤務を終えて部屋を出た途端、声をかけられた。


「お、ヨナス」

「カイ先輩」


先輩侍従――カイ・エーゲシュトラントである。ほら、と菓子を投げて渡され、慌てて受け取る。


「どうだ、そろそろ慣れたか?」

「いえ、いや、はい」

「どっちだよ」

「その、仕事には慣れたんですけど、空間に慣れなくて......」

「ああー」


確かに俺も最初は慣れなかったな、とカイは腕組みして唸る。

そう、国王夫妻の激甘な寝室でのやりとりは、独り身には堪えるものがあるのだ。ヨナスも奥さんが欲しくなってきた。

それから、とヨナスは小さく零した。


「公開食事の時とか、すごく腹が立ってしまって――普段のご様子を、外でも見せられたらいいんじゃないかと思ってしまうんです。だって、陛下が妃殿下と仲が悪いことは、同盟を考えたらよくないこと、なんですよね? なら、むしろ仲睦まじく振る舞った方が......」

「それは、俺も思う時があるけどな。まあ、実際には難しいんだろう。結婚当初から、外ではあんな風だし」

「え、カイ先輩は結婚されたばかりのおふたりにもお仕えを?」

「ああ。出仕し始めたのは、ちょうどおふたりがご結婚された直後でな」


カイは懐かしむように目を細める。


「今とは少し違ったけど、温度差で風邪を引きそうだったのは同じだ」



***



寝台の上で、一組の男女が見つめ合っている。


「.......っ、リゼ」


国王は息も絶え絶えに王妃の名を呼ぶ。国王の腹の上に跨った王妃は、だめよ、と冷たく言い放った。


「まだ、だめ」

「これ以上は、耐えられない」

「できるはずよ」

「リゼ......!」


何を見せられているのだろう、と部屋の隅に控えていたカイは真剣に思った。

国王が目を閉じ、ちょっとヴィク、と王妃は頬を膨らませる。


「目を瞑ったら意味がないじゃないの!」

「もう無理だ!」

「これは練習なのよ! あなた、わたくしと目が合うと、公の場でも顔が赤くなって口ごもってしまうんだから」

「分かっている、分かっているが......! 君が可愛すぎるからいけない」

「あなたはわたくしの旦那様なのだから、わたくしの可愛さに慣れないとだめよ」

「毎日可愛さが増しているのに、どうやって慣れろというんだ!」


王妃は目をぱちくりさせる。顔を覆った国王は、しかし耳まで赤い。


「ヴィクったら。嬉しいことを言うのね」


王妃はふうわりと微笑み、そして国王の手をみしりと剥がしにかかった。国王は上擦った声を上げる。


「でもだめよ。せめて目を合わせるか名前で呼ぶか、どちらかはできるようになってちょうだい」

「無茶だ......!」

「やればできるわ! ほら、練習よ!」

「~~っ!」


この時の侍従の心はきっと一致していたと、カイは確信している。

――何してるんだこのバカップル、である。



***



「そ、そんなことが……」


カイは遠い目をしている。ヨナスは心の底からカイに同情した。


「あぁ。けどな、この練習は割とすぐに終わったんだ」

「え、な、なぜ」

「考えてみろよ。練習が上手くいってたら、陛下たちは外でも仲良し夫婦だぜ?」

「あ……」


確かにその通りだ。けれど今では、冷え切っている、を通り越して、仮面夫婦とまで囁かれている始末である。


「俺も、詳細までは分からん。昼の勤務が続いて、ようやく夜の勤務になったと思ったら、あの練習も無くなってた」

「それは……」


どうしてなのでしょう、と率直に問うことが躊躇われて、ヨナスは言い淀んだ。


「俺には、不仲であることの利点とか、政のことはよくわからん。でもきっと、何かしらの思惑があって、陛下たちはああなさってるんだろう」

「あ……反同盟派、でしたっけ」


そうそう、とカイは頷く。

講和条約は結ばれたものの、いまだに元敵国であるグレーデンに良い感情を抱いていない貴族も多い。ランデル家も弱小貴族だが、当主である父も、兵士を従えて戦場に赴いていた。

――父上は死ななかったし、グレーデンに対して何も仰らなかったから、特に悪感情はないけど.......そうもいかない人も多いだろうな。


「わからんでもないけどな。俺の親父殿も先の戦で死んでるし」

「.......え゛っ!?」

「あ、気にすんなよ? もう兄貴が子爵位を継いでるし、出陣が決まった時点で、覚悟はしてたからさ」


カイは笑う。その屈託のない笑みは、嘘偽りなんて見えない。


「.......恨みとか、は。ないんですか?」

「んー、親父殿を殺した奴の顔面を殴りたいとは思うけど、かといって国丸ごとは恨まないし、妃殿下に矛先を向けるのも違うだろ。そもそも宣戦布告をしたのはうちの国なわけで」

「それは、そうですけど........」

「もう、辛気臭え顔すんな。とうに吹っ切れたし、今、あのお二人を間近で見ていて、毎日楽しんでんだから」


カイはパン、と太ももを叩いて立ち上がった。


「俺ら侍従に出来ることは大してない。お守りするのは護衛の役割だし、家政を担うのは執事だ。けどな、公務以外の場で快適に過ごしていただくように勤めるのは、俺たちにしかできない」


ヨナスは真剣にカイの話に耳を傾けた。


「だから、俺たちで守ろうぜ。愛すべきお二人の、仮面を」

「っ、はい!」

「だから声がでかいっつーの」


弾けるような笑い声が二つ、回廊に響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ