本番 後編
『応援団は集合場所に集まって下さい』
放送でアナウンスされ、俺達は集合場所に向かう。
──いよいよか。
少し緊張しながらグラウンドに出ると、どよめきが起こった。
たくさんの視線を感じるが、気のせいだ。
どうせ、朝陽と要を見ていて俺じゃない。
気にするな……俺っ。
入場門に着き、俺達は靴と靴下を脱いで裸足になる。
待ち時間の間、緊張をほぐそうと軽くストレッチをしていると名前を呼ばれた。
「早瀬君」
「奈帆ちゃん!? どうしたの? 紅組は退場門の所で集合でしょ? 早く行かないと」
「そうなんだけど……えぇーと」
奈帆ちゃんはもじもじとしながら、視線を逸らした。
え、これって……。
「奈帆ちゃん……学ラン姿似合ってるね。かっこいいし、可愛い」
奈帆ちゃんは嬉しそうに笑った。
「本当? 嬉しい。ありがとう。早瀬君もかっこいいよ」
「……ありがとう」
これって、やっぱり……そうだよな。
「早瀬君、お互い頑張ろうね!」
俺は笑って「おう」とだけ返事をした。
奈帆ちゃんは手を振りながら、走って集合場所へ戻って行った。
俺はその背中を見つめ続ける。
「青春は終わったか?」
要がそう言いながら、俺の肩に顎を乗せてきた。
「あぁ……」
「じゃあ、円陣組むか」
要は軽く伸びをすると、みんなの真ん中に立った。
「円陣組むぞー!」
「「おぉー!」」
その声ですでにみんなの気合いが入っているのが分かる。
「今日まで俺達は頑張った。田中が出れなくなったアクシデントもあった。それでも──」
要が大きく息を吸う。
「俺達は最強で最高だ! 本番、全力で行くぞー!!」
「「おぉー!!」」
「俺達で伝説を作るぞー!」
「「おぉー!!」」
「白組!」
「「ファイオォー!!」」
よしっ、気合いが入った。
みんなの顔もさっきまでとは違う。
俺達の間にはピリッとした空気感があり、引き締まった。
要、凄いな。
自分勝手な要が、ここまで人をまとめられるなんて思っていなかった。
今は要がいるから大丈夫って思える。
立派な団長だよ。
ドンッ、ドンッ、ドンッ!
太鼓の音が鳴った。
入場の合図だ。
俺達は駆け足でグラウンドの前方に移動す
る。
『それでは──白組応援団による演舞』
放送が響く。
応援席や観覧席に向けて「お願いしまーす!」と要が頭を下げる。
俺達もそれに続いて「「お願いしまーす!」と頭を下げた。
歓声が上がる。
顔を上げると、応援席の前方に人が集まり、みんながスマホを向けているのが見えた。
心臓の音だけが、やけに大きく聞こえる。
息を吸う。
吐く。
「……行くぞ」
要の低い声が聞こえた。
次の瞬間──
「たった一度のこの瞬間! 蒼天に咲かせろ! 俺たちの白き証を!」
ドンッ!!
「「ヤァー!」」
「行くぞ! 蒼、天、乱舞ー!!」
「「オォー!」」
ドコドコドコドコ──!
俺たちは最初の隊列にそれぞれ移動する。
太鼓の音が腹の奥に響く。
ドンッ!!
俺たちは一斉に踏み込み、右足を強く叩きつける。
「「ハァッ!!」」
声が揃う。
空気が震えた気がした。
視界の端で、要が先頭に立っているのが見える。
腕を振り上げる動き一つで、全体のタイミングがピタッと揃う。
ここは、練習で何回もやった。
体が勝手に動く。
ドンッ、ドンッ!
足を踏み鳴らしながら、隊列が大きく変わる。
視線が一気にこっちに集まるのが分かった。
……来た。
俺の位置だ。
心臓が跳ねる。
でも、不思議と怖くない。
さっきまでの緊張が嘘のように全部消えている。
あるのは高揚感。
チラッと朝陽の方を見た。
あいつ、笑ってやがる。
──上等だ。
ドンッ!!
俺は一歩、前に出た。
腕を振り上げる。
「「ヤァー!!」」
声を張る。
思いっきり、振り抜く。
空気が裂けるみたいな感覚。
観客のざわめきが、一瞬止まった気がした。
……見てる。
今、俺を見てる。
奈帆ちゃんも──いや、もういい。
誰でもいい。
全部まとめて見てろ。
ドコドコドコドコ!
太鼓がさらに強くなる。
隊列がまた動く。
今度は朝陽が前に出る。
無駄のない動き。
一つ一つの動作が綺麗すぎる。
思わず見惚れそうになる。
「キャー」と女子の歓声も一際大きく聞こえる。
……けど。
俺は歯を食いしばる。
ここは、あいつらの舞台じゃない。
俺たちの舞台だ。
全員で作ってる。
ドンッ!!
もう一度、足を叩きつけた。
声を張る。
体が熱い。
頭が真っ白だ。
でも、それが気持ちいい。
要が笑っている。
朝陽も、楽しそうに動いてる。
だったら、俺だって。
負けてられるかよ!
ドンッ!!
「「ヤァー!!」」
声が重なる。
音と動きが、ピタッと揃った。
その瞬間、観客席から大きな歓声が上がった。
分かる。
今、俺たちの演舞がハマった。
鳥肌が立つ。
体の奥から、何かが込み上げてくる。
これが──応援団。
これが──俺たちの演舞。
でも、まだまだこっから!
ドコドコドコドコ――!
太鼓の音が加速する。
隊列が一気に広がった。
「ラスト行くぞ!!」
要の声が響く。
来た。
最後の見せ場。
全員が一斉に構えに入る。
空気が変わった。
さっきまでの熱とは違う。
ピンと張り詰めた、一瞬の静寂。
ドンッ!!
「「ハァッ!!」」
要が一歩前に出る。
俺たちは視線を合わせて、頷いた。
俺はそのまま地面を強く蹴った。
ふわっと体が宙に浮く。
視界が一瞬、ひっくり返る。
空。
逆さまの景色。
1……2……3。
──いけるっ!
体を丸めて、回す。
ドンッ!!
着地。
少しだけ足が揺れたけど、踏ん張った。
顔を上げると観客席が見えた。
自分の呼吸音だけが聞こえる。
次の瞬間──。
「うぉぉぉぉぉ!!」
さっきよりもデカい歓声が上がった。
……ははっ。
やべぇ。
めちゃくちゃ気持ちいい。
隣を見ると、要がニヤッと笑っていた。
朝陽も、珍しく楽しそうに笑ってる。
「決まったな」
「あぁ」
俺も笑った。
ドンッ!!
最後の一打。
「「ありがとうございました!!」」
全員で頭を下げる。
歓声が止まらない。
息が上がってる。
汗もやばい。
でも、そんなのどうでもいい。
顔を上げる。
空がやけに綺麗に見えた。
……これが。
「……最高じゃん」
3人のかっこいい姿を書きました(^^)
私は箱推しなんですが
皆さんは誰を応援したくなりますか?




