勝負
俺たちが退場すると、門の所に人だかりが出来ていた。
「藤真くーん!」
「天童君!」
あちこちから朝陽と要を呼ぶ声が聞こえる。
2人は一瞬で囲まれていた。
「1人一枚撮ったら、さっさと帰れよ」
「「はーい!」」
要は慣れたように女子達を捌いていく。
朝陽も困った顔をしているが、一人一人にちゃんと対応していた。
まるでアイドルだな……。
俺はフッと笑って、普通に横を通り過ぎる。
「早瀬君!」
俺は名前を呼ばれて、振り返ると知らない女子達がいた。
「何っすか?」
「写真一緒に撮ってもらっていい?」
初めてそんな事を言われたので、一瞬思考が止まった。
「え? 俺っすか?」
「うん。さっきの演舞かっこよかったよ!」
「うんうん。私、鳥肌たっちゃった」
朝陽でも要でもなく、俺への褒め言葉に喉の奥がツンとした。
泣く理由なんてないのに、目の奥がじわっと熱くなる。
『見てる奴はちゃんと見てる』
要の言った通りだった。
ちゃんと見てくれる人がいた。
「ありがとうございます」
俺は泣きそうなのを、笑って誤魔化した。
「……早瀬君も普通にかっこいいよね」
「……そうだよね。何で今まで気付かなかったんだろ?」
「え?」
その時、肩をガシッと掴まれて後ろに引っ張られた。
「おい、湊。モテ期か?」
「要かよ。驚いただろ!」
「悪い悪い。あいつらが3人の写真撮りたいって言うからさ」
要が指差した方を見ると、女子達が期待の目でこっちを見ていた。
「何で俺まで? 要と朝陽じゃねーの?」
「分かる! 私も3人の写真撮りたい!」
「なんか3人の写真の方が特別感あっていいかも」
「だろ! お前ら分かってるじゃん」
ニカッと笑う要に、俺の数少ないファンが見惚れている。
あぁー、振り出しに戻った。
いっつもこうだよ……。
そこへ朝陽が来た。
「湊早くー。この写真さえ撮れれば終わりだって」
朝陽が疲れた顔をしている。
面倒くさがりなのに、今日は頑張ったもんな。
「分かった」
俺は端に映るつもりで、朝陽の隣に並んだ。
それなのに、要が俺の隣に並んできた。
「何で俺が真ん中なんだよ」
「うるせー」
「は?」
「もう順番なんて、何でもいいじゃん」
「……もう、さっさとお前ら写真撮って散れっ!」
「「はぁーい」」
なんて統率の取れたファン達なんだ……。
まぁ、要が機嫌悪くなったら、絶対写真なんて撮らせてくれないもんな……。
そりゃ、マナーも良くなるか。
何個かポーズと目線を指示された後、やっと撮影会は終了した。
なんか……あっという間だったな。
少し寂しく感じていると、要が言った。
「お前ら、これで終わりじゃねーぞ! この後の騎馬戦とリレーも気合いいれてけよ!」
「もぉー疲れたんだけど……」
「朝陽、お前昼から本気だすんだろ?」
「はぁー、ダメか……」
「騎馬戦で誰が一番ハチマキ取れるか勝負しようぜ!」
また要が何か言い出した。
「それ、勝ったら何かあるのかよ?」
「ビリが1位にワックのセット奢るとかどうよ」
「いいね! それなら俺も本気で行くよ!」
朝陽も乗り気なようだ。
2人が本気なら、俺も戦法を考えないとな。
フィジカルだけでいける2人に勝つには、それしかない。
絶対高いやつ買わされるに決まってるんだ。
ビリだけは絶対に嫌だ!
応援団の服はそのまま着ていても良かったが、俺は身軽になるために体操服に着替えた。
他の2人も同じ事を考えたのか、体操服に着替えていた。
「朝陽は面倒くさいとか言って、団服のままだと思ったんだけどな……」
「湊、ビッグワックセットがかかってるんだ。そんな面倒くさいとか言ってる場合じゃないだろ」
朝陽の目が本気だ。
「遊びのつもりだったのに、本気の朝陽とやれるなんてな。今度こそ俺が勝つ!」
「今度も俺が勝つ!」
朝陽と要は言い合いを始めた。
俺はそれを眺めながら、頭の中で何度もシュミレーションする。
『続いては2、3年生男子による騎馬戦です!奪うか、奪われるか。誇りをかけた戦いが、今始まる!』
入場の音楽が流れた。
俺達は駆け足で定位置につき、準備を整える。
俺は上から、全員の位置を確認する。
騎馬役の子にも作戦を伝える。
「俺達は漁夫の利で勝ちに行く。最初は遅れて動くぞ」
「え? でも、なんかセコくない?」
「セコくない! 作戦だ! 俺達が正面からぶつかっても勝てる見込みは五分五分だ」
「五分五分なら正面から行った方がかっこ良くない?」
「かっこいいとかそういう問題じゃない。勝てばいいんだ、勝てば」
「早瀬君、天童君みたいだね」
「……俺は俺のやり方で勝つだけだ」
「りょーかい。指示頼むよ」
「おう、任せろ!」
パンッ!!
開始の合図が鳴った。
「行けぇぇぇ!!」
一斉に騎馬が動き出す。
砂煙が舞い、あちこちでぶつかり合いが起きる。
「うわっ、もうぶつかってる!」
「だから言っただろ、最初は待つ!」
俺は動かない。
全体を見る。
誰がどこで戦ってるか。
どこが空くか。
どこが崩れるか。
……見える。
朝陽はもう前に出ている。
無駄のない動きで、一人目を取った。
要は……あいつはもう暴れてるな。
真正面から突っ込んで、二人まとめて潰してる。
……バケモンかよ。
でも、その分。
「……今だ」
「え?」
「左、空いた。行くぞ!」
俺たちは一気に加速した。
戦っている奴らの外側に回り込む。
ハチマキだけを俺は見る。
「届く……!」
手を伸ばすと、指先に布の感触が触れた。
「取った!!」
俺の手にはハチマキが握られている。
「うおっ!? いつの間に!?」
相手が振り返る頃には、もう遅い。
俺たちはそのまま距離を取る。
視界の端で、朝陽と要が囲まれているのが見えた。
……最高の囮だな。
「今しかねぇだろ!」
俺たちはもう一度、前に出た。
朝陽と要に夢中で背後がガラ空きだ。
「取り放題だな」
俺は取れると判断したハチマキを、手当たり次第に取って行く。
それに気付いた要と目が合った。
「あ、お前!」
「おい、離脱するぞ! 来る!」
要が声を出したせいで、敵に気付かれた。
状況を一旦立て直すために、俺たちは急いでその場から離れた。
それなのに正面から敵が。
逃げられそうにない。
しょうがない……やるかっ!
そう気合いを入れたのに、なんて事ない。
すぐにハチマキを奪えた。
あれ?
俺、フィジカルでもいける系?
なら──。
「後は残り少ない。正面から潰しに行くぞ!」
「おう、任せとけ!」
騎馬役から頼もしい返事が返ってきた。
俺は正面からぶつかり合う。
ハチマキを奪い、相手を潰す。
気付けば相手は後一騎だった。
こっちは……やっぱり朝陽と要か。
最後のハチマキ、俺が貰う!




