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早瀬湊の日常  作者: 彩心
運動会

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20/20

勝負

 俺たちが退場すると、門の所に人だかりが出来ていた。


 「藤真くーん!」


 「天童君!」


 あちこちから朝陽と要を呼ぶ声が聞こえる。


 2人は一瞬で囲まれていた。


 「1人一枚撮ったら、さっさと帰れよ」


 「「はーい!」」


 要は慣れたように女子達をさばいていく。


 朝陽も困った顔をしているが、一人一人にちゃんと対応していた。


 まるでアイドルだな……。


 俺はフッと笑って、普通に横を通り過ぎる。


 「早瀬君!」


 俺は名前を呼ばれて、振り返ると知らない女子達がいた。


 「何っすか?」


 「写真一緒に撮ってもらっていい?」


 初めてそんな事を言われたので、一瞬思考が止まった。


 「え? 俺っすか?」


 「うん。さっきの演舞かっこよかったよ!」


 「うんうん。私、鳥肌たっちゃった」


 朝陽でも要でもなく、俺への褒め言葉に喉の奥がツンとした。


 泣く理由なんてないのに、目の奥がじわっと熱くなる。


 『見てる奴はちゃんと見てる』


 要の言った通りだった。


 ちゃんと見てくれる人がいた。


 「ありがとうございます」


 俺は泣きそうなのを、笑って誤魔化した。


 「……早瀬君も普通にかっこいいよね」


 「……そうだよね。何で今まで気付かなかったんだろ?」


 「え?」


 その時、肩をガシッと掴まれて後ろに引っ張られた。


 「おい、湊。モテ期か?」


 「要かよ。驚いただろ!」


 「悪い悪い。あいつらが3人の写真撮りたいって言うからさ」


 要が指差した方を見ると、女子達が期待の目でこっちを見ていた。


 「何で俺まで? 要と朝陽じゃねーの?」


 「分かる! 私も3人の写真撮りたい!」


 「なんか3人の写真の方が特別感あっていいかも」


 「だろ! お前ら分かってるじゃん」


 ニカッと笑う要に、俺の数少ないファンが見惚れている。


 あぁー、振り出しに戻った。


 いっつもこうだよ……。


 そこへ朝陽が来た。


 「湊早くー。この写真さえ撮れれば終わりだって」


 朝陽が疲れた顔をしている。


 面倒くさがりなのに、今日は頑張ったもんな。


 「分かった」


 俺は端に映るつもりで、朝陽の隣に並んだ。


 それなのに、要が俺の隣に並んできた。


 「何で俺が真ん中なんだよ」


 「うるせー」


 「は?」


 「もう順番なんて、何でもいいじゃん」


 「……もう、さっさとお前ら写真撮って散れっ!」


 「「はぁーい」」


 なんて統率の取れたファン達なんだ……。


 まぁ、要が機嫌悪くなったら、絶対写真なんて撮らせてくれないもんな……。


 そりゃ、マナーも良くなるか。


 何個かポーズと目線を指示された後、やっと撮影会は終了した。


 なんか……あっという間だったな。


 少し寂しく感じていると、要が言った。


 「お前ら、これで終わりじゃねーぞ! この後の騎馬戦とリレーも気合いいれてけよ!」


 「もぉー疲れたんだけど……」


 「朝陽、お前昼から本気だすんだろ?」


 「はぁー、ダメか……」


 「騎馬戦で誰が一番ハチマキ取れるか勝負しようぜ!」


 また要が何か言い出した。


 「それ、勝ったら何かあるのかよ?」


 「ビリが1位にワックのセットおごるとかどうよ」


 「いいね! それなら俺も本気で行くよ!」


 朝陽も乗り気なようだ。


 2人が本気なら、俺も戦法を考えないとな。


 フィジカルだけでいける2人に勝つには、それしかない。


 絶対高いやつ買わされるに決まってるんだ。


 ビリだけは絶対に嫌だ!


 応援団の服はそのまま着ていても良かったが、俺は身軽になるために体操服に着替えた。


 他の2人も同じ事を考えたのか、体操服に着替えていた。


 「朝陽は面倒くさいとか言って、団服のままだと思ったんだけどな……」


 「湊、ビッグワックセットがかかってるんだ。そんな面倒くさいとか言ってる場合じゃないだろ」


 朝陽の目が本気だ。


 「遊びのつもりだったのに、本気の朝陽とやれるなんてな。今度こそ俺が勝つ!」


 「今度も俺が勝つ!」


 朝陽と要は言い合いを始めた。


 俺はそれを眺めながら、頭の中で何度もシュミレーションする。


 『続いては2、3年生男子による騎馬戦です!奪うか、奪われるか。誇りをかけた戦いが、今始まる!』


 入場の音楽が流れた。


 俺達は駆け足で定位置につき、準備を整える。


 俺は上から、全員の位置を確認する。


 騎馬役の子にも作戦を伝える。


 「俺達は漁夫の利で勝ちに行く。最初は遅れて動くぞ」


 「え? でも、なんかセコくない?」


 「セコくない! 作戦だ! 俺達が正面からぶつかっても勝てる見込みは五分五分だ」


 「五分五分なら正面から行った方がかっこ良くない?」


 「かっこいいとかそういう問題じゃない。勝てばいいんだ、勝てば」


 「早瀬君、天童君みたいだね」


 「……俺は俺のやり方で勝つだけだ」


 「りょーかい。指示頼むよ」


 「おう、任せろ!」


 パンッ!!


 開始の合図が鳴った。


 「行けぇぇぇ!!」


 一斉に騎馬が動き出す。


 砂煙が舞い、あちこちでぶつかり合いが起きる。


 「うわっ、もうぶつかってる!」


 「だから言っただろ、最初は待つ!」


 俺は動かない。


 全体を見る。


 誰がどこで戦ってるか。


 どこが空くか。


 どこが崩れるか。


 ……見える。


 朝陽はもう前に出ている。


 無駄のない動きで、一人目を取った。


 要は……あいつはもう暴れてるな。


 真正面から突っ込んで、二人まとめて潰してる。


 ……バケモンかよ。


 でも、その分。


 「……今だ」


 「え?」


 「左、空いた。行くぞ!」


 俺たちは一気に加速した。


 戦っている奴らの外側に回り込む。


 ハチマキだけを俺は見る。


 「届く……!」


 手を伸ばすと、指先に布の感触が触れた。


 「取った!!」


 俺の手にはハチマキが握られている。


 「うおっ!? いつの間に!?」


 相手が振り返る頃には、もう遅い。


 俺たちはそのまま距離を取る。


 視界の端で、朝陽と要が囲まれているのが見えた。


 ……最高の囮だな。


 「今しかねぇだろ!」


 俺たちはもう一度、前に出た。


 朝陽と要に夢中で背後がガラ空きだ。


 「取り放題だな」


 俺は取れると判断したハチマキを、手当たり次第に取って行く。


 それに気付いた要と目が合った。


 「あ、お前!」


 「おい、離脱するぞ! 来る!」


 要が声を出したせいで、敵に気付かれた。


 状況を一旦立て直すために、俺たちは急いでその場から離れた。


 それなのに正面から敵が。


 逃げられそうにない。


 しょうがない……やるかっ!


 そう気合いを入れたのに、なんて事ない。


 すぐにハチマキを奪えた。


 あれ?


 俺、フィジカルでもいける系?


 なら──。


 「後は残り少ない。正面から潰しに行くぞ!」


 「おう、任せとけ!」


 騎馬役から頼もしい返事が返ってきた。


 俺は正面からぶつかり合う。


 ハチマキを奪い、相手を潰す。


 気付けば相手は後一騎だった。


 こっちは……やっぱり朝陽と要か。


 最後のハチマキ、俺が貰う!




 

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