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早瀬湊の日常  作者: 彩心
運動会

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17/20

本番 前編

 運動会当日。


 朝からグラウンドは異様な熱気に包まれている。


 開会式が始まり、俺たちはクラスの列に並んでいた。


 胸の奥がなんだかソワソワする。


 「……なんか、楽しみだな」


 俺が小さく呟くと、隣の要がニヤッと笑った。


 「そうだな。絶対勝つぞ!」


 気合い十分な要の前で、朝陽は欠伸あくびをしている。


 「ん、適当に頑張る」


 「おいおい、気の抜ける返事だな」


 「……いや、朝陽はそのままでいい」


 「何でだよ?」


 「朝陽が本気だしたら、俺がモブになるから」


 「……また言ってるよ。聞かなきゃ良かった」


 「湊もこう言ってるし、俺の出番は午後からだし。教室で寝てていい?」


 「クラスの応援はどうすんだよ?」


 「面倒くさい……。要と湊が頑張れ」


 「はぁー、でたよ。面倒くさいが……」


 「……分かった。応援団とリレー本気でやるなら、見逃してやる」


 「分かった。本気でやる!」


 「よしっ!」


 「『よしっ!』じゃねーよ。朝陽を本気にさせてどーすんだよ! 俺が空気になるだろ!」


 要はジト目で俺を見る。


 「お前のモテより、勝つ事の方が大事だろ」


 「ぐぬぬ……要のクセに正論を……」


 「ほら、ちゃんと前見て話聞けよ」


 「急になに真面目ぶってんだよ……」


 「湊、うるさい」


 「朝陽まで……。もういいよ。俺は俺でモテるために頑張るから!」


 「湊、うるせーぞ」


 「お前らがうるせー」


 そんな事をしていると、気づけば拍手が起こり、開会式は終わった。


 退場すると朝陽は「じゃーな」と言って、校舎の中に入って行った。


 「本気で寝るつもりだな……」


 「俺達の最終兵器だからな。体力は温存しといてもらわないと」


 「……確かに、最終兵器だな」


 「だろ? ほら、応援するぞ」


 俺達はクラスの席に移動した。


 まずは1年生の徒競走が始まった。


 「位置について。よーい」


 パンッ!


 流行りの音楽が流れ、放送委員の実況する声が聞こえる。


 『白組頑張れ! 紅組頑張れ!』


 一年生の方の席から歓声が湧き上がる。


 「おい、白組負けてんじゃねーか!」


 要が席から立ち上がり、ヤジを飛ばした。


 「まぁまぁ、まだ序盤だし」


 「序盤だろうが、何だろうが、俺が負けてるみたいで嫌だ」


 「……いやいやいや、大丈夫だって」


 「おい、田中! 絶対1位取れよ!」


 「え?」


 次走の準備をしている中に、田中君がいた。


 田中君はこっちを見てオロオロしている。


 「要、そんなプレッシャーかけてやるなよ」


 俺がそう言ってると、スタートの合図が鳴った。


 「いけー! 田中ー!」


 要がバカデカい声で田中君を応援する。


 それに釣られて、俺のクラスの女子達も「田中君、頑張れー」と応援しだした。


 その時、ずざざざぁーと田中君が盛大にこけた。


 「田中ーー!」


 「田中君!」


 えぇー!?


 田中君、大丈夫かな?


 あのこけ方めっちゃ痛そうなんだけど……。


 田中君は起き上がると、右足を引きずりながらゆっくりとゴールした。


 田中君はもちろん最下位だ。


 だけど、手も膝からも血が出ていた。


 田中君は列に入らずに、先生に連れられて救護テントに向かった。


 要はそれを見て、走りだした。


 俺も慌てて要の後を追う。


 救護テントに行くと、田中君は治療を受けていた。


 「田中、大丈夫か?」


 要が田中君に声をかけると、田中君はビクッと体を揺らし、ゆっくりと顔を上げた。


 「すみません……」


 「そんな事より、足大丈夫なのかよ?」


 田中君は下を向いて何も答えない。


 「痛いのか?」


 「本当にすみません……。せっかく先輩が応援してくれたのに……」


 「要の応援がプレッシャーになったんだろ?」


 「おい!」


 田中君は首を振って顔を上げた。


 その顔は涙でグシャグシャになっていた。


 「俺、嬉しかったです。憧れの先輩に応援されて……」


 「え? あれ嬉しかったの? 俺にはヤジ飛ばしてる様にしか見えなかったけど」


 田中君はまた首を横に振った。


 「それなのに、怪我しちゃって……バク転も……せっかく練習したのに……」


 「やっぱ足、ひねったのかよ?」


 田中君はうなずく。


 「……俺、悔しいっす! 憧れの先輩達と一緒に……演舞……やりたかった……」


 田中君はまたポロポロと涙を流した。


 そんな田中君の肩に要は手を置いた。


 田中君は驚いたように要を見た。


 要は一瞬目をらしてから、軽く笑って言った。


 「また来年一緒にやろーぜ」


 「そうだな。また来年一緒にやろう!」


 「……はい!」


 田中君は涙をぬぐいながら、笑顔で返事をした。


 田中君の手当てを見届けてから、俺達は救護テントを出た。


 「……代わり、アイツしかいねーな」


 要はそう言いながら、何か企んでいる顔で笑った。


 「午後から本気出すらしいから、良いんじゃね?」


 「アイツに拒否権はないな」


 「……あぁー、また俺モブになるのかな?」


 「お前そればっか言うけどな、見てる奴はちゃんと見てるよ」


 「……奈帆ちゃんとか?」


 「あぁ、そいつとか」


 「……なら、頑張るか。俺の史上最高のかっこいい所見せてやる!」


 「うんうん」


 「……要、ちゃんと聞いてる?」


 「聞いてる、聞いてる。あっ、そうだ。朝陽の代わりの旗手を探さないと!」


 「……話を流されたような?」


 「おい、湊! 紅組の団長の所行って、相談するぞ!」


 そう言って要はまた走りだした。


 「ちょ、ちょっと、待てよ!」


 俺もまた、要の後を追いかけた。

 

 

 


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