合同練習
合同練習当日。
グラウンドには、すでに他のクラスの応援団が集まっていた。
それぞれで固まって、軽くストレッチしたり、談笑したりしている。
「うわ……、なんか緊張してきた」
俺が思わず呟くと、隣で要が肩を鳴らした。
「いいじゃん。燃える」
「いや、お前だけだよ……」
俺達はこの後、みんなの前で手本を見せる事になっていた。
あれだけ練習したんだ、出来ないわけじゃない。
でも、失敗した時の事ばかり頭に浮かぶ。
あぁ、なんか胃が痛い……。
その時、前の方で手を叩く音がした。
パンッ、パンッ。
「はい、集合ー!」
この前に続き、三年の先輩の声が響く。
先輩は結局、紅組の団長になった。
経験者という事もあり、総指揮も取ってくれている。
先輩のひと声で、ざわついていた空気が徐々に締まっていく。
「今日は初めての合同練習だ。紅組と白組に分かれて団長の指示に従って練習するように」
先輩は周りを見渡しながら続けた。
「今日は出来る出来ないは気にしなくていい。楽しんでいこう」
先輩はそう言って笑った。
なんか……凄い、団長っぽい。
俺は横の要を見る。
「っし、やるか!」
爽やかに笑う先輩と悪そうに笑う要。
白組の練習は厳しくなりそうだな……。
白組が集まり、みんなが俺達に注目する。
「動画を見て、ある程度流れは分かってると思う。でも、今年は俺がアレンジを加えた」
ドヤ顔で言う要。
「俺たちで、歴代最強の伝説を残す!」
うぉーーっと声が上がり、拍手が起きる。
「で、だ。この中にバク転とバク宙出来る奴いるか?」
要の突然のぶっ込みに、みんなは不安そうにザワザワした。
「え? バク転?」
「そんなの出来るわけないじゃん……」
だよな。
普通出来ないよな。
やっぱ、出来る奴がすぐ見つかる訳ないか……。
「……そうだ! 出来ないなら、出来るようにすればいいのか!」
「突然何言いだすんだよ。それは無茶だろ……」
俺が呆れていると、1人の男子が恐る恐る手を上げた。
「い、一応、両方出来ます……」
「おぉ、いた! お前、名前は?」
「1年の田中です」
「おぉ、田中君! 一緒に頑張ろうな!」
「は、はい」
おぉー、要の満面の笑みに田中君くらってんな。
要の満面の笑みは貴重だし、破壊力がヤバイ。
慣れてないと、ちょっとトキめいちゃうよな。
分かる。
俺も昔はそうだった。
恋じゃなくて、憧れ的な?
「おい、湊。ぼさっとすんなよ。始めるぞ!」
「おぉー、悪い」
俺は定位置に着く。
「今日は田中のパートの見本、朝陽にやってもらうから。ちゃんと見とけよ」
「えぇー、俺?」
「他に誰が出来んだよ」
「……しょうがないか」
朝陽は最後尾から抜けて、前に出た。
「え? 藤真君がバク転するの?」
「やばすぎない?」
「これ、絶対動画撮らなきゃ!」
女子達はザワザワとした後、田中君を押しのけて最前列でスマホを構えた。
「じゃ、音流すぞ」
要はそれを気にもせずに、音を流すと定位置に来た。
俺も集中しないと。
「気合い入れていくぞー! 蒼、天、乱舞ー!」
要の口上に空気がピリッと締まった。
俺たちは太鼓の音に合わせて、振りをする。
練習の甲斐あって、俺はいつもより余裕がある。
そして最後のバク転。
からの、バク宙!
決まった。
俺は遅れて息を吐いた。
顔を上げると、みんな真顔でこっちを見ていた。
え?
俺、もしかしてなんか間違えた?
少し不安になった時、パチパチと拍手する音が聞こえた。
そっちを見ると紅組の団長が拍手しながら、こっちに駆けて来ていた。
「お前ら凄いよ! 今のかっこよすぎだろ!」
団長は褒めながらも拍手をずっとしている。
その拍手に促されてか、あちらこちらから拍手が聞こえ、やがて拍手の音は大きくなった。
真顔だった、白組の団員も拍手してくれている。
「何あれ。かっこよすぎなんだけど……」
「ちょっと見惚れちゃって、反応できなかった」
「この動画、明日絶対自慢しよ!」
そんな声も聞こえてきて、俺は嬉しくなった。
要の無茶ぶりに付き合って良かった。
こんなに褒められる事ってないよな。
その時、ふと視線を感じてそっちを向けば、奈帆ちゃんと目が合った。
奈帆ちゃんも見ててくれたのかな?
俺は更に嬉しくなった。
「こんな感じだ。田中、できるよな?」
要が無言の圧を田中君にかけている。
「は、はい……」
あぁー、田中君、萎縮しちゃってない?
大丈夫かな?
「よし、田中やるぞ!」
要は田中君の肩を組み、個人練習するようだ。
俺は残ったメンバーに声をかける。
「他のみんなは動画の振りと同じだ。フォーメーションはそれからやるから、今日は振りを覚えて」
俺がそう指示を出すと、いくつかのグループに分かれて練習を始めた。
俺はみんなの練習を見て回る。
朝陽の様子を見れば、旗の練習をしていた。
そうかと思えば、すぐに旗を下ろしてこっちを見てきた。
「意外と重い……」
「……だろうな」
「誰だよ、これが一番楽とか言ったやつ」
「お前だよ」
「……まぁ、筋トレだと思えばいいか」
朝陽はそう言って、また旗を持ち上げて大きく振った。
うん……何だかんだ言いつつちゃんとやってんな。
俺は紅組の方に視線を向けた。
奈帆ちゃんを見ようと思ったら、もうこっちを見ていた。
でも、今度は目が合わなかった。




