副団長就任
放課後。
俺たちは指定された教室に向かった。
すでに結構人が集まっていて、ざわざわとした空気が漂っている。
要が先陣を切って教室に入ると、皆がこっちを向いた。
さっきまでのざわつきが、ピタッと止まる。
あー、いつものやつね。
要か朝陽がいると、空気変わるやつ。
だいたい、こいつらに見惚れてるんだよ。
……羨ましい。
要と朝陽はそれを気にした様子もなく、適当な席にさっさと座った。
こいつらは通常運転だな、ほんと……。
俺も席に座ろうとした時、後ろから肩を叩かれた。
「ん?」
振り返ると、隣のクラスの奈帆ちゃんが居た。
「早瀬君も応援団なの?」
「うん、そう。奈帆ちゃんも?」
「うん。一緒だね」
そう言って笑いかけてくれる奈帆ちゃん。
最近よく喋りかけてくれるんだよな。
朝陽でも要でもなく、俺に。
もう好きになりそうなんだが。
「頑張ろうね!」
そう言って、軽くファイティングポーズをとる奈帆ちゃん。
何その仕草……可愛い。
はい、好き。
「お、おぅ……」
俺は奈帆ちゃんに見惚れていて、そう返事をするのが精一杯だった。
奈帆ちゃんは「また後でね」と言うと、友達の所に戻って行った。
俺は奈帆ちゃんの背中を見送った後、朝陽達の前の席に座った。
「おい、何喋ってたんだよ」
「別に何も」
「ふーん」
要はそう言いながら、ニヤニヤ笑った。
あ、これバレてる?
要にバレるの面倒くせーな。
俺は朝陽の方を見る。
「ん? 何?」
あ、こっちはバレてない。
「……別に」
「何だよ。俺の事好きすぎか」
朝陽はケラケラ笑う。
「俺も、お前の事好きだぞ」
それに要が乗っかった。
2人して何やってんだよ……。
お前らの悪ふざけで周りが大変な事になってるだろ……。
呆れながら周りを見回すと、奈帆ちゃんと目が合った。
でも、すぐに逸らされた。
え、今……俺を見てた?
これって、脈あり?
その時、前に立っていた三年生っぽい先輩が手を叩いた。
パンッ、と乾いた音が教室に響く。
「はい、ちょっといいかー」
ざわついていた教室が、少しずつ静かになる。
「今年の応援団、集まってくれてありがとう。俺は去年副団長だったから、今日は仕切らせてもらうな」
そう言って先輩は、ニカッと爽やかに笑った。
なんか、普通に良い人そうだ。
「演舞は毎年同じ。紅組は百花繚乱。白組は蒼天乱舞。先輩から後輩へ、代々受け継がれてきたものだ」
先輩はみんなの顔を見回す。
「大事な演舞だ。俺達の代で歴代最高の演舞を見せてやろうぜ!」
わーっと盛り上がって、拍手が起きる。
俺の心臓もドキドキしてる。
軽く決めた応援団だったのに……。
代々受け継がれてきたなんて、なんかかっこいいじゃん。
「まずは簡単に役割決めからやるぞ」
役割?
俺は首を傾げる。
「赤組と白組。それぞれの団長と副団長を決める。来年の引き継ぎを考えて、副団長は2年生から出てほしい」
団長……。
無理だな。
俺に人をまとめる力なんてない。
それに団長とか責任重そうだし、絶対面倒くさい。
「立候補いるか?」
しんっ、と教室が静まり返る。
「……誰もいないのか?」
先輩が苦笑いを浮かべる。
そりゃそうだろうな。
みんなの目が泳いでいる。
俺もそっと視線を逸らした。
その時だった。
「じゃあ、俺団長やる」
え?
反射的に後ろを見る。
要が、当たり前みたいな顔で手を上げていた。
「マジか」
思わず声が漏れた。
「お前、そういうの嫌いじゃなかったっけ?」
「別に。面白そうじゃん」
面白そうで団長やるなよ。
周りもざわつき始める。
「お、いいね。君は赤組と白組どっち?」
「白。……後さ、こいつ副団長で」
要は俺を指差した。
「え? 俺?」
「分かった。じゃあ、白組は決まりだな。赤組ー、誰かいないかー?」
え?
決まったの?
早くない?
俺まだ了承してないよ?
「頑張れよ、副団長」
要がニヤニヤと笑って言ってきた。
「いやいやいや、無理無理無理!」
俺は全力で首を振る。
「俺、そういうの向いてねーって!」
「大丈夫だろ。ノリでいける」
「いけるかっ!」
「湊……モテたくないのか?」
「そりゃモテたいけど……」
「副団長ってな……モテるんだよ」
「……え? マジ?」
要は真剣な顔で頷いた。
「……マジかよ」
「きっと、さっきの女子も……」
「奈帆ちゃんも!?」
「湊……やれるか?」
「あぁ、やるに決まってる!」
面倒くさいかもしれない。
でも、モテの前では関係ない!
俺はやる。
副団長、やってやるぞー!
「……バカだな」
後ろからボソッと声がした。
振り返ると、朝陽が欠伸をしていた。
「今……なんか言った?」
「んーん、何も。俺、帰っていい?」
「ダメに決まってんだろ」
要が即答する。
「まだダメか……」
舌打ちをした後、朝陽は机に突っ伏した。
「朝陽、余計なこと言うなよ」
要はそう言いながら、朝陽のほっぺをプニプニと指で押した。
「分かったから、それやめろよ。こそばい」
「なんか癖になる柔らかさ」
「ふふっ、何言ってんだよ」
ほんと男2人で何やってんだよ。
俺は呆れた目で2人を見つめた。




