絆
あの喧嘩の後、俺たちはそのまま朝陽の家に押しかけた。
砂埃で汚れた俺と返り血で汚れた要は、案の定愛子さんに風呂行きを命じられた。
「ついでに朝陽も行きなさい!」と、汚れていない朝陽まで。
男3人で風呂はきついだろ……と俺は思ったが、テンションの上がった要が遊びだした。
それに巻き込まれる形で結局3人で遊び、風呂から出る頃にはクタクタになった。
「要ぇー。なんでお前、そんな元気なんだよ……」
「え? 別に普通じゃね?」
「普通じゃねーよ。さっきまで喧嘩して、風呂でも暴れて……」
「湊がデカい声だすから、疲れただけだろ」
「それは、お前らがアザになってる所押してくるからだろ!」
「押したら『ぴゃーー!』って言うから」
「なんかそういうオモチャみたいだったから」
2人共ひでー。
あの時殴られた腹には、くっきりとアザが出来ていた。
結構痛いのに、誰も心配してくれない。
俺はこれ以上押されないように、さっさと服を着てアザを隠した。
「うっし。ピアス……開けるか」
要は髪を拭き終わると、俺たちを見てそう言った。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
この後……開けるのか……。
怖くない、怖くない、怖くないっ!
「湊、何してるの? 早く俺の部屋行くよ」
俺が気合いを入れてる間に、要はもういなかった。
「あいつ早ぇーな」
「湊がぶつぶつ言ってるからだよ。……やっぱり、やめてもいいんだぞ?」
朝陽は心配そうに俺の顔を覗きこんできた。
「いや、大丈夫。将来の彼女とお揃いにするためだから」
「……やっぱ馬鹿だな」
「おい、聞こえてるぞ!」
「早く来いよ」
朝陽はそれだけ言って、先に脱衣所を出て行った。
「また無視ですか。バカバカ言いやがって……」
「おい、バカ。まだ?」
「朝陽! お前っ!」
脱衣所を急いで出ると、扉の横に朝陽が立っていた。
え? と思った時には遅かった。
朝陽の指が俺のアザに触れた。
「ぴゃーーーー!!」
「ふふっ、やっぱ面白い」
朝陽は笑いながら、腹を抱える俺を置いて先に行った。
「くそー……俺をおもちゃにしやがって……」
はぁーと溜め息を吐いて、俺は朝陽の部屋に向かう。
部屋に入ると、要は鏡を見て耳に印を書いていた。
「そこに開けるの?」
「おう……ここでいいか。おい、朝陽! ここに開けてくれ」
朝陽はピアッサーの裏面を見た後、包装をビリビリと破いた。
その間に要は耳を消毒液で拭いた。
何で2人共そんなに余裕そうなんだ!?
ビビってるの……俺だけ?
そんな俺を1人置いてけぼりに、2人は淡々と進める。
「じゃあ、いくよ」
「おう!」
ガチャンッ!
大きな音がなった。
俺はビクッと肩が震えた。
朝陽がピアッサーを要の耳から外すと、要の耳たぶにはピアスがついていた。
要はそれを嬉しそうに何度も見ていた。
「おぉー、かっけぇー」
「要……痛くないのかよ……」
俺は恐る恐る聞いた。
「あんまり痛くねーな。ジンジンするぐらい」
「本当かよ……」
本当は痛いくせに、強がってるとかないよな?
そんで、後で痛がってる俺を笑うとか……。
「じゃー、次俺開けてくれよ」
俺が要を疑っている間に、次は朝陽が開ける事になった。
朝陽もいつの間にか耳たぶに印を付けていた。
「じゃーいくぞ」
ガチャンッ!
えっ?
もう開けたの?
ちょっと早くない?
朝陽も鏡を見て「おぉー」と言っている。
要が俺を手招きした。
「次、お前だろ。早くこっち来て座れよ」
「お、おぉ……」
どうしよう……。
めちゃめちゃ怖い。
緊張で心臓がバクバクする。
俺は要の前に座った。
「湊はどこに開けるんだよ」
「え……あ、どうしよ。何も考えてない……」
「まぁ、俺らと同じ所でいいか」
そう言うと要は俺の耳たぶに印を付けた。
その後、耳に冷たい物が触れた。
「ひゃっ!」
「何だよ、じっとしろよ。消毒してんだから」
「え? あぁ、ごめん……」
「なぁ……やっぱお前怖いんじゃねーの?」
「こ、怖くなんてない!」
「やめるなら、今だぞ」
要は真剣な顔をして、俺に言った。
正直怖い。
めちゃくちゃビビってる。
でも、目的のために俺は開けたいんだ。
「……大丈夫。開けてくれ」
「なら、いいけどよ……」
要はそう言った後、ピアッサーを俺の耳に当てた。
「ちょっと待って! 朝陽、本当に痛くない?」
「え? 別にそんな痛くないよ」
「……やっぱビビってんじゃねーか」
「朝陽の言う事信じるからな。要、一思いにやってくれ!」
俺がそう言った瞬間「ガチャンッ!」と耳元でなった。
痛っ!
そう思ったのは一瞬で、後はジンジンとした痛みに変わった。
「あれ? 思ったほど痛くない……」
「だから言っただろ」
「要は日頃の行いが悪いから、信じられない」
「こんな事は嘘つかねーよ」
「どうだか……」
そんな事を言い合いながら、俺は鏡で耳に付いているピアスを見た。
かっけぇー。
怖かったけど、開けて良かったー。
俺は嬉しくてずっと鏡を見ていた。
そして気付いた。
「なぁー。このピアス、皆一緒じゃね?」
要も鏡を覗き込んできて。自分のピアスと俺のピアスを見比べている。
朝陽もそれに加わった。
「あー、3人共同じピアスだね」
「ピアッサーに最初から付いてるピアスの事、何にも考えてなかったな」
「これって、お揃い……」
「お揃いだね」
「お揃いだな」
似たやつどころか、完璧にお揃いなんだけど……。
「どーせ穴が落ち着いたら、ピアス変えるんだから気にすんなよ」
「ま、いいじゃん。3人の友情って事で」
落ち込んだ俺の肩を朝陽が叩いた。
「3人の絆ってか? いいじゃん、それ!」
3人の……絆?
……何それ。
ちょっとかっこいいじゃん。
俺は鏡でもう一度自分のピアスを見た。
今は彼女もいないし、友情でもいいか。
俺はそっとピアスを触った。
「痛っ!」
「バッカだなー。開けたばっかなんだから、そりゃ痛いだろ」
「湊はバカだな」
2人はまた笑ってる。
「うるさい! バカバカ言うな!」
俺は怒りながらも、まぁ……こいつらと一緒なら、それでもいいかと思った。




