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転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです  作者: 奈津輝としか
第2章 南宋の建国と金国との攻防

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第17話 鬼神丸国重

 飲馬川を脱出すると、李応が更に援軍を送ってくれており、亡き徐寧の息子である徐晟が戴宗らと共に兵を率いて合流した。


(やっばぁ。呼延鈺もイケメンだけど、徐晟の方が王子様系で万人受けするイケメンね)


 俺はすっかり徐晟が気に入った。この頃になると、普段は「俺」などと男言葉を執拗に使っていたが、もうほとんど完全に女性化しており、自分が男だった時の感覚を失いつつあった。


 徐晟達が合流して兵力は2000人くらいになったけど、それでも心許(こころもと)ない。これからどうする?と思案すると、戴宗が口を開いて提案した。


「かつての仲間達(梁山泊の)の何人かは、官職を捨てて登雲山で山賊をしていると穆春が言っておりました。劉猊の奴は、また攻めて来るでしょう。ひとまずは、登雲山に避難してみては如何でしょう?落ち着いてから、また策を巡らしてみては?」


 皆は、他に大した意見も無く、「そうしよう」と言う事になった。登雲山へ向けて進んでいると、配下の者が叫んだ。


「金軍!金軍だぁ!四太子(スータイヅゥ)の大軍だ!!」


 運の悪い事に、北に引き上げる途中の兀朮(ウジュ)の軍勢に出会った。敗残兵を(まと)めながらの撤退であるにも関わらず、その数は10万を超えていた。


 普通の将であれば、敗ければ兵は離散逃亡し、(わず)かの兵で落ち延びる事になる。しかし、兀朮(ウジュ)(もと)が1番安全であると金兵達に信頼され、軍神であるかの様に崇拝されている兀朮(ウジュ)には逆に兵が集まって来るのだ。これがカリスマと言うものなのだろう。兀朮(ウジュ)が並の将とは格が違うのは、こう言う理由もあり宋軍にとって彼の存在は脅威でしか無い。


 10万以上の金軍に対して、こちらは2千人程度しか居ない。奇策も無しに正面から出会ってしまった今、勝ちの目は完全に(ゼロ)である。更に此方(こちら)は元は山賊上がりの兵達なので、恐慌状態となり大混乱で収拾が付かなくなった。


「お前ら…終わりだよ。鬼神丸国重…」



 鬼神丸国重は、新撰組3番隊組長・斎藤一の愛刀として知られる。会津戦争の如来堂の戦いに()いて、如来堂に残って戦った斎藤一を含めた新撰組は全員討ち死にし、この時に斎藤一も戦死したと思われていた。明治の世になり、藤田五郎と改名した警察官の正体が斎藤一と分かるまでは。


 この如来堂の戦いでは、およそ70人以上の新政府軍を斬り殺して、この包囲網をたった1人で突破して生き延びたのだ。その代償は大きく、瀕死の重傷を負い傷を治す為にその後の戦いには参加出来なかった。もしもがあるなら、五稜郭で土方歳三と共に戦死していたかも知れない。


 斎藤一は新撰組の中で、最も多くの人間を斬殺した豪傑だ。その晩年の逸話の中で、有名な話がある。昭和の剣豪・山本忠次郎が若い頃の修行で、空缶を(ひも)で吊るして突きの練習をしていた。


 ある日そこへ1人の老人が通りかかり、「ふむ、筋は良いが、それでは人は殺せぬ。所詮剣は人殺しの道。殺気が足りぬ」と言い、山本忠次郎から竹刀を受け取ると、空缶に向けて鋭い突きを放った。


「こんなものか」


 そう、その老人が(つぶや)いて立ち去った。目にも止まらぬ速さで突いたのは辛うじて見えたが、空缶は全く揺れず不思議に思ってその空缶を覗くと、果たして空缶は貫通されていたと言う。


 山本忠次郎はその老人の正体が気になり、近所に住んでいた老人を突き止めた。その老人こそが、斎藤一だったのは言うまでも無い。


 現代でも割り箸を、その入れ物の袋を使って、真っ二つに叩き斬る芸当を見せる者がいる。この域に達している者であれば、割り箸の袋で喉笛を切り裂く事も可能だろう。圧倒的な速度スピードこそが、圧倒的なパワーを生む。


 また刀を使って連続で人を「斬る」事が出来るのは、せいぜい4人程度が限界だろう。何故なら刀は、斬られた者の血や(あぶら)で斬れなくなるからだ。


 斎藤一が70人以上も斬り殺して包囲網を突破出来たのは、彼の特化した技が斬撃では無く「突き」であったからだ。土方歳三が考案したとされる「片手平突き」を、考案者である土方歳三を上回る技の精錬さを見せた。「超高速かつ正確無比の突き」、これこそが斎藤一の強さの秘密である。



 俺は鬼神丸国重を振り(かざ)して金軍に突撃し、金兵を突いて突いて突き殺した。一際(ひときわ)長い槍を金兵は使っていたが、その槍の切先を跳ね上げて軌道を上に()らし、瞬歩で(ふところ)に入って喉を突いた。刀を抜くと血が吹き出し、顔を()らして目に血がかかるのを防いだ。


 周囲は怒号と悲鳴、剣や槍がぶつかり合う鈍い金属音が鳴り響き、まるでパチンコ屋の中から外に出た時の様に、周囲の音が何も聴こえなくなっていた。どれ程の時が経った事だろうか?気が付けば、自分の周囲には仲間は1人も()らず、金兵もほとんど血の海に沈んで何人殺したか覚えていない。


「うぇーえっ」


 浴びた返り血が乾き始めて、服や身体に張り付いて気持ち悪い。近くの河で水浴びをしたい、顔も洗いたいと思い河を探した。


 河を見つけ、手で水を(すく)って顔を洗い、再び水を(すく)って飲もうとして止めた。我に返って見た光景は、数え切れないほどの死体が河で折り重なっていた。最期に水を飲もうとし、そこでも水の奪い合いで金軍と争ったのだろう。遺体の山で汚染された水を、飲む事は出来なかった。


 ふと、思い出した。


自動洗浄(オートクリーン)


 俺は自分が、生活魔法が使えた事を思い出した。魔法によって服だけで無く、身体からも汚れが消えてリフレッシュされた。


「ふぅーっ」


 汗臭さも消え、不快な感じが無くなってようやく落ち着いて来た。乱戦で皆んなとは(はぐ)れてしまい、周辺を探したが遺体も見つからなかったので、まだ皆んなは生きていると確信して、当初の予定通りに取り敢えず登雲山へ向かう事にした。


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