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転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです  作者: 奈津輝としか
第2章 南宋の建国と金国との攻防

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第16話 太后の策

「何だと!?関勝を奪われただと!」


 劉豫は息子からの報告を受け、木札で騙されて関勝夫婦が堂々と脱獄したと聞いて激怒した。


「許せん!この俺様…よくも朕を(あざむ)きおったな!!」


 劉豫は、張信と畢豊に命じて飲馬川を攻めさせた。


(ポゥ)!(報告!)偽斉国が攻めて参りました!」


 あれだけコケにすれば、怒って攻めてくるだろうとは思っていた。


「打って出て殺すのは容易(たやす)い。しかし劉猊を捕らえ、劉豫を引っ張り出すには怒らせるのが1番だ。ここは籠城の一択だな」


 張信と畢豊が攻め寄せたが相手にせず、攻城して来ると火矢を撃ち込んで撃退した。


「よし、殺さぬ程度に蹴散らしてやれ!」


 楊林と関勝が打って出ると、散々に蹴散らされて逃げて行った。


「ははは、何と無様な!皆、笑ってやれ!」


 宋軍に嘲笑(あざわら)われ、張信と畢豊は歯軋(はぎし)りして悔しがり、大名府に戻ると劉猊に訴えた。


「うぬぬぬ、許せん!俺をコケにするとは、父上の顔に泥を塗るも同じ事。皮を()ぎその肉を喰らわねば、この怒りは収まらぬ」


 劉猊は顔を真っ赤にして怒ったが、禿魯が(さと)した。


「ここは一つ良く考えましょう。勢いがあると言っても飲馬川の兵は、我らに比べれば寡兵で御座います。大王(ダーワン)(劉猊の事)が大軍を率いて飲馬川を取り囲めば、奴らなど終わりです。しかし窮鼠猫を噛むと申しますし、大王(ダーワン)の寛容さを見せるべく、先ずは降伏勧告の使者を送られて見ては如何でしょうか?奴らは涙を流して、大王(ダーワン)の寛大さに感謝する事でしょう」


「ははは、それは良い」


 劉猊は張保を使者として(つか)わせた。


「使者が来ただと?」


「どうしますか?太后(タイホゥ)


「ふふふ、使者を(ねぎら)って歓迎して上げましょう。劉猊が痺れを切らせて、攻めて来るまでね。あははは」


 初め、張保を粗末な食事を用意した部屋に案内させた。


(何と、私は斉国の正式な使者であるぞ。この様な侮辱を受けるとは、降伏するつもりなど無いらしいな?)


 張保は内心、(いきどお)った。そこへ俺が現れて、粗末なもてなしを見て怒鳴った。


「何だこれは!?我らは斉国に降伏すると決めたのだ!その御使者殿に対して、このもてなしとは何たる有様だ!主簿と女官長を斬れ!」


 俺が激怒して側仕えにキレた為、張保は「私は気にしていませんから、何卒穏便に…」と主簿らを(かば)った。


(ほう?なかなか優しい心根を持っていると見える)


 当然全ては芝居であるが、ここで主簿らを見殺しにする者であれば、躊躇(ためら)わずに殺すつもりであった。王進に目配せを送り、(命拾いしたな?)と王進が目で語っていた。


「さぁ、さぁ、一献どうぞ。斉に帰属する祝い酒ですぞ。これで我らも斉国の一員ですな。張保殿には、これからお世話になる。お近づきの印に…どうかこれからも宜しくお願い致します」


 関勝はそう言うと、手を叩いてお盆に乗せた銀子を積み上げた。


「こ、これは…」


「どうか遠慮なさらずに。これからも、我らをお引き立て下さい」


「う、うむ…」


 張保は驚き、そして平静を装っていたが、明らかに内心は有頂天で抑え切れない笑みが(こぼ)れていた。美女達にお酌をさせ、満更でも無い張保は完全に警戒を緩めた。


 そうして、次の日も次の日も張保を歓待し、「あいつと酒が飲めても、俺とは飲めないのか?」と人を変えて、張保を宴会漬けにして飲馬川に引き留め続けた。



「遅い!遅過ぎる!何をしているのだ張保の奴は…」


 劉猊は全く音沙汰の無い張保に対して、イライラを(つの)らせていた。そこへ飲馬川に潜入させていた間者(スパイ)から報告を受けた。


「何?張保が寝返っただと?」


 張保に従っていた供の者らに、「張保は我らに降った。もはや斉には戻らぬ」と言われて追い返されたと言うのだ。


「許せん!張保の奴、八つ裂きにしてくれるわ!!」


 激怒した劉猊は、禿魯が諌めるのも聴かず飲馬川へ攻め寄せた。


「くくく…貴様らの行動は、全て太后(タイホゥ)様のお見通しよ。それ!」


 楊林軍が劉猊軍の右側面を突くと、頃合いを見計らって今度は、左側面から燕青軍が突撃して来た。左右から挟撃されて混乱する劉猊軍に、トドメとばかりに正門が開いて関勝が討って出た。


 劉猊には混乱を収める能力は無く、散々に追い散らされた。劉猊は命からがら逃げ万慶寺跡まで撤退して来ると、突然、地面が爆発した。音に驚いた騎馬が混乱し、恐慌状態となった所に次々と地雷が爆発して、張信と畢豊は巻き込まれて戦死した。しかし、劉猊と禿魯に逃げられた。


太后(タイホゥ)様、我が軍の勝利ですぞ!」


太后(タイホゥ)の神算鬼謀に恐れ入りました。いつの間にこの様な策を?」


「ははは。いや何、項羽と范増を離間させた稀代の謀将・陳平の離間の策を真似ただけよ。それにしても…こんなに上手くいくとは、自分でも驚いたわ」


 張保は、普通なら首を()ねる所だが、根っからの悪人では無かったので、命までは取らずに牢に入れた。


「さあ皆んな!すぐにでも劉猊が、大軍を連れて来るわよ。今度こそ本気の軍が。この塞には兵は少なく、持ち(こた)えるのは困難だわ」


 俺は塞を焼き払い、南に駐屯する軍と合流する為に、飲馬川を脱出して南方へと向かった。

 


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