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転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです  作者: 奈津輝としか
第2章 南宋の建国と金国との攻防

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第15話 双鞭の息子

「この木札を使って、関兄貴の奥方も救い出しましょう」


 関勝の夫人も大名府から連れ出して、飲馬川へ向かった。その道中にある野狐舗に向かった。王進らが野営していると聞いたからだ。しかし野狐舗は打ち壊され、あちこちからは黒煙が立ち昇り、廃墟となっていた。


 野狐舗を攻めたのは、劉豫の息子である劉猊と畢豊であった。しかし王進らは、関勝を救い出す為に大名府に向かっており、既にも抜けの殻であった。


「おお、凌振殿では無いか!?」


「燕青!」


 燕青達が合流して来た。


「燕青…」


 俺は燕青を見ると、少し気まずくなった。燕青と付き合い始めた頃、俺は李逵に犯された。(けが)された俺を見て、傷付いた燕青に悪くて別れる事にした。つまりは元彼である。別れ方が最悪だったので、気まずくて仕方がない。


 しかもその後俺は、李逵のセフレにされたのだから寝取られた女だ。燕青は、俺が裏切って李逵を選んだと思っているかも知れない。だからきっと、恨まれているに違いない。燕青がストーカーだったなら、とっくに俺は刺されている。


 王進はそれを知らないが、凌振と楊林は知っている。なので余計な気を回して、2人が壁になって俺と燕青の間を埋めた。


 久しぶりに梁山泊の仲間に会えた喜びで、楊林達は宴会気分になっていたが、俺と燕青の間には微妙な空気が流れていた。


「敵だ!敵襲!!」


 兵が怒号を挙げて報せると、周囲で悲鳴と干戈(かんか)を交える音が聞こえた。その声に反応して、ほぼ皆が同時に抜刀して身構えた。さすが元梁山泊の面々は、歴戦の猛者である。


 しかし敗残兵である王進らの手勢は百人余りしか居らず、それに対して劉猊軍は、軽く三千人以上は居る。せっかく生き残った兵達だ。1人も死なせたくは無い。


退()け!今は退()け!」


 俺は叫び、自ら殿(しんがり)となって敵を食い止め様とした。


「和泉守藤原兼重」


「金重」


『二天一流』


 和泉守藤原兼重と金重は、宮本武蔵が愛用していた刀である。他には、使うのが勿体無くて晩年まで使わずに大切に保管していたとされる、「大和国住国宗」と言う名刀も有名だ。


太后(タイホゥ)!ここは我らが食い止めます!どうかお逃げ下さい!」


 花太后(ファ・タイホゥ)ほど美しい女性が、敵に捕まれば悲惨な目に遭う事は想像出来る。朱皇后(ホワンホォ)は、悲惨な境遇に耐えられず、自死を選んだでは無いか。


 花太后(ファ・タイホゥ)は梁山泊の頭領では無く、楊志の兄弟分として客分預かりの身だったが、誰もが仲間だと認めている。仲間をその様な目に遭わせる訳にはいかない。


 しかも皇族に列せられた者であり、宋国の象徴(シンボル)でもある。花太后(ファ・タイホゥ)に何かあれば、宋国の顔に泥を塗られたも同然なのだ。


「せいっ!」


 王進は老練が成せる巧みな技で、群がって来る劉猊軍を槍棒で()ぎ払い、或いは頭を砕き喉を突いて殺害した。一騎当千とはまさにこの事で、これほどの使い手は林冲以外では見た事が無かった。


「さすが、元八十万禁軍教頭(師範)ね」


 王進の華麗な技に見惚(みと)れ、感心しつつ俺も敵に斬り込んだ。本音を言えば偽斉国の兵士を殺したくは無い。彼らは金国の兵では無く、金国に降伏した元宋国の兵だからだ。降伏などしなければ、彼らは未だ宋国の為に金国と戦い続けていたかも知れないのだ。


 全ては、彼らが降伏せざるを得ない状況にさせた、不甲斐ない宋の朝廷や皇族が悪いのだ。彼らには非が無い。非は無いが、降伏した彼らは生きる為に必死で殺しに来る。昨日の友は、今日の敵なのだ。これが戦争だ。


 此方(こちら)は豪傑が(そろ)っていたが、それでも敵は此方(こちら)の30倍も兵力が上だ。宋軍は、徐々に押され始めた。


「全く…退()けと言うに、共に死ぬつもりか?」


太后(タイホゥ)に万が一の事があれば、我らの敗けです。我らは太后(タイホゥ)の盾となって守りましょう」


「馬鹿な真似は止めて!」


 口に出せないが、俺は不老不死なのだ。死なないのであれば極論、1人1人確実に相打ちを狙えば死なない俺だけが最後まで生き残る理屈だ。ただし死ぬほどのダメージは、例えようも無い痛みと苦しみを(ともな)う。


 痛いのは誰でも嫌だろう。本能で敵の攻撃に反応し、反射的に防御する。俺は向かって来た偽斉軍の兵士を、一刀の下に斬り捨てた。


 斬れば斬るほどに、強くなっていく実感があった。異世界に転生したのに、この世界にはレベルの概念が無い事を、ずっと不思議に思っていた。スキルはあるのにレベルが無いのだ。だがその疑問は、スキル名を偶然タップして解決した。


 実は、スキルにはレベルの代わりに熟練度が存在したのだ。熟練度が上がれば上がるほど、ダメージ力、攻撃速度等が上昇して行く。素振り等の稽古でも上昇するのだが、実戦で上昇する熟練度はその比では無い。まさに「実戦に勝る稽古無し」である。


 しかしそれでも衆寡敵せずで、壊滅寸前まで追い込まれていた。


「クソが!舐めやがって、皆殺しだ!!」


 左手の刀を盾の様に使って攻撃を受け、右手の一振りで斬殺して行く。そこへ新たな一団が現れた。


「呼延鈺、推参!!」


 呼延鈺は幼名を小魚(シャオユー)と言い、呼延灼に才能を見出されて養子となった。「鋼の様に強い鈺」の意味から取って名前を与えられた。養父に似て、名前負けしていない豪傑である。


 偽斉軍は蹴散らされ、呼延鈺の活躍で壊滅寸前の宋軍は救われた。


「李応さんに救出を頼まれて来ました」


「有難う、助かったわ。えーっと、確か呼延灼将軍の息子…だったよね?」


「はい、養子の呼延鈺と申します」


 やっばいわ。イケメンだわ。と胸が高鳴って見ていると、燕青の視線に気が付いて目を()らした。


(若い男の子が可愛いと思えるなんて、もうすっかりおばちゃんだわ俺…)


 呼延鈺のお陰で、無事に飲馬川に逃れた。

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