表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです  作者: 奈津輝としか
第2章 南宋の建国と金国との攻防

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/74

第7話 生きていた梁山泊の頭領

 命からがら包囲網を突破した兀朮(ウジュ)は、これ以降2度と長江を渡ろうとはしなかった。それほどまでに、完膚かんぷなきまでに梁紅玉によって叩き潰されたと言う事だ。


「水軍では、とても(かな)わぬ…」


 北方騎馬民族である兀朮(ウジュ)は、陸であれば負ける気がしないが、水軍では勝てないと嫌と言うほど思い知らされた。


「だが、俺は生き延びた」


 それにしても惨めだ。あれほど壮健であった金軍が、今や少しばかりの兵で落ち延びる事となるとは。この屈辱は、韓世忠の首を討って晴らす。そう心に誓った。


「うおぉー!」


 安堵したのも束の間、金軍は襲撃を受けた。敵将らしい者が現れると、雄叫びを上げながら迷わずに打ち掛かって来た。


兀朮(ウジュ)、ここで死ねぇ!」


 その男は自分の事を知っており、全身からは凄まじい殺気を放っていた。兀朮(ウジュ)を獅子とするならば、韓世忠は猛虎の様な男だった。それに比べれば、突然現れたこの男など、手負いの狐程度に過ぎなかったであろう。


 しかしその男の目は血走り、異様なまでに全身から放たれる、圧倒的な負の殺気(オーラ)によって気圧(けお)された。気圧(けお)されたのは兀朮(ウジュ)では無く、愛馬の方である。


 兀朮(ウジュ)の愛馬は男に怯え、その場から逃げ去ろうとして兀朮(ウジュ)の思い通りに動こうとしなくなった。兀朮(ウジュ)が鬼神の如き強さを発揮していたのは、人馬一体の動きにもあった。


 自慢の機動力を奪われ、何度打ち払っても蛇の様に執念深く打ち掛かって来る男にうんざりし、捨て置いて逃げた。


「はぁ、はぁ、はぁ。くそったれめぇ!戻って来て戦えー!こんちくしょうがぁ!!」


 男は複数の手傷を負い、兀朮(ウジュ)に逃げられてたいそう悔しがった。この男は元梁山泊、浪裏白跳・張順であった。


 ここで張順?と聞いて、思わず読み返す読者もいるかも知れない。そう、張順は城壁を登ろうとして見つかり、全身に矢を浴びて水の底に沈んで死んだはずであった。兄の張横は、弟の死を嘆き悲しみ過ぎて衰弱死してしまった。


 張順は水の底から救い出されたものの、既に息絶えていた。梁山泊の義兄弟達によって手厚く葬られたはずの張順は、土葬された後に息を吹き返した。


 彼は梁山泊の中でも特に水泳の達人であり、四、五十里(約20km)を泳ぐ事が出来、数日間水中で過ごしても平気だと言う。仮死状態となっていた為に、肺に水が入る事なく溺死を(まぬが)れたと思われる。


 息を吹き返したものの重症である事には変わりなく、回復するまで埋葬された村で養生していた。回復し梁山泊が金軍の為に、特に兀朮(ウジュ)によって多くの頭領が殺されたと聞き、残りの人生は復讐に費やすと誓いを立てた。


 張順は梁山泊出身の頭領達の生き残りの中で、最も出世した1人だ。金国に対する異常なまでの復讐の念を高く評価して、高宗は張順を右相に抜擢するのである。


 もちろんそれだけで宰相に抜擢された訳では無い。この時高宗は、建康を占領した兀朮(ウジュ)の追撃を受けていた。杭州、越州を占領され高宗は逃亡を続け、張順が明州近郊で兀朮(ウジュ)を襲撃したお陰で、高宗は逃げる時間を稼ぐ事が出来た。張順は恨みを晴らす為であったが、高宗は恩に感じて出世させたのである。



 兀朮(ウジュ)は、張順をあしらって逃がれ振り切った。やがて左右が崖と林に覆われた場所に出た。すると突然、ジャーン、ジャーンと銅鑼が鳴って伏兵に襲われた。


「また伏兵か!?こしゃくな!」


 左右から群がる雑兵を蹴散らしていると、1人の若武者が飛び出して来た。見れば韓世忠の一回りは小さい男だったが、よく鍛えられている身体つきが見て取れた。正体不明の伏兵軍の将に違いないと思い、兀朮(ウジュ)はその若武者に向かって行った。


「ううりゃあぁぁ!」


 方天戟を振り回して、頭上から真っ二つにしようと振り下ろした。しかし驚くほど軽く受け流され、代わりに鋭い突きを受けた。


「うおっ!」


 辛うじてその突きを()わし、受ける事が出来た。兀朮(ウジュ)は、こいつは油断ならない奴だと思った。


 腕の血管が浮き上がるほど、渾身の力を込めて方天戟を払ったが、それも手応えを感じる事なく弾かれた。剛vs.柔。見る者は固唾(かたず)を飲んで、両者の一騎討ちを見守った。


 方天戟が弓の様にしなり、風を切って若武者の首を狙ったが、バネの様に上体を()らして()わすと、起き上がる反動を利用して鋭い突きを繰り出した。その突きを手甲で受け流し、ギリギリで()わした。そして間合いを取ると、若武者に向けてたずねた。


「大した腕だ。まだ名を聞いて無かったな?」


「通・泰鎮撫使・岳鵬挙なり」


「岳飛!?お前が、あの?」


(なるほど…粘没喝(ネメガ)が言っていた奴は、こいつか?)


 (あなど)れぬ相手と知って、兀朮(ウジュ)は気合いを入れ直した。だがこの一騎討ちの最中にも戦闘は続いており、岳家軍の猛将達によって兀朮(ウジュ)が率いる金軍は壊滅させられた。


 兀朮(ウジュ)は一騎討ちどころでは無くなり、這這(ほうほう)(てい)で逃げて行った。


 韓世忠の水軍によって長江より北岸から去り、再編して再び南征の動きを見せるも張順に邪魔をされ、最後の美味しい所は岳飛が持って行った感じである。


 それでも兀朮(ウジュ)が相手であれば、岳飛で無ければ勝てなかっただろうから納得だ。


 岳飛はこの戦いの後、神武右副軍都統制に昇進した。つまり宋軍を司る副司令官の1人に抜擢されたのだ。これまでの岳飛の階級は、決して高く無い。後に中興四将と(うた)われた劉光世や、張俊の軍に組み込まれていた事もある。現代の階級で言えば、少将からいきなり副元帥となった様なものである。


 韓世忠もまた、検校少保・武勝昭慶軍節度使に昇進した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ