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転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです  作者: 奈津輝としか
第2章 南宋の建国と金国との攻防

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第5話 八字軍

 宋軍が連勝して北伐を続けると、遂に金軍は南征軍を(おこ)した。兀朮(ウジュ)は水軍を率いて韓世忠に当たり、粘没喝(ネメガ)は劉光世を食い止めに行き、太后(タイホゥ)である俺には斡離不(オリブ)の軍勢が向かっているとの報告を受けた。


斡離不(オリブ)か…」


 相手にとって不足なし!兀朮(ウジュ)を除けば、金国史上最高の名将と(うた)われた男だ。


 索敵を行っていると、金国の間諜(スパイ)を発見した。拷問して取り調べても無駄だったので、自白剤を用いて口を割らせた。すると、直ぐ近くまで金軍の先遣隊がいるとの情報を(つか)んだ。


「よし、罠にかけてやろう」


 こちらも先遣隊を派遣してわざと金軍の索敵にかかり、(おび)き寄せて罠に()める作戦だ。

 一刻後、百人足らずの兵で偶然を装って金軍の前に出た。その宋軍を金軍は、千騎ほどで追って来た。寡兵である為、バタバタと狙い撃ちされて討たれたが、上手く誘導して来た。


「よし、良いぞ」


 追って来る金軍に狙い澄まし、矢を撃ち込むタイミングを図った。


「うおー!」


「ギャア!」


 突然、悲鳴と怒号が入り交じり、何が起こったのか理解出来ずにいると、背後と側面から同時に金軍が突撃して来た。斡離不(オリブ)に、こちらの策が読まれていたのだ。


「何だ?何が起こった?」


「金軍です!ここは防ぎますから、太后(タイホゥ)はお逃げ下さい!」


 そう報告した侍衛は次の瞬間に、矢で頭を射抜かれて目の前で絶命した。


斡離不(オリブ)かぁ!?」


 その問い掛けに対して金軍の将は、矢を放ってこたえた。


『神眼』


 矢の軌道が映し出されて、矢はまるでスローモーションの様にゆっくりと時が流れて見えた。


「吹毛剣!」


 楊家将伝来の宝剣を具現化して、斡離不(オリブ)が放った矢を斬り落とした。


「ほぅ?やるな」


 斡離不(オリブ)は騎射で俺の(そば)を駆け抜け、俺がいる馬車目掛けて矢を撃ち込んだ。弓矢の名手である彼は、寸分の狂いも無く頭、喉、胸の3箇所を同時に射て来た。


「すわっ!」


 ほとんど同時に射込まれた矢も、『神眼』の前では止まってる様に見える。まったく、チートにもほどがある。3本とも払い、あるいは斬り落として見せた。


職業(ジョブ)が侍の俺は、遠距離攻撃が苦手だ。近くに来たら蹴り落として、近接戦闘に持ち込んでやろう…)


 しかし、斡離不(オリブ)だけに気を取られている訳にもいかない。この隊を率いているのは俺だ。指揮をする者がいない為に、宋軍は各各(おのおの)が単独で金軍を防いでいる。その為に各個撃破され、宋軍は兵数を減らした。


「くそ!このままでは全滅も時間の問題だ」


 軍師がいないのは、これほどまでに(つら)(いくさ)になるのかと痛烈に感じた。「全軍退却!」と言い掛けた時、何処の軍か所属不明の軍団が金軍の側面を突いて救ってくれた。その軍団は、皆が顔に刺青を施している異様な集団であった。


「おおぉ!我が軍の窮地を救ってくれた、あの軍は何処の軍だ?」


「あれは、八字軍です!」


 八字軍は王彦によって組織された義勇軍で、金国の支配に抵抗する武装集団(テロリスト)である。八字軍の兵士達は「赤心報国、誓殺金賊」の8文字を顔に刺青していた事で良く知られる。王彦は宋国の将軍だが、この八字軍は元々は金軍に対抗する為に王彦が集めた、言わば私兵集団であった。

 八字軍は次第に規模を拡大して十九もの義勇軍と連合し、その兵力は十余万人にも達した。宋国への愛国心が強く、金国への恨みが強い者らで構成された八字軍は、金軍の討伐を何度も退けて見せた。

 この八字軍に頼る事を宗沢は考え、八字軍を宋国に帰順させて御営に編入した。この八字軍には岳飛も協力を依頼していた程で、梁山泊以外では精強な独立軍であった。


「八字軍?王彦か!」


 さすが斡離不(オリブ)は名将で、状況不利と見るや被害を拡げる事無く、あっさりと金軍は退()いた。孫子にもある。重要なのは、如何いかに上手く負けるかであると。

 敗北が確定しているのであれば、被害が少ないうちに退()き、体勢を整えてから再戦すれば良い。引き(ぎわ)(わきま)えずにズルズルと戦い、2度と立ち上がれぬほどの被害を出すのは愚か者のする事だと。重要なのは、その見極めである。

 引き際を(わきま)え、冷静に状況分析した斡離不(オリブ)は、さすが名将たる所以(ゆえん)であった。


「礼が言いたい。八字軍の将を呼んで欲しい」


「はい。太后(タイホゥ)、畏まりました」


 数分後、侍衛が八字軍の将を連れて来た。将の後ろには、彼を守る様にして2人の共が付いていた。


(おもて)を上げよ。其方(そち)が王彦であるか?」


太后(タイホゥ)娘娘(ニャンニャン)に拝謁致します。(それがし)は、王彦では御座いません。八字軍左軍兵馬都監・柳順と申します」


「柳順とやら礼を言う。八字軍のお陰で我が軍は救われた。評定で改めて褒美を(つか)わそう」


「王彦に代わって、お礼申し上げます」


 柳順は、(うやうや)しく拝礼して下がった。そしてそのまま金軍へ突撃して行った。


「それにしても…」


 八字軍の兵達は顔に八文字の刺青をしているだけの者もいれば、文字の見分けもつかないほど顔と言わず全身(くま)なく刺青が施されている者もいた。

 日本人の俺は、刺青に良い印象が無い。ここ数年でこそタトゥーをファッションの様に入れる若者も増えたが、それでも刺青=ヤクザのイメージが(ぬぐ)えず、刺青に恐怖にも似た感情が芽生える。


 八字軍の活躍で、窮地を(まぬが)れただけで無く、斡離不(オリブ)の軍勢を大破する大勝利を得た。斡離不(オリブ)は、命からがら北へ逃げて行った。

 これは、ただの勝利では無い。斡離不(オリブ)は、粘没喝(ネメガ)と並ぶ金軍の双璧である。西路軍、東路軍は金国の主力部隊だ。それを打ち破って見せたのだ。


「なるほどね。宗沢や岳飛が頼りにする訳だ。八字軍か…強い。それにしても…皆んな顔が怖いな(笑)」


 此方(こちら)の戦場は、あらかた片付いた。落ち着いて来ると、韓世忠や劉光世の戦場が気になった。

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