第59話 止まらない頭領の死
「うおぉぉ!敵将、敵将は何処だー!臆したかぁ!出て来て、この急先鋒・索超と戦え!!」
金蘸斧を振り回し、当たるを幸いに金兵を薙ぎ倒しながら、索超は敵将を探した。
「えらく威勢が良いな?弱卒しかいない中原の兵などに臆する金兵など1人もおらんわ」
黄金の甲冑を着た若武者が言うと、金兵はゲラゲラと笑って煽った。
「おのれ!この俺様を愚弄するか!!」
索超は、楊志を始めとする多くの豪傑達とも渡り合った猛者だ。それだけに、己の武勇には絶対的な自信があった。しかしその金将は、更に強かった。青龍偃月刀の重く鋭い一撃を凌ぐのがやっとの状態であった。三十合も打ち合うと、遂に及ばず索超は左肩から腹まで斬り裂かれた。
「ごふっ…な、何奴…」
「あの世で誇るが良い。お前が戦った相手は、この兀朮なのだから」
「貴様が…」
貴様が四太子と言おうとして、索超は事切れて落馬した。
「索超ー!」
鄧飛が索超を救おうと飛び込んで来たので、兀朮は剣を抜いて軽く振った。その剣は鞘を抜くと光り輝き、恐るべき斬れ味で鄧飛の鎖ごと身体を真っ二つにした。
「さすが、七星剣よ。素晴らしい斬れ味だ」
遼の公主が持っていた剣である。遼を滅ぼした褒美として、太祖から下賜されていたのだ。
梁山泊軍は多くの犠牲者を出したが、それでもまだ戦力は拮抗していた。劉唐は太原府の城門に取り付き、門を抜く所であったが次の瞬間、予測も出来ない事が起きた。
「喰らえ!」
何と金軍は、守るべき城門を切って落としたのである。
「うわあぁぁ」
劉唐と宋兵は倒れて来た城門に押し潰されて、あえない最期を遂げた。鮑旭は劉唐を救おうとして落下した城門に近づくと、門の影から突如現れた兀朮に頭から真っ二つにされた。梁山泊軍は金軍相手に翻弄され、誘い出されては各個撃破された。
阮小ニは騎馬民族である金軍に大した水軍は無いだろうと侮り、河から城内に侵入しようとして待ち伏せを受けた。河には油が撒かれており、火を点けられると河の水面が燃え上がり、炎に囲まれて逃げ出したが逃げ切れず追い込まれた。
「最早これまでか…。小五、小七、先に逝く兄を許してくれ」
敵に捕まって辱めを受けるくらいなら死を選ぶと言い、小刀を首に当てると自刎して果てた。
「撃てぇー!!」
金軍はドォーン、ドォーンと大砲を梁山泊軍に撃ち込み、それが運悪く孟康に当たって粉々に吹き飛んだ。梁山泊にとっては、まだまだ悪夢の時間は終わらない。
嶺を登って来た解宝と解珍は包囲され、雨の様に降り注ぐ矢を全身に受けて、2人ともハリネズミの様になって絶命した。馬麟は金兵が投げた槍を回避して、怯んだ所を兀朮の青龍偃月刀を喰らって斬殺された。
燕順は吼えて兀朮に斬りかかったが、剣を弾かれて返す刃で真っ二つにされ返り討ちとなった。
その頃、呂方と郭盛は金将を道連れにして谷へ落ち、呂方は即死だったが、郭盛は辛うじて息をしていた所へ、落石して来た大岩が直撃して命を落とした。
「 殺光他們!(皆殺しにしろ!)杀!(突撃!)」
義弟の郝思文が討たれたとの悲報を受けた関勝は、飲まず食わずで一昼夜を駆け抜けて太原府に到着した。自分も配下の兵も激しく疲労しているはずであったが、金軍への憎しみが強く精神力が肉体を凌駕していた。休む事なく、友軍を攻め立てる金軍の横腹を突いたのである。
梁山泊が誇る最強クラスの猛将の援軍によって、潰走寸前であった梁山泊軍は息を吹き返した。金軍は戦況を冷静に判断し、被害が大きくなる前に退いた。
しかしここ兀朮との戦場での話しであり、他の戦場では太祖・阿骨打の甥に当たる粘没喝によって、第四軍を率いる扈三娘の部隊は壊滅させられていた。
「ははは、弱え。中原の将とは、この程度でなれるものなのか?」
王英は粘没喝と一騎討ちするも、たったの一太刀で討ち取られた。
「あんたぁー!おのれ、よくも!!」
日月の両刀を煌めかせて、粘没喝に斬りかかった。
「ははは、やるねぇ。気の強い女は嫌いじゃねぇぜ。旦那も亡くなった事だし、俺の女になれよ!」
「ふざけるな!」
粘没喝は、わざと扈三娘を怒らせて平静でいられなくさせた。一騎討ちの最中も煽り続け、扈三娘は挑発に乗って深追いをし配下と逸れてしまった。
「これが最後だ。俺の女になるつもりは無いか?」
「くどい!」
「残念だ。では、お前の屍を貪るとしよう」
粘没喝は、暗器の鉄鎖を取り出して振り回し始めた。鉄鎖を躱わしたが、鎖が首に巻き付いた。粘没喝は驚くべき怪力で、扈三娘ごと鎖を振り回した。
扈三娘は首に巻き付いた鎖を掴んで抵抗したが、遠心力で鎖が首を締め付けて食い込み、遂に力尽きて窒息死した。粘没喝は、まだ体温が残る扈三娘を死姦して弄んだ。
「ふぅー、ふぅ。良い女だった。惜しいな、生きてればもっと愉しめたものを…」
金軍は扈三娘の遺体を裸にして磔にし辱めた。梁山泊を挑発して、扈三娘を取り戻しに来るのを待ち構えたのである。
宋江は罠と百も承知で、晒された扈三娘の遺体を何としても取り戻すと言い出した。
「哥哥(兄貴)、こう言う時の為においら達がいるんだ」
李逵は項充と李袞を連れて出陣した。長年の相棒であった鮑旭が斬殺された時は、その遺体を抱いて泣きじゃくった。鮑旭が頭に巻いていたバンダナを首に巻いた。
(これで、いつもおいら達は一緒だ)
鮑旭だけでは無い、失った多くの義兄弟達の仇を討つ。この命が尽きるまで止まるものかと、粘没喝を見つけた李逵は執拗に追った。
「うおぉらぁ!」
槍傷や刀傷を作るも怯む事なく、重機関車の如く突進した。その迫力に押され粘没喝は退いた。
それに武松と魯智深も加わって粘没喝を追ったが、従兄を救う為に現れた兀朮の七星剣によって、武松は左腕を斬られた。武松は皮一枚残して切断され、大量出血で意識を失った。魯智深は気を失った武松を担いで戦場を離れた。
李逵らは逃げる粘没喝を追っていたが、偽退却で伏兵のいる場所に誘導されて窮地に陥った。これぞ島津家のお家芸と謳われた「釣野伏」であり、金国や後のモンゴル軍(元軍)が得意とした戦術である。
「李袞、兄貴を死なせるなよ。死なせたら、あの世で鮑旭に合わせる顔が無い」
項充は自分が囮となって、李逵を逃す時間を稼いだ。しかし金軍は多く、項充の命を賭した思いも焼石に水であった。
「兄貴、ここでお別れです。ここで兄貴に死なれたら、鮑旭や項充に合わせる顔がありませんや。兄貴なら、俺らの仇をきっと討ってくれると信じてやすぜ」
李袞は三十人足らずの歩兵を連れて、数千はいるであろう金軍に突撃して行った。李逵は泣きながら板斧を振り回して、逃げに逃げたが鈍足である為に、項充と李袞を惨殺した金兵に追い付かれた。
「諦めるな、李逵!」
林冲と楊志が援軍に現れ、李逵を追って来た金軍を蹴散らした。




