第55話 淑妃
開封府に着く手前の客桟(旅館)で、俺は引き出されて板打ち30回の刑を受けた。
「信じて任せておれ」
童貫は耳元で囁いて、指示した役人に交互に板打ちを行わせた。バシン!バシッ!と音が派手に鳴り響き、背中の皮膚が裂けて血が滲んだ。…と言うのは表向きで、派手な音と相反して痛みは無く、皮膚の薄皮を切ったに過ぎず、血を広げて大袈裟に見せかけてくれているのだ。
彼らはプロの板打ち職人で、この様に手加減して尚且つ受刑を怪しまれず、また、加減を加えて受刑に格好つけての暗殺もお手のものであった。童貫の意図を無にしない為に、俺は苦しそうな呻き声を上げる演技をした。
俺がどこか他人事の様に言っているのは、痛覚耐性があり痛みを感じないからだ。童貫がこの様な仕打ちをしたと見せ掛けた訳は、結果的に俺を庇う為である。その効果は、徽宗皇帝に拝謁した時に絶大な効果を発揮した。
「是你(お前か)?花娘子…」
徽宗皇帝は俺を見て驚いた表情をしたが、血色の悪い顔色をしてボロボロに破れた着物から見える全身は血塗れで、足取りもおぼつかない様子で謁見した。数歩ほど歩み寄ると、よろめいて倒れて見せた。徽宗皇帝は立ち上がり、俺の元に駆け寄る仕草を見せて大監らに止められた。
「誰がこんな目に合わせろと言った!?」
「陛下に…、大罪人・花娘子が拝謁致します…」
俺は息も絶え絶えの重症を装い、健気にも床に這いつくばって拝謁した。
「良い、もう良いのだ。朕の元に戻って来てくれた。それだけで良いのだ」
徽宗皇帝は、「太医を呼べ!」と叫んだ。それから7日も経つと、傷が癒えて回復した様に見せ掛けた。
「花娘子、勅令である!拝謁して受けよ!!」
「ははぁ!」
童貫と話をしていると、突然、大監が現れて詔を下した。
「花娘子は天下に武威を示し、その徳は福に溢れ天下の民の知る所である。その比類なき美しさと慈愛に満ちた精神は、広く六宮を教え導くに相応しい。よってここに、淑妃の官位を授けるものとする。我が宗廟の美徳を永遠に守り続けよ!以上である」
「…慎んでお受け致します!」
俺は平伏したまま、両手を掲げて勅書を受け取った。童貫は大監に、袖の下を握らせていた。大監は徽宗皇帝に仕えて長い。陛下の好みも熟知しており、俺が勅書を受け取った時の表情などを報告する。賄賂を渡さなければ、「渋々受け取り、それはもう陛下の妃嬪に加えられる事は栄誉であるのに、喜ぶどころか嫌がる素振りを見せておりました。もしやどこぞの馬の骨を好いておるのやも知れませぬ。あっ、申し訳ございません。これは、失言でした!」等と報告されては災いを受ける事になる。
宋の時代は、賄賂無しでは宮廷内で生きていけないほど腐敗していた。清廉潔白な者は、早死にする世の中であった。童貫は俺の代わりに、汚れ仕事をしてくれたのだ。
(俺が淑妃だって?冗談じゃない。妃嬪に列せられてしまった。しかし陛下の勅令には逆らえない。どうしたものか?)
俺は、どうすれば離縁してもらえるかと、まだ婚姻も結んでいないのに考えていた。妃嬪ともなれば、後宮から外の世界に出る事は基本的に許されない。
淑妃は、正妻である皇后を除き、側室のトップである貴妃に次ぐ地位に当たる。つまり後宮に於いて、第3位の地位に昇り詰めたのだ。俺は長春宮を住まいとして与えられた。
「花淑妃、沐浴して陛下の御来臨をお待ち下さい」
大監が、女官達を引き連れて来た。
「お前達!しっかりと淑妃娘娘に、お仕え致すのだぞ!」
「畏まりました」
俺は女官達に背中を流され、風呂から上がると身体を拭かれて恥ずかしい思いをした。髪を櫛で梳かれ、媚薬入りのお香を焚かれて更に媚薬を飲まされた。
身体が火照って来て意識が朦朧とし、秘部が堪らなくムズムズと疼いた。これから所謂、キメセクを行う事になる。感度が尋常では無いほど昂まり、まるで全身が性感帯の様になるのだ。
「陛下の、おな~りぃ~!」
大監が外から大声で陛下の御来臨を報せてくれた。俺の代わりに侍女達が、陛下を出迎える。俺は婚姻で着る紅い花嫁衣装を着て、団扇で顔を隠して夫(陛下)を待つ。
陛下は団扇を取り、紅蓋頭を取って俺の顔を露わにした。陛下の顔が迫り、口付けを交わすと押し倒された。そこから後の記憶が無い。我に返ると、ほとんど全裸の状態でベッドに転がっていた。まだ虚ろな目で室内を見たが、陛下の姿は見えなかった。
「陛下は、明け方近くにお戻りになられました」
頭の回転が良さそうな侍女が察して答えた。そして尋ねた。
「沐浴なさいますか?」
「お願いするわ」
湯船に浸かろうとして中腰になると、秘部から白濁色の液が垂れて来た。
「はぁ…、思いっきり膣内に出されてるよ。当然と言えば当然だけど…」
俺は下腹に力を入れ、秘部に指を入れて残りの液を掻き出した。
「全然実感が無いけど、結婚しちゃったのか…俺…」
靖康の変に巻き込まれては大変だと思い、何か打開策は無いものかと思案したが、何をどうすれば良いのかも思い浮かばなかった。




