第50話 道清vs.一清
「逃すな!追え!」
潰走する晋軍を呉用は追撃を命じた。公孫勝が合流し、これで喬冽の妖術は封じれるだろう。今まさに勝機はここにあり。時を与えれば、再起する力を与えてしまう。何が何でもここで喬冽を仕留める。喬冽を倒すまでは、兵を退か無いと叫んだ。
呉軍師の決死の思いが、兵卒に至るまで伝播して行く。徐寧と索超がそれぞれ5千騎を率いて東路より南門を攻め、王英、孫新は5千騎を率いて西門に至る道筋で埋伏した。喬冽が敗れて西門を通れば、必ず討ち取れと軍師の策を受けた。
喬冽は、宋軍と梁山泊軍に追い付かれて囲まれた。
「水窪の草寇(水たまりの盗人)ごときが、敗れたのはこちらが油断していたからだ。今度こそ勝敗を決せん!」
すると入雲龍・公孫勝が現れて松紋古定剣を手に取り、喬冽を指して言った。
「師兄(兄弟子)よ、貴方は師傅 (お師匠様)の下で、一体何を学んで来たのだ?正道を捨て外道となった貴方に勝ち目は無い。大人しく下馬して帰順せよ!」
「おのれ一清!やはりお前か?お前如きがこの私に説教を垂れるつもりか!?」
喬冽は、これまで公孫勝に抱いて来た憎悪を吐き出した。
「お前如きの法術で、我を屈服出来るものか!?見よ、我が法術を!」
喬冽は目を閉じて精神集中し、ぶつぶつと呪文を唱え始めた。両手に青白い光が集まり、胸の前で円を作ると光の玉が現れた。そして両手を広げて光の玉を空に放つと、空中に無数の点鋼槍が浮いた。
「疾っ!」
点鋼槍が蛇の如くうねりながら、公孫勝を襲った。公孫勝も呪文を唱え、狼牙棍を召喚して点鋼槍を迎撃した。飛来する点鋼槍を狼牙棍が全て叩き落とした。喬冽は舌打ちして、怒りの形相で五龍山を仰ぎ見た。
「疾!」
喬冽は例え刺し違えても、弟弟子などに敗ける訳にはいかないと、生命力を削り法力に変えた。
五龍山は忽ち黒雲が広がり、雲中より黒龍が姿を現した。
「疾!」
飛電の如く黄龍が飛来した。喬冽は額に玉の汗をかいて滴る汗もそのままに、五龍山に手を伸ばしてゆっくりと指を折って握り締めた。
「青龍よ、来れ!」
五龍山の山頂から青龍が飛び出し、その直後に白龍も飛び出して飛来した。喬冽は全身全霊を込めて、剣を抜いて天を突き叫んだ。
「赤龍よ、出でて我を助けよ!」
黒、黄、青、白、赤の五色の龍を呼び寄せると、狂風が吹き荒れて梁山泊軍の旗を持つ軍士が風に巻き上げられて吹き飛んだ。
公孫勝が呪文を唱えて松紋古定剣を天に掲げると、天が割れ五色の羽を持つ霊鳥が現れた。五色其其の色には、青は仁、赤は礼、黄は信、白は義、黒は智と言う意味がある。この五色の羽を持った霊鳥こそ、神鳥の王である鳳凰だ。
赤龍が地上に向けて炎を吐くと、梁山泊軍の兵士200人余りが黒焦げになった。鳳凰は弧を描いて赤龍の炎を躱わして黄龍に迫り、鳳凰の羽ばたきで幾重もの空気圧の輪が出来て黄龍を捕縛すると、空気圧の輪が押し切って粉砕した。
黒龍が雷を吐いて鳳凰を追ったが、鳳凰は青龍を尾で叩いて霧散させた。赤龍と鳳凰が共に螺旋を描き、もつれ合って争ったが鳳凰の鋭い嘴に突かれて大地に落下した。あわや喬冽に激突しそうになったが当たらず、爆音と共に土砂を巻き上げた。
白龍は、吹雪を吐いて鳳凰を撃ち落とそうとしたが躱わされ、黒龍は鳳凰の体当たりを受けて、泥人形の様に砕け散った。鳳凰が黒龍に攻撃した隙を突いて、白龍が鳳凰に巻き付いたが、鳳凰の全身が金色の炎に包まれて白龍を燃やして消滅させた。
五龍を倒して鳳凰は、公孫勝の頭上に戻ると手のひらサイズに縮まって、そのまま手中に帰った。五條の神龍法を破られた喬冽は、更に新たな法術を唱えようとしたが、公孫勝はその動きを予測しており、喬冽の術が完成するよりも早く羅真人から授かった五雷正法の術を完成させた。そして頭上に光り輝く金甲神人を召喚し、大声で怒鳴った。
「喬冽よ、下馬して縄を受けよ!」
喬冽はブツブツと呪文を唱えたが、術は発動しなかった。胸を押さえて苦しみ、血を吐いて法力(MP)が尽きた事に気が付いた。喬冽は馬を走らせて、昭徳城に逃げ込んだ。公孫勝以下梁山泊軍は、昭徳城を取り囲んだ。
「賢弟の神功に頼って災厄を免れた。遠来して疲れただろう?今日はもう、ゆっくりと休むと良い。明日、また攻める事にしよう。喬冽は賢弟に術を破られて、進退窮まり焦っているに違いない」
宋江が公孫勝を労いたいと言った。
「有難う御座います。しかし、聞いておいて頂きたい事が御座います」
「何だ?」
「はい。我が師、羅真人が私に常々言っておりました。『涇原に喬冽あり。他(彼)道骨あり曾て來りて道を訪ふ。我暫く他(彼)を拒む。他(彼)の魔心正に重きに困り、亦た下土の生靈悪を造し、殺運未だ終らず。他(彼)後に魔心漸く退き、機緣到來せば、徳に遇ひて服す。恰かも機縁ありて汝に遇ふ。汝他(彼)を點化すべし。後に亦た得て、玄微を悟らん。日後、亦た他(彼)を用ふるの處あり』と」
要約すれば、喬冽には元々仙骨があって素質があり、弟子になりたいと訪れて来たが、彼の心の中には邪心が多くて弟子にするのを躊躇った。改心させるには時期尚早で今は(弟子にした時期には)無理だが、機縁があればその徳によって邪心が消えるだろう。幸運にも喬冽は機縁があって公孫勝に会う事が出来た。公孫勝よ、お前が喬冽を改心させるのだ。喬冽は改心して己の過ちを悟るだろう。そうなれば、喬冽をまた弟子として修行をつけさせよう、と言った感じか。
「更に師傅 (師匠)は言いました。『徳に遇ひて、魔は降る』と。師兄(兄弟子)が逃げ込んだ城は偶然にも昭徳城であり、これまた師傅 (師匠)の言葉と符合します。ここで師兄(兄弟子)を逃してしまえば魔道に堕ちたままで、師傅 (師匠)の言葉に違う事になります。もう一度、機を見て降伏する様に説き伏せて見せます」
宋江は嘆息し、腹が減っては戦はできぬと、食事を摂って兵馬を休めた。宋江は、捕らわれた李逵ら義兄弟達の安否が気になって仕方が無かった。そして公孫勝には申し訳ないが、李逵達に万が一の事があれば、喬冽は絶対に生かしてはおけないと腹を決めていた。




