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転生したら、どうやら水滸伝の世界に迷い込んだみたいです  作者: 奈津輝としか


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第49話 幻魔君vs.混世魔王

 宋江は命からがら逃げた。喬冽は、宋江を救ったのは羅真人だと思っていたが、実際は九天玄女であった。宋江には九天玄女の加護があった。


 宋江らが逃げていると、正面に兵馬が見えた。目を()らすと、呉用と王英が1万騎を率いて援軍に来ていた。


「助かった。さすが賢弟だ。どうしてここに?」


 宋江が呉用に問うと「相手は妖術使い。こちらも使えなければ苦戦すると考えまして…」と呉用が言うと、樊瑞が後ろから顔を見せた。公孫勝もこちらに向かっていると言う。宋江は喬冽の為に敗戦し、多くの捕虜を出したと報告した。


 「そうですか。位尊戊己(いそんぼき)は、土神ですね。大哥(ダーグゥア)(宋江の事)には九天玄女の加護があり、位尊戊己(いそんぼき)は九天玄女の眷属で、兄貴の忠義に感動して助けてくれたのでしょう。土は()く水に()つなり、です」


 土が水に勝つとは、もちろん陰陽五行説に(もと)づいた考え方である。宋江は窮地に陥った時、何度も九天玄女に助けられた。思い起こせば、初めは高廉の妖術に翻弄された時からであった。あの時も、九天玄女に授けられた三巻の書によって救われたのだ。



 喬冽は、捕えた李逵、鮑旭、李袞、項充、魯智深、武松、劉唐の7人を捕虜としたが、首領である宋江を逃して悔しがった。


「逃した魚は大きい。だが…」


 喬冽は捕虜とした魯智深達を殺さず、宋江を釣る為の餌にした。


「お前達は、生かしておいてやろう。宋江を釣る為の餌としてな。宋江を捕らえたら、共に首を()ねようぞ。ははははは。それとも、大人しく晋国に降るか?」


「けっ!オイラ達は、死んだって寝返ったりなんかしねぇ」


 李逵が真っ直ぐな瞳で訴えた。心の底から、宋江とやらの男を信じているのだろう。純粋に1人の男に惚れ込んで、信じて付いている目だ。嫌な目だと喬冽は思った。かつての自分も、あの様な真っ直ぐな瞳で人を信じ、世を信じた。


「違う、そうでは無い」


 自分も信じた人間もこの世も、そうでは無かったのだ。喬冽は李逵に、かつての自分の姿を見た。そして、この男が信じるものは、全くの出鱈目(でたらめ)だと教えたくなった。


「…面白い。李逵よ、そこまで仲間を信じられるなら、命を賭ける事など容易(たやす)いだろう。人が信じられぬこの私に、人を信じる力を見せてくれ」


 そう言うと、李逵以外の仲間達を断頭台(ギロチン)にかけて李逵を縛り、1つに結んだ縄の先を李逵に(くわ)えさせた。


「分かるな?お前が口を開けて(くわ)えた縄を離せば、仲間達は死ぬ。お前のせいでな?」


「ぐぐがっ」


「板打ちなどすれば、簡単に口を開けて仲間を殺してしまうだろう?それでは面白く無い。宋江がお前達を救いに来るまで、このままでいるが良い。これから李逵は飲まず食わずの上に、寝る事も出来ない。ははは、いつまで耐えられるかな?李逵が力尽きた時、お前達が全員死ぬ時だ」


 喬冽はそう言い残すと、その場を立ち去った。


「李逵、頑張れ!必ず兄者は救いに来る!」


「そうだ、踏ん張れ!」


 李逵は縄を(くわ)えて、ヨダレを垂らしながら言葉にならない言葉を発して、それに応えた。


 喬冽が李逵ら捕虜の前から姿を外すと、斥候が駆け寄って来た。


「宋軍が現れました!」


「何っ!?」


 早過ぎると思った。宋江の奴は、命からがら逃げたばかりだ。己の命も(かえり)みず、馬鹿なのかお人好しなのか。恐らくその両方だと思いながら喬冽は、李逵の様な純朴な男が惚れ込みそうだと思った。それを(うらや)ましく思う自分に気付いた。


「私は、魔道に()ちた身。もう、何もかも遅いのだ…」


 李逵が見せてくれた。人は捨てた物では無いと。もう一度、人を信じられるかも知れないと思って首を振り、考えを否定した。


 喬冽は城門を開き、梁山泊軍の前に対峙した。


「宋江、血迷うたか!宋軍の中に、我が強大なる神通力を破れる者がいるか!?」


 すると道士風である男が1人現れ、馬上で剣を抜いてぶつぶつと呪文を唱え始めた。狂風が吹き、砂を巻き上げて石を飛ばし、空が暗くなったかと思うと、人馬に乗った妖魔の軍団が晋軍を襲った。


「ははははは。この程度の術で、この幻魔君と争おうなどとは片腹痛いわ」


 喬冽もまた、剣を抜いて天に掲げて呪文を唱えた。突如激しく雷鳴が轟き、轟音が鳴り響いた。そして空を割って、無数の天将が神兵を率いて宋軍を襲った。梁山泊軍は驚いて逃げ惑い、馬が暴れて大混乱となり戦どころでは無くなった。四偏将を率いて喬冽は梁山泊軍に突入して蹴散らし、道士の姿を追った。


 道士は樊瑞であった。道術が破られ、突入して来た喬冽の強さは、道士の強さのそれでは無かった。一流の武芸者に匹敵する事は、一目で分かるほどの強さを誇った。


「なんと凄い男だ。これは林冲で無ければ、(かな)う相手では無い」


 樊瑞は逃げに逃げた。死に物狂いで逃げた。逃げながらも術を繰り出して抵抗したが、(ことごと)く破られた。喬冽は執拗に自分を追って来た。戦場に()いて道士は、武力でどうにかなる相手では無く、厄介な存在であるからだ。


 喬冽が樊瑞を追っていると、黒雲から後光が差し込んで何かが現れ、喬冽の神兵、天将が霧散して消えた。


「おおぉ!!何奴!?」


 喬冽は神兵法が破られ、髪を抜いて再び呪文を唱えて神水法を使った。水柱が5本も吹き上がり、それらが互いに絡まって1つとなると龍の姿に変化した。するとまたもや黒雲が割れ、黄袍の神将が現れて水龍を滅した。


「信じられん!」


 喬冽は術を破られて驚き、動揺している所へ梁山泊軍に攻め立てられて潰走した。無敵であると思っていた術を破られて恥入り、顔を真っ赤にして項垂(うなだ)れた。



「さすがは先生です」


 梁山泊軍に逆転勝利を与えた男を、宋江は先生と呼んだ。先生と呼ばれた者は、松紋古定剣を無言で鞘に収めた。


「今回勝てたのは相手が油断していた為で、あの男は我が兄弟子であり、その法力は私と同等かそれ以上。次は私も勝てるかどうか分かりません」


 宋江に先生と呼ばれた者は、公孫勝であった。水滸伝に()けるファンタジー色濃厚の妖術合戦は、次回。

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