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第九十八話:響け!伝説の旋律!聖域に響く歌姫たちのハーモニー!

館に響く歌姫たちのハーモニー!

寝起きを邪魔されて激昂しかけたハルだったが、歌声を聞いて意外な反応を見せる……。ハルと奏多の絆が試される回!

朝日が昇りきった聖域の館は、それぞれの役目を果たす住人たちで活気に満ちていた。

書物庫では、シルヴィアが分厚い魔導書を読み耽り、古の叡智と現在の状況を照らし合わせている。エリスは館の執務室で、愛用の魔道具を操作し、上司であるガルス騎士団長に向けて長文の活動報告を送信していた。聖域の平穏を報告しつつ、同時に「侵入者」の報告を怠らない彼女の職務に対する忠実さは相変わらずだ。そして中庭では、ヴィオラがルミナのサポートを受けながら、シオヤアブの驚異的な跳躍力と捕食行動について熱心にメモを取っている。

そんな平和な聖域の空気を、ふいに高らかな旋律が切り裂いた。

館のバルコニーで、リリアとエルーラが歌の練習を始めたのだ。

二人が声を合わせると、館の敷地全体が共鳴するような不思議な魔力が満ちていく。風が心地よく吹き抜け、庭の植物たちがその音色に応えるように花開く。まさに「伝説の聖女」の旋律を受け継ぐ者たちの調べだった。

しかし、その荘厳なハーモニーは、裏庭で深い眠りについていたハルを叩き起こしてしまった。

「……ガウゥ……!」

ハルが巨大な眼を開き、鋭い牙を剥き出しにして唸り声を上げる。寝起きを邪魔された不快感と、本能的な「縄張りへの異分子」に対する警戒心が混ざり合い、彼女の身体から凄まじい熱量――ドラゴンの吐息の予兆――が溢れ出た。

彼女が立ち上がり、その巨大な翼を広げると、館全体が影に覆われる。

「危ない! 二人とも、歌を止めて!」

俺が叫ぼうとしたその時だった。ハルの鋭い眼光が、バルコニーで懸命に歌い続けるリリアとエルーラの姿を捉えた。

ハルの喉元で「ドォォォ」と鳴るような唸り声が消えていく。

その光景を見て、俺は一ヶ月半前の記憶を鮮明に思い出した。

あれは、俺がこの館の主となり、まだ数日が経過した頃だった。

深い森の奥で、まだ幼体だったハルが瀕死の状態で倒れていたのだ。全身が傷だらけで、人間を憎むかのような濁った瞳で俺を睨みつけていたっけ。俺はただ、動物園の飼育員だった母親から教わった「怪我をした獣への接し方」を実践し、毎日泥水の中を這いずり回って治療を続けた。

心を開いてくれたあの日、彼女は俺の掌に初めてその冷たい鼻先を押し当ててくれた。

成長した今、ハルはこの館を「自分の縄張り」として守ってくれている。俺やこの館の仲間たちは、彼女にとって「家族」であり、決して牙を向くべき相手ではないことを、彼女は深く理解しているのだ。

ハルは、歌声に込められた「敵意のなさ」を感じ取ったのか、激昂しかけた身体を震わせながら、必死に我慢していた。

巨大な頭をバルコニーの方へ向け、耳を澄ませる。彼女の瞳から殺気が消え、代わりに若いドラゴン特有の「好奇心」と「安らぎ」が宿る。

歌姫たちの旋律は、ハルの心の中にある人間への不信感すらも優しく解きほぐしていくようだった。

「……よかった。通じているんだな」

俺の呟きに、そばにいたプシューケーがふわふわと飛び跳ねる。

『……ハル、イイコ。ウタ、スキ?』

ハルはふいと俺の方を向くと、少し照れくさそうに「クルル……」と喉を鳴らした。そして、邪魔しないように静かに地面に座り込み、バルコニーの二人の歌声にじっと耳を傾け始めた。

それは、伝説のドラゴンが二人の歌姫を認め、聖域に新たなハーモニーが溶け込んだ瞬間だった。

エリスが執務室から顔を出し、呆れたように、しかし温かい表情でこちらを見る。

「……どうやら、この館の守護者は、彼女たちの歌声に降伏したようだな」

「ああ。最高の聴衆だろ?」

俺たちはバルコニーから降り注ぐ歌声に身を任せ、この騒がしくて愛おしい日常が、少しだけ特別になったのを感じていた。伝説の旋律は、今日も聖域の結界をより強固に、そしてより温かく塗り替えていく。

第九十八話、いかがでしたでしょうか。

かつて人間を拒絶したハルが、今は歌を受け入れる姿に成長を感じますね。聖域の仲間たちが少しずつ増えていく様子を温かく見守ってください!

次回:

「試される絆! ダンジョンの宝が導く、新たな魔獣の邂逅!」

お楽しみに!

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