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第九十二話:管理者の休日? エリスとヴィオラと楽しむ、聖域のティータイム!

探索班を見送り、館に残った奏多たち。

静かなティータイムの中、エリスとヴィオラに明かされる奏多の壮絶な過去。

似た者同士の絆が、今ここで結ばれる!

遠くで探索班の歌声が森の向こうへと消えていくと、聖域には再び本来の深い静寂と、葉擦れの心地よい音が戻ってきた。

館の中庭には、俺、エリス、ヴィオラ、そして館の門番として直立不動を貫くゴーレムのアイギス、それとあの不思議な浮遊幼虫プシューケーだけとなった。

広大な敷地の中、この奇妙なメンバーでのティータイムが始まった。淹れたての茶の香りが空気に混じり、少しだけ肩の力が抜ける。

そんな俺の心情を察したのか、プシューケーがプカプカと俺の周囲を漂いながら、無邪気に問いかけてくる。

『ミンナイナクナッタネ』

「ああ、そうだな。……まぁ、みんな自由だからね。彼らにも彼らなりの探求心や目的がある。こればかりは仕方ないさ」

俺がカップを口に運びながら苦笑すると、小さな幼虫は俺の表情をじっと見つめ、その触角を微かに揺らした。

『……オマエ、ジユウキライ?』

その問いは、心臓の奥底を突くように鋭かった。一瞬、言葉に詰まる。

「……さぁな。少なくとも、アイツらのせいで俺は散々な目にあったからな。人間という生き物に、心から信頼を置くことをやめていた時期は長かった」

ヴィオラがクッキーを口に運びながら、不思議そうに首を傾げる。

「なんの話? 奏多、朝からなんだか難しい顔をしてるわよ」

「あ、あぁ……なんでもない。ちょっと昔のことを思い出していただけだ」

その時、これまで黙々と紅茶を飲んでいたエリスが、カチャリとカップをソーサーに置いた。彼女の瞳が、いつになく真剣な色を帯びている。

「……もう一ヶ月になるのか。私は貴殿を監視するために騎士団から派遣されてここにいる。万が一、魔王軍の残党や刺客であれば即座に排除するという任務でね……。でも、今はこうして一緒に過ごしている。……奏多、何があったのか詳しくは知らないが、もしかしたら私たちは『似た者同士』なのかもしれないな」

俺は驚いてエリスを見つめた。あの堅物な彼女が、自分からそんなことを言うなんて。

横でヴィオラが少し気まずそうに、しかし饒舌に補足する。

「私、彼女とは子供の頃からの付き合いがある幼馴染なのよ」

「……悪縁の間違いでしょ?」

「失礼ね! 事実じゃない!」

ヴィオラは小さく溜息をつき、エリスの知られざる過去を静かに語り始めた。

エリスの両親が殺害された惨劇、そしてホームレスとして彷徨い、男たちに虐げられた日々。彼女が男性不信になった理由、そして団長ガルスに拾われた経緯。その全てを聞き終えた時、俺の中の彼女への印象が完全に塗り替えられた。

エリスは静かに視線を落とす。

「……団長様への恩と騎士道精神。それが私の全てだった。奏多を信用しなかったのも、未知の魔獣を召喚する君が、魔王軍の尖兵だと疑ったからだ。……だが、共に暮らして理解した。君は、私たちが守るべき『優しい人間』の一人だと」

「……そういうことか。似た者同士だというのは、納得だよ」

俺は覚悟を決めた。今の俺には、彼女たちに隠し事をする意味がない。

「俺もひどい人間不信でね……。かつて、俺の全てを泥で汚すような連中に囲まれていたんだ」

俺は全ての始まり、あの忌々しい修学旅行の記憶を語り始めた。クラスメイトたちの嘲笑、バスの転落事故、そして神に突き放された追放宣告。

「……死んでこの世界へ転生された時、クソッ! と思った。また同じ地獄を繰り返すのかと。だが、俺はこの場所で、かつて愛した動物たちと共に生きていくことを選んだんだ」

語り終えると、胸の奥で燻っていた何かが、灰となって消えていくような感覚があった。

プシューケーがゆっくりと俺の目の前を漂う。

『ソイツラモ、オマエトオナジコノセカイニニイルノ?』

「さぁな。興味はないが、どこかで英雄気取りで活躍してるんじゃないか? 転生者お決まりのパターンでな」

ヴィオラが憤慨したようにピクニック用のシートを叩いた。

「ソイツら絶対に性格が悪いクズ勇者たちね! そういう奴らに限って、調子に乗った後に底なしの沼にハマって、惨めな未来しかないわ! 断言するわよ!」

彼女のあまりの剣幕に、俺は思わず吹き出した。

エリスも少しだけ口角を上げ、初めて見るような柔らかな表情で俺に頷いた。

「奏多、君の過去は決して癒えることはないかもしれない。だが、少なくともここでは君は一人じゃない」

空を見上げると、雲一つない夏空が広がっている。

かつての孤独を象徴するような暗い森の奥ではなく、今の俺には、愚痴を言い合える仲間と、温かいティータイムがある。

「……ああ。そうだな。ありがとう、二人とも」

聖域の午後は、かつてないほど穏やかに過ぎていった。

たとえ外の世界でかつてのクラスメイトたちがどんな伝説を作っていようと、俺にはここが、唯一無二の場所なんだと、改めて確信することができた。

第九十二話、いかがでしたでしょうか。

ついに語られた奏多の転生前の記憶と、エリスの知られざる過去。少し重い内容でしたが、二人の距離がぐっと縮まった回となりました。次回、再び館にトラブルの予感……?

次回:

「予期せぬ闖入者! 館の結界に迫る、未知の追跡者!」

お楽しみに!

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