第七十八話:羽ばたく孤独! エンジェル族のルカが抱える切実な願い!
突如として訪れたエンジェル族の旅商人ルカ。
彼の目的は、アヴァロン王国との取引。
しかし、その背景にはセレスティア王国を襲う深刻な飢餓と帝国の影があった。
俺たちは、伝説の種族であるエンジェル族のルカを、館の最も格式高い応接間へと案内した。純白の翼を少し窮屈そうに畳み、ルカは深々としたソファに腰を下ろす。部屋にはシルヴィアが淹れた芳醇な香りの紅茶が運ばれ、緊張と好奇心が入り混じった不思議な空気が漂っていた。
ルカは礼儀正しく一礼し、静かな、しかしどこか震える声で口を開いた。
「改めて自己紹介を。俺はルカ。天空王国として知られるセレスティア王国からやってきた旅商人だ。ついでに、まさかアヴァロン王国の商人の皆様とお会いできて光栄です。早速本題ですが……我々エンジェル族と、そちらのアヴァロン王国との取引がしたい」
ゼノは驚きに目を見開き、少し狼狽した様子で返した。
「き、急な話ですな……。我々としてもエンジェル族との取引は悲願ではありますが」
ルカは苦笑を浮かべ、少し視線を外す。
「……ついでなので、そちらの館の皆様……詳しい事情はまだ知りませんが、せっかくなのでご挨拶をしにまいりました」
「あぁ、よろしくね」と俺が微笑むと、エリスがその表情を険しくして問い詰めた。
「どうしてあなたのような立場の方が、わざわざこのデンジャラスフォレストのような危険な森へ来たのだ? 単なる旅商人が通る道ではないはずだ」
ヴィオラも手元の古文書を確認しながら、警戒を解かない。
「本で読んだ情報によれば、あなた方は自分たちの種族に多大な誇りを持っており、プライドが高く、人間と関わろうとしないと聞きます。むしろ長い歴史の中では、他の種族の国を植民地として支配していたとも……」
ルカはその言葉を聞くと、深い溜息をついて天を仰いだ。その姿には、かつての支配者としての威厳ではなく、疲れ切った旅人の哀愁が漂っていた。
「……それは、もうとっくに古い話だ。確かに歴史の記述としては正しいのかもしれない。だが、今は違う。帝国が狂ったような科学技術を極めてしまい、その力は魔王軍をも凌駕する脅威となっているからだ。かつて我々にとって、誇り高き天空の民であることは絶対的な正義だった……はずだったんだ」
俺はルカの瞳をまっすぐに見つめ、核心を突いた。
「……何かあったんですか? セレスティア王国で」
ルカは、まるで喉に詰まった棘を吐き出すように語り始めた。
「……我々は今、地獄以上の苦しみを受けている。特に深刻なのが、食料だ。数年前から原因不明の流行病が天空王国を襲い、不作が続いている。しかも魔王軍との戦いに加え、現在は帝国の領空侵犯と魔導兵器の脅威に晒されているんだ」
ルカはそこで言葉を切り、少しだけ期待を込めた眼差しでアヴァロン王国のゼノを見つめた。
「……確か、アヴァロン王国は、この世界に存在する多くの王国の中でも、特に農業で生産される穀物や野菜の品質と生産量は世界一であると聞いていた。その食料を、我々に譲ってほしいんだ」
ルカの切実な訴えに、俺はふと疑問を抱いた。
「……もしかして、エンジェル族って、肉は食べないんですか?」
俺の問いかけに、ルカは静かに頷く。
「その通りだ。我々は全ての魔物の肉が食べられない種族……体質的に受け付けないんだ。人間達は我々を気取った菜食主義の種族として認識しているようだがな。実際には、選り好みをしているわけではない。我々の身体は、大地から直接育った穀物や果実の純粋な魔力しか吸収できないんだよ」
その言葉を聞き、館の者たちは沈黙した。彼らは単にプライドが高いだけの種族ではない。環境の激変と、帝国による封鎖によって、種の存続そのものが脅かされているのだ。
「……ゼノ、どう思う?」
俺が商人団の代表に尋ねると、ゼノは厳しい顔で腕を組んだ。
「……穀物は世界一。それは誇りですが、天空への輸送は容易ではありません。だが、この聖域を中継拠点にすれば……あるいは」
ルカの切実な願いは、ただの交易以上の意味を持っていた。それは、誇り高き空の民が地上の友を求め、共に生き抜こうとする「絆」の始まりなのかもしれない。俺は決意を固め、この申し出を全面的にバックアップすることを心に誓った。
第七十八話、いかがでしたでしょうか。
エンジェル族が肉を食べられないという秘密、興味深いですよね。飢えに苦しむ彼らを救うために、奏多たちはどのように動くのでしょうか。
次回、輸送作戦の準備が始まる!
次回:
「空の絆をつなげ! 聖域からセレスティアへ、食料輸送計画始動!」
お楽しみに!




