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第七十七話:予期せぬ訪問者! 聖域の門を叩く、謎の旅商人

平穏な聖域に、突如として降り立った異邦人。

それは伝説の種族、エンジェル族の旅商人だった。

彼がこの森に迷い込んだ目的とは? そして、彼が語る世界の現状とは……!

ハルのために造り上げた極上の寝床が完成してから数日が経過した。聖域はかつてないほどの平穏に包まれており、ハルは今日も高台の巣で陽だまりを浴びながら、夢見心地で昼寝をしていた。

しかし、聖域を囲む世界は決して穏やかではない。

上空数千メートル。雲間を縫うようにして、一人の旅人が空を飛んでいた。その背中には、純白の羽が優雅に広がり、陽光を反射して輝いている。エンジェル族の謎の旅商人、その名はルカ。彼は長距離の旅で疲れ切った翼を羽ばたかせながら、下界を俯瞰していた。

「……ふう、ようやく辿り着いたか。この森さえ突破できれば、目的地であるアヴァロン王国はすぐそこだ。反対側にはエリュシオン王国があるはずだが……」

ルカは悲痛な表情で眼下を見下ろした。かつて栄華を極めたアルカディア王国は、今や帝国の支配下にあり、灰色の空の下で喘いでいる。

「悲惨だな……あのアルカディアが帝国の蹂躙に屈するとは。この森は四つの巨大勢力に囲まれている。アヴァロン王国、エリュシオン王国、アルカディア王国、そしてあの険しき山岳地帯を支配するドワーフの王国『ガルドランディア』……。今の俺の故郷である天空王国『セレスティア』も、帝国の科学技術による脅威に怯えている始末だ。……いっそ魔王軍の方がマシな統治をするのではないか、とさえ思えてくる」

ルカがため息をつき、翼を休めようと視線を落としたとき、彼は目を疑った。深い森の奥、地図には載っていないはずの場所に、凛とした佇まいの美しい館が鎮座していたからだ。

「……ん? あの館は一体何だ? この森に住む者などいないはずでは……誰か住んでいるのか?」

その頃、聖域の庭では、俺がのんびりと剪定鋏を手に取っていた。

平和な日常というのはいいものだ。だが、ふと空を見上げた俺の直感が、何かを告げた。

「……ん?」

背後からは、ルミナが溜息をつきながら戻ってきた。どうやらオオスズメバチのバチたちと、ミツバチのビーたちの間で、今日もまた陣地争いが勃発したらしい。この二種族は、現世の常識通り、顔を合わせればすぐに喧嘩を始めてしまうのだ。

「奏多様、またバチたちとビーたちが喧嘩を……。どちらが花粉を集める権利があるかで揉めていて。本当に仲が悪いですね」

ルミナが苦笑いしたその時、聖域の警備システムがけたたましい音を立てた。アイギスの無機質な声が響く。

「……空からの侵入者を確認。魔力反応は極めて低く、敵意は感じられません。しかし、エンジェル族の種族特性を示しています」

「エンジェル族……だと!?」

俺とルミナは顔を見合わせた。一方、聖域の門の付近では、エリスが、一足先にその訪問者を見つけていた。彼女は空を見上げ、驚きに目を見開く。

「よく来たな。アヴァロン王国の商人団か……久しぶりだ。またこの聖域を中間拠点として利用するつもりか?」

エリスの視線の先には、ゼノ率いる商人ギルドの代表が率いる商人たちの姿があった。ゼノはエリスの顔を見て、親しげに笑みを浮かべる。

「やあ、エリス殿! また会いましたね。今回もエリュシオン王国への交易品を運ぶため、この森の通り道を使わせてもらおうと……ん? どうしました? なぜそんなに驚いた顔を……」

エリスはゼノの言葉を遮り、空を指差した。

「……アレを見ろ、ゼノ! あれはエンジェル族だ!」

「な、何!? ……本当だ!! まさか、あの希少な種族がなぜこんな辺境に……!」

その騒ぎを聞きつけ、書斎の窓から身を乗り出したシルヴィアが、興味深そうに扇子で口元を隠した。

「あらあら、珍しいわね。あの翼、本物のセレスティアの民かしら?」

庭でヘラクレスオオカブトのヘラクレスを観察中だったヴィオラも、手を止めて空を見上げる。

「エンジェル族がここへ来るなんて……生で見るのは初めてだわ! どんな魔力構造をしているのかしら……!」

ルカがゆっくりと館の庭へと着地する。彼の背に広がる純白の羽が、風に煽られて静かに収束した。その神秘的な姿に、聖域の住人たちが思わず言葉を失う。

「……旅の途中で迷い込んだ者だが、この館の主に会わせてもらえないか?」

ルカは礼儀正しく頭を下げた。彼の瞳には、帝国への恐怖や焦りだけではない、深い悲しみと、何かを探し求める切実な光が宿っていた。

俺は剪定鋏を置き、ゆっくりと彼の方へ歩み寄った。ここから、また新たな風がこの館に吹き込もうとしている――そんな予感が、俺の胸の中で静かに波打っていた。

第七十七話、いかがでしたでしょうか。

ついにエンジェル族が登場! 奏多の聖域に新たな交流が始まりますね。アヴァロン王国の商人たちとの関係性も、物語の幅を広げそうです。

次回、ルカが語るエンジェル族の危機とは?

次回:

「羽ばたく孤独! エンジェル族のルカが抱える切実な願い!」

お楽しみに!

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