第七十五話:聖域の朝、平和なひととき! 奏多と相棒たちの穏やかな日常
激戦の翌日、聖域に平和な朝が訪れた。
エリスは犬たちの散歩係、ヴィオラは生態調査、そしてシルヴィアは読書三昧。
奏多は、大きく成長したハルに最高の寝床をプレゼントするべく動く!
宴が終わり、深夜の聖域は深い静寂に包まれていた。騎士たちの拠り所となる庭の広場では、宴の余韻を残したまま騎士たちが所構わず爆睡しており、イビキの大合唱が聞こえてくる。
館の廊下では、騎士団長ガルスがふらつく足取りでトイレへと向かい、どうやら飲みすぎたのか、そこで激しく嘔吐する音が響いていた。
「……みんな、騒ぎすぎたな。明日は全員、二日酔いで使い物にならないんじゃないか?」
俺が苦笑いしながら呟くと、傍らにいたルミナが、スヤスヤと眠りについた騎士を慎重に跨ぎながら、困ったように微笑んだ。
「そうですね……でも、これほど心から楽しそうな彼らを見るのは、私も初めてです。奏多さんがここに住む皆を繋いでくれたおかげですよ」
その時、背後からシルヴィアがふわりと歩み寄り、俺の耳元で甘い吐息を漏らした。
「ねぇ、奏多? 今夜は戦いの疲れも溜まっているでしょうし……私と一緒に、ここで寝る?」
俺が「えっ!?」と顔を真っ赤にして固まっていると、背後からルミナの鋭い殺気を感じた。
「……ダメですっ!!」
静かな夜の廊下に、ルミナの激しい抗議の声が響き渡った。
翌朝。聖域に爽やかな朝日が差し込む。
ガルス騎士団長は、二日酔いで頭を抱えながらも、王国へ帰還する前に森にある常駐拠点にて騎士たち全員を集め、緊急のブリーフィングを行っていた。
「聞け! 今回の戦闘における報告と、今後の防衛ラインの再構築についてミーティングを行う! ……頭が割れるように痛いが、ここが踏ん張りどころだ。気合で耐えろ!」
そんな騎士団の喧騒とは裏腹に、館の周囲では平和な日常が戻っていた。
「待て、レオ! そんなに引っ張らないでってば!! なんで私までこんな朝っぱらから散歩に……!」
エリスがレオとルナたち狼の群れに引きずり回され、森の中を駆け回る悲鳴が聞こえる。一方、ヴィオラはというと、森の巨大樹の上でレイたちカラスの群れを双眼鏡で追いかけ、その生態調査に朝から没頭していた。
シルヴィアは約束通り、あの「賢者の書斎」に引きこもり、積まれた古文書の山に埋もれていた。日本語の文字が記された手記の解読は難航しているが、そこに付随するこの世界の歴史が刻まれた文献には、彼女の知的好奇心を刺激する情報が溢れているようだ。
そんな中、俺はある決断を下した。
ハルの寝床のことだ。
今までハルは館の広々としたフロアで眠っていたが、幼体から成長して若い個体となった今の彼には、館内はあまりに手狭になっていた。寝返りを打つたびに床が軋み、たまに漏れる火炎で絨毯が焦げそうになる。
「ルミナ、ドラゴン系の魔物って、寝床への執着が強いのか?」
俺が尋ねると、ルミナは頷いた。
「はい。文献にそう書かれていました。ドラゴンは自分だけの安息地――寝床を一度決めると、たとえ遠くへ狩りに出かけても必ずそこへ帰る、強い帰巣本能があるそうです。彼らにとっての寝床は、単なる休息場所ではなく、アイデンティティの一部なんですよ」
マーリドも光の精霊としての姿を保ちながら、優雅に宙を舞う。
『フッ、その通りだ。ハルが気に入るような、風通しが良く、それでいて魔力の溜まりやすい場所を見繕うといい。拡張されたこの広大な敷地なら、伝説の龍に相応しい寝床も作れよう』
俺は敷地の北側に広がる、岩場と大樹が組み合わさった高台を選んだ。ここなら館全体を見渡せるし、ハルにとっても居心地が良さそうだ。
俺は館の防衛を一手に担うゴーレム、アイギスを呼んだ。
「アイギス、頼みがある。ハルのために、この場所にドラゴンの寝床を造り上げたい。設計は、ハルが一番落ち着けるようにしたいんだ」
アイギスは無骨な金属音を立てて跪き、深々と頭を下げた。
「御意。伝説の龍が安らぎを得る場所……このアイギス、総力を挙げて構築いたします」
アイギスが巨大な両手を大地につくと、地鳴りとともに岩盤が盛り上がり、ハルの体格に合わせた巨大な巣が形作られていく。それは単なる寝床ではなく、周囲の魔力を自然と循環させる魔導の装置としての機能も兼ね備えていた。
平和なひととき。騎士団の騒がしいミーティングも、エリスの散歩の悲鳴も、全てがこの聖域の営みとして愛おしく感じられた。俺は、これらを守り続けることの重さと喜びを噛み締めていた。
第七十五話、いかがでしたでしょうか。
戦いの後の穏やかな日常。こういう時間が、キャラクターたちの絆を深めますよね。アイギスが造り上げる「ハルの寝床」が完成した時、ハルはどんな反応をするのか……。
次回、いよいよ寝床がお披露目!
次回:
「伝説の龍の安息地! ハル、最高の寝床にご満悦!」
お楽しみに!




