第六十九話:書物に書かれた真実
明かされた賢者の正体。それは「黄金郷」という名を持つ、日本からの転生者だった!
さらにシルヴィアの告白により、館の住人たちの過去が繋がり始める。
帝国への復讐と、賢者が遺した「楔」の真実とは?
俺は震える指先で、日本語で記された手記のページをめくった。紙の質感は年月を経て脆くなっていたが、そこに綴られた文字は現代の俺たちが使うものと何ら変わらない。
『……我は警告する。管理者よ、この館に眠る知識は希望ではない。それは、世界を創り変えるための「楔」である。かつて我もまた、異界より流れ着きし者。汝が手に持つその言語を知る者が現れし時、館の真なる封印が解かれる。その時、管理者よ、汝は「守護者」となるか、「支配者」となるか――その選択の時が来る。すべてを失う覚悟なき者に、管理者の資格なし』
「これは……俺のような管理者への警告メッセージなのか?」
俺の呟きに、肩に浮かぶマーリドが光の粒子を揺らしながら静かに頷いた。
『そのようだな。私もその字の配列には見覚えがある。先代よりもずっと前……さらに前の契約者も、ある遺跡で同じ形式の文字を解読したという記録がある。どうやら、異界から来た者は時折この世界に迷い込み、足跡を残しているようだ。お前にしか読めぬなら、そのまま読み解いてみろ』
「わかった……」
俺は深呼吸をして、先へと読み進めた。ページを繰るたびに、この館の、そして伝説の賢者エルドラドの隠された真実が浮かび上がってくる。
賢者エルドラド。彼は今から数千年前、この世界に初めて迷い込んだ5人の「転生者」のうちの一人だった。彼が持っていたのは、あらゆる魔法を自在に行使できるという、まさに「チート」と呼ぶべき特殊能力。
手記によれば、彼がこの世界で「エルドラド・ルシファー」という名で知られるようになったのは、ずっと後のことだ。彼は本来、王族の血筋などではない。ただの異界人であり、彼が危機から救い出した王国のお姫様と結ばれたことで、その栄光ある姓を授かったのだという。
そして、彼が真に隠したかった「本名」。
そこには、こう記されていた。
――本名:「黄金 郷」
「黄金郷……エルドラドか。日本語の名前をそのまま異世界風に訳しただけだったんだな……」
彼がこの聖域の地を選び、館を建てたのは、愛する王国を魔物たちの侵攻から守るための防波堤だった。デンジャラスフォレストを魔物の通り道から遮断する「楔」として、彼はその一生をこの館の維持に捧げたのだ。
その時、横から覗き込んでいたシルヴィアが、手記の一節を見て息を呑んだ。
「ルシファー……? まさか、運命なのね……。奏多、実は……私の本名は「シルヴィア・ルシファー」なの」
「なんだって!?」
シルヴィアの告白に、全員が凍りついた。彼女は悲しげな微笑みを浮かべ、遠い過去を語り始めた。
「数百年前、私の故郷である『神聖エデン王国』は、あの忌々しい帝国軍によって滅ぼされた。私はその末裔よ。一族の歴史と、あの賢者の足跡を知ること……それが私に課せられた宿命なの」
ルミナが目を見開く。
「そんな……あなたが、あの伝説のルシファー家の生き残りだったなんて……」
ヴィオラも愕然とした様子だ。「どうして黙っていたのよ! あなたがそんな重い過去を背負っていたなんて!」
「帝国軍に狙われないようにするためよ」と、シルヴィアは静かに答える。「一族の名を捨てて旅をすることで、私は生き延びた」
その言葉を聞き、ルミナはどこか寂しげに自分の手を握りしめた。
「……私と同じですね。もう一ヶ月になるのかな……。私の故郷、アルカディア王国が帝国に滅ぼされ、私は魔女の血を引いているという理由だけで、帝国から狙われていたんです。私を利用するために……。だから私は、ここへ住むことになったのです」
「そうだったな……ルミナ」
エリスがルミナの肩に手を置き、悔しそうに歯を噛みしめる。
「ルミナ姫……本当にごめんなさい。同盟国として、あなたの国を助けられなかった。陛下も今も、ずっとあなたを心配していたわ」
部屋の中は重い沈黙に包まれた。日本語で書かれた賢者の手記が繋いだのは、かつての伝説だけではない。ここに集った者たちの、失われた故郷と、帝国に対する共通の因縁だった。
俺は改めて、手記の続きに目を向ける。そこには、帝国が探している「12の魔神」の真実と、この館が秘めた恐るべき力の詳細が記されていた。転生者たちが遺したこの知恵は、果たしてこの世界を救うのか、それとも破滅へ導くのか。
「……ここから先は、もっと重い事実が書かれているみたいだ」
俺の覚悟が試されている。この館の管理者として、俺は守護者になるのか、それとも支配者となるのか。その選択の刻が、確実に近づいていることを俺は理解した。
第六十九話、いかがでしたでしょうか。
壮大な秘密が少しずつ解き明かされてきましたね。シルヴィアとルミナの過去、そして賢者の正体。物語はこれからますます加速していきます!
次回、帝国軍の追っ手が聖域に迫る!?
次回:
「聖域への侵攻! 帝国軍の影と、ルミナの決意!」
お楽しみに!




