第五十八話:管理者の休息! ルミナの献身的な添い寝看病にドキリ!
魔王軍との激闘を終え、休息をとる奏多。
しかし、館の日常は今日も騒がしい!?
エリスによるヴィオラへのお説教が館を揺らす中、ルミナが奏多の部屋を訪れる。
そして訪れる、まさかの添い寝看病! 管理者のドキドキが止まらない!
扉が勢いよく開く音と共に、エリスが部屋へと踏み込んできた。その凛とした表情は、先ほどまでの激戦の余韻を微塵も感じさせないほどに毅然としている。
「やっと目覚めたか、奏多! マーリドから一部始終を聞いた。魔力の枯渇……無理をしすぎだ。私はこの館の警備と監視を任されている以上、今回の『魔王軍幹部討伐』の件は王国へ正確に報告させてもらう。……まあ、私が立会人として詳細を記すのだから、君は何も心配せず、今は全快することだけを考えろ。……よし、私の役目はここまでだ。今からあの『好奇心の塊』であるヴィオラに、騎士団流の鉄拳制裁、いや、厳しいお説教を叩き込んでくる。失礼する!」
エリスは踵を返し、足早に部屋を飛び出していった。その去り際、彼女の瞳が一瞬だけ安堵に揺れたのを、俺は見逃さなかった。彼女なりに、俺の無事を心底喜んでくれているのだろう。
静まり返った部屋で、俺は再び天井を仰ぐ。……しばらくして、また扉が開いた。
今度は音もなく、そっと静かに。
「……奏多様、お加減はいかがですか?」
ルミナだった。彼女は慈愛に満ちた柔らかな微笑みを浮かべ、俺のベッドサイドへ近づいてくる。その仕草には、まるで壊れ物を扱うような繊細さがあった。
「あ、あぁ……なんとか。心配をかけてすまない、ルミナ」
その時、階下からエリスの剣幕を帯びた怒声が響いてきた。
「ヴィオラァッ!!!! いくら動物の戦闘スタイルを観測したいからって、戦場へ勝手に飛び出すとは何事だ!! 相手は魔王軍の幹部クラスなんだぞ!? もし貴殿が不慮の死を遂げたら、どう責任を取るつもりだ!?」
「でもでも!! ちゃんと生態を記録しないと、この聖域の防衛データが完成しないのよ!? 今回だって、キングたちの咆哮の周波数からゴングのドラミングの衝撃波まで、素晴らしいデータが得られたのよ!?」
「はぁ……はぁ……。どうやら貴殿も、今日から私の厳しい『監視の対象』に加える必要がありそうだな。私からの許しを得るまで、館から一歩も出るな、謹慎だ!!」
「いやだ!! それは研究者として死を意味するのよーー!!」
下からは大騒ぎの喧騒が聞こえてくるが、俺の意識は今、目の前のルミナに釘付けになっていた。彼女はエリスの怒号など聞こえていないかのように、俺のベッドの空いたスペースに、何の迷いもなく腰を下ろしたのだ。
「……!?」
心臓が跳ね上がった。ルミナがそのまま、俺の隣で身体を横たえ、添い寝の姿勢をとったからだ。俺の脳裏に、かつての苦い記憶がフラッシュバックする。
現世で、幼馴染の佐藤蓮と初恋の人・高橋凛に、俺の動物好きを笑いものにされていた光景。
「お前さ、そんな動物なんてのと遊んでないで、もっとマシな趣味持てよ(笑)」
「ほんと、奏多っていつも一人で犬と話しててキモいよね」
そう笑い飛ばされた日々。俺はいつしか、女性という存在に心を閉ざし、動物だけが唯一の心の拠り所となっていた。
それなのに、今、この異世界で……。
ルミナは静かに俺の胸に頭を預け、温かな体温を伝えてくる。彼女の髪からは、森の精霊のような甘く柔らかな香りがした。
「……ずっと、傍にいます。奏多様が、また元気に笑えるまで。……一人で戦わせたりなんて、もうさせませんから」
(夢か? いや、夢じゃない……。こんなに温かい。こんなに優しい……)
ルミナは俺と同い年くらいだろうか。エリスやヴィオラよりも少し年下に見える、あどけない少女の献身。俺は生まれてこの方、一度も異性とこんなに近づいたことがない。現世での陰キャな日々、自己嫌悪、女性不信……それら全てが、彼女の純粋な温もりの前では、霧のように溶けていく。
彼女の心音と俺の心音。二つのリズムが重なり、部屋の静寂を満たしていく。
この世界は過酷で、魔王軍という脅威がある。だが、今この瞬間だけは、俺は「管理者」ではなく、ただの守られる側の一人の人間として、この安らぎを貪ってもいいのかもしれない。
俺は震える手をゆっくりと動かし、ルミナの背中にそっと添えた。彼女はそれに反応するように、少しだけ俺の胸元に顔をすり寄せてきた。彼女の体温が、止まっていた俺の時間を、少しずつ動かしていくのを感じる。
(もし、これが夢なら……一生覚めないでくれ)
俺はそう願いながら、ルミナの体温に包まれて、再び深い眠りへと落ちていった。エリスとヴィオラの言い争いさえも、今の俺には遠い世界の出来事のように感じられた。管理者としての重責も、今日だけは忘れてもいいだろう。
第五十八話、いかがでしたでしょうか。
ルミナの健気な看病、奏多にとっては何よりの特効薬ですね! 異世界での生活に少しずつ絆が芽生えていく様子、見守っていきたいものです。
次回、看病を終えた奏多を待つ「次なる展開」とは?
次回:
「管理者の復帰! 新たな召喚、水棲の守護者たち!」
お楽しみに!




